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第116話 渡りに魔術師


「──ですので、休止期間が一年を過ぎますと、ランクは降格処分になります。再度上げるには魔石の納品か依頼の達成をお願いします」



 朝、冒険者ギルドに訪れたエストは、目の前に立つ受付嬢から耳を疑う言葉が発せられ、しばらく固まってしまった。



「えっと、他の街では普通に使えたんだけど」


「失効期間には至っていませんので」


「今の僕のランクは……」


「二年休止で二つ降格ですので、Dランクですね」


「……ダンジョン行ってくる」



 寝耳に水である。

 ジオの元で修行している間、指名依頼が来ないように配慮はされていたものの、降格処分は生きていた。

 まさかBランクからDランクまで落とされるとは思っておらず、こんなことなら定期的に魔石を納品させてもらっておけばと拳をつくった。


 その近くでは、これから依頼に行くであろうパーティや仕事から帰ってきた冒険者が騒いでおり、悲しい温度差に乾いた息を吐く。



「おい、そこの魔術師っぽいやつ。今いいか?」


「……僕? いいけど」



 これからリザードマンの乱獲に行こうという時に、騒いでいたパーティに声をかけられた。

 突然の降格処分にショックを受けていたエストが向かうと、男女二人ずつで構成された中堅冒険者パーティが座っていた。


 声をかけたのはリーダー格の剣士の男。

 エストが見た限り、もう一人の男が戦士、女性二人が弓使いと治癒士だった。


 金髪が目立つ淑女な治癒士と目が合うと、ぽっと顔を赤くして見つめ返されたエストは首を傾げて聞く。



「何かな? 時間には余裕があるよ」


「……あ〜、試しにパーティに入らないか?」


「断るよ。既に組んでるし」


「そうなのか? 連れの仲間は?」


「別の依頼に行ってる」


「……それ、パーティなら一緒に受けるだろ」


「ちょっとした事情でね。それで、話は終わり? だったら僕は行くけど」



 さっさと切り上げてリザードマンを狩りまくろうと思っていると、先程目が合った治癒士が慌てて立ち上がった。



「ま、待ってください! 私たちのパーティ、その、魔術師が居なくて……ボタニグラに苦戦するんです!」


「そうなんだ。可哀想だね」


「……一緒に戦ってくれませんか?」



 静謐な森の中で見つけた小さな泉のように澄んだ黄金の瞳を、上目遣いにしてエストを見つめる治癒士。

 しかし、それをエストは容赦なく──



「どうして? 別に僕じゃなくていいじゃん。理由もさっき言ったし。大体、そっちの弓使いが土の適性があるんだから、魔術の勉強をすれば済む話だよね」


「……そ、それは」


「思ったことがあるんだね。じゃあやればいい」


「魔道書を買うお金も無くて……」


「知らないよ。お金が欲しいなら頑張って稼ぐかギャンブルのどっちかだね。あ、ギャンブルの話なら乗るよ?」



 お金を失うスリルはドラゴンと戦うよりも現実感が強く、胸の内から逃げ出したくなるような感情が沸き起こる。


 今はシスティリアからギャンブル禁止令が出ているため、賭けることはできずとも楽しみ方は教えられると言うと、静かに聞いていた戦士が立ち上がった。



「女に対して容赦が無いな」


「誰に対しても同じだよ。そこまでして僕をパーティに入れても良いことは無い。面倒くさそうだし」


「最後、本音出てるぞ」


「全部本音だよ。僕は君たちと組む気が無い」



 そこまで言うと、エストとこのパーティの周りに冒険者が集まってきた。

 そのどれもが珍しい動物を見るかのような目をしており、これから起きることにワクワクしていた。



「それより、入ってほしいなら普通、自己紹介ぐらいするでしょ?」



 そんなエストの真っ当な言葉に、周りの冒険者が一様に驚きを見せた。



「まさか俺たちを知らないのか?」


「逆にどうして知っていると? 君たちみたいな人に助けられた記憶は無いし……助けた記憶も無い。誰?」


「は、ははは……一応この街では有名だと思っていたが……本当に知らないとはな」



 戦士に代わって剣士が立ち上がると、そんな言葉を呟いた。

 まるで自分たちを知っていて当然かの様子に、ますますエストの頭に疑問符が浮かぶ。


 他者に関心を持ちにくいエストにとって、ラゴッドのギルドに初めて入ったところで有名パーティなど知るわけが無い。


 寝る前にシスティリアが話していれば知っていただろうが、話さないということはその程度であること。

 ガリオやミィといった特徴が無い以上、仮に関わったとしても記憶には残らないだろう。



「俺たちは“城塞の誇り”というBランクパーティだ」


「知らない。偉業とかあるの?」


「ああ、あるぞ。俺たちは先日、たった四人でワイバーンを討伐した!!」



 その言葉に『おお!』と周囲の冒険者から声が上がるも、エストはまた首を傾げるだけだった。



「どこが偉業なの?」


「……は?」


「ワイバーンを倒したら偉業なの? それで街を救ったとかなら偉業だと思うけど。あ、もしかしてそれぞれが単独討伐したとか? だったら凄いね」



 過去に野生のワイバーンと戦った経験がある以上、あれを単独で倒したとなればエストも見る目を変えるというもの。


 しかしというか、当然か。

 ワイバーンを倒したのは四人の連携があったからであり、“渡り”の時期である今、弱ったワイバーンが迷い込んだのだった。



「お前……俺たちを煽っているのか?」


「ううん。僕、あんまり他の冒険者とか知らないから、そう聞こえたらごめんね」



 正直に価値観の違いを伝えると、エストの背後に居た冒険者の壁を割って、一人の少女が近づいた。



「あれ? エストじゃないの。どうしたの?」



 声の主は、現状最も有名と言える最年少Aランク冒険者、システィリアである。

 まさかの乱入にいっそう冒険者たちがいっそう盛り上がると、彼女はスルッとエストの背後に立ち、抱きしめるように肩の上から覗いた。


 その様子にさっきまで騒いでいた冒険者は静かになり、やけに不自然な静寂が包み込む。



「パーティに誘われたから断ってたんだ」


「ふふっ、それなら良かったわ。それで? アタシからエストを奪おうとしたのは……あぁ、城塞の誇り。アンタが入ったら壊滅するわよ」


「そこまで言う?」


「実力差を考えなさい。全員の役割をアンタが担えるのに、入る必要も無いでしょ?」


「まぁね。でもそれを言ったらシスティも同じだね。剣も魔術も、僕より丁寧に動ける」


「……もうっ」



 システィリアがエストの首筋に頬をすり付けると、城塞の誇りに対して忠告をするかのように言う。



「どうせ魔術師が欲しいとかで誘ったんでしょうけど、エストだけは誘うべき相手じゃないわ。エストはアンタたちが想像するような魔術師じゃないの。彼が魔術を使うたびに、アンタたちの自尊心や存在意義が破壊されていくわ」


「……ひどい」


「事実よ。それだけ強くなったってことを自覚しなさい。それよりアンタ、どうしてDランクのカードなんて持ってるのよ。昨日までBだったわよね?」


「二年間正規の依頼を受けてなかったから降格されちゃった。だからまた魔石納品で上げようと思って」


「そう。これ、借りるわよ」



 エストの言い分を聞いたシスティリアは、Dランクのカードを奪い取るとカウンターに向けて歩き出す。

 今までに数回しか見たことがない、システィリアの本気の怒りに一歩引く。

 きっと物凄い剣幕でまくし立てるんだろうなと思っていると、城塞の誇りたちの胸からギルド職員の声が響いた。




『ラゴッドに滞在しているBランク以上に通達します。ラゴッドと死の森の中間部にて、四体のワイバーンが着地しました。速やかに討伐に向かってください』




「よ、四体だと!?」


「……腹を括るしかないな」



 剣士と戦士が覚悟を決めた表情で顔を合わせていると、話をしていたシスティリアが帰ってきた。

 その顔にはどこか『やってやった感』が溢れており、彼女の性格上、相当な無理難題を突きつけてきたに違いない。



「エスト、アタシたちで三体倒すわよ。そうしたらアンタのランクを戻すようにって伝えてきたから」


「そんなことできるんだ。でも三体は欲張りだから、一体はシスティにあげるよ?」


「あら、じゃあアタシの剣技を見せる時ね。早くしないと取られちゃうかもだし、行きましょ!」



 システィリアが手を引き、静寂と緊張が支配する空間を抜け出した。

 ワイバーン程度、彼女だけでも対処できる問題なのだ。


 それを利用してランクを戻させようとするのは、ジオの不行き届きが招いたことだと言いたげである。



 久しぶりのシスティリアとの共闘に胸を踊らせるエストは、やはり彼女に手を引かれることが好きだと再確認した。

 彼女に手を引かれてギルドを出た時は、決まって楽しい思い出になる。


 ちょうどエストの言っていた『ワイバーンを討伐することで街を救う』という状況になってしまったが、これが運命というものか。



「あれだけ言ってくれたんだし、自尊心と存在意義を壊すような魔術で倒した方がいいのかな」



 などと呟く、エストであった。

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