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第114話 槍剣杖といつかの記憶


 システィリアと合流した一行が工房に着くと、事前に魔石を入れていた樽の中にワイバーンの魔石を入れた。

 のみとハンマーを使って砕けば、魔石は粉々になるのではなくある程度の形を保ったまま欠片となる性質があるのだが、一番の問題点があった。



「これ、どうする?」


「ちょちょちょちょっと待ちなさい。この際どこから出したかは聞かないであげるから、その馬鹿みたいに大きな魔石は何かしら?」



 炎龍の魔石を置くと、初見のシスティリアは当然の反応を示した。

 子ども一人分といった大きさの魔石など、噂にも聞いたことが無い。



「ドラゴンの魔石だね。二人で倒したんだ」


「嘘をつくな。お前一人で倒していたぞ」


「……ドラゴン? ドラゴンって何?」


「もしかしてシスティ、ドラゴンも知らないのに冒険者やってるの? しょうがない、今晩は絵本の読み聞かせでも──」



 遮るように、エストの脳天に拳骨が直撃した。



「痛い……三十層目の主魔物だったんだ。ブロフと一緒にダンジョンに入ってたんだけど、どうせなら倒しちゃおうかな〜って」


「倒しちゃおうかな〜、じゃないわよ! ドラゴンよドラゴン! アンタ、星付き冒険者になれるのよ!?」


「星付き……? それは知らないけど、とりあえず今は魔石だよ。これも砕くから、システィも手伝ってね」



 冒険者ランクにあまり関心が無いエストは、しれっと作業を始めていたブロフの手助けをするべく、氷の台座で魔石を固定した。


 まるで魔石を祀る祭壇のようになっているが、本人らはなんの躊躇いもなくのみを突き立てた。


 バンっ、と鑿の尾部をハンマーで叩いてやると、リザードマンの魔石より少し大きい欠片が取れた。


 手に取って欠片をじっくり観察したブロフは、近くにあった工具箱から適当な鑿とハンマーを取り出すと、エストに押し付けた。



「時間がかかる。手伝え」


「システィお願い。僕、手先は不器用だからやりたくない」


「……アタシの精神がもたないわよ!」


「大丈夫。何かあったらまた取りに行くから。それに、頑張ってくれたらご褒美もあるよ。失敗してもいいから、ね? やってみよう?」


「最後の言葉はアンタに言いたいけど……しょうがないわね。ご褒美は期待するから、覚悟しなさい」



 エストの手から工具を奪い取ると、あまり力を入れずに二回叩き、ブロフの手本と同じ大きさの欠片に砕くシスティリア。


 タン、タンと一定の間隔で魔石を砕く速度は凄まじく、魔石が揺れないように支えるエストはもちろんのこと、隣で作業をするブロフまでもが目を見開いていた。


 オーク肉を解体する時と同じ感覚だと思ったシスティリアは、部位ごとに切り分けるように次々と欠片を生み出していく。



「良い才能だ。木工師になれば名を馳せるぞ」


「名声なんてどうでもいいわ。アタシはエストを支えられたらそれでいいの」


「システィ……」


「そこ、ときめいてないでしっかり支える!」


「は〜い」



 本当にダンジョン内と……いや、システィリアの前とそうでない時の差が激しいと実感するブロフは、エストの内心が不思議でならない。


 あれほどの魔術を使える者でありながら、表情こそ出にくいものの、感情が豊かな魔術師は数が少ないのだ。


 魔術はのめり込むほど感情を殺す力がついていくため、ブロフの記憶にある魔術師は皆、人形のような顔をしていた。

 しかし、エストは表情だけはその魔術師とは変わらないものの、瞳に宿る喜怒哀楽は雄弁に語る。


 今までに見たことがない魔術師。

 それがブロフの抱く、エストの印象だった。




「──よし、火を入れる。ご苦労だったな」


「意外と楽しかったわ。ありがとね、エスト」


「次があるかはわかんないけど、その時もシスティに頼むよ。ブロフ、杖をお願い」



 杖を受け取ったブロフは大きく頷く。


 蓋のない棺桶のような炉に、砕いた魔石の半数ほどを入れていく。

 通常の鍛冶では有り得ない量と質の魔石だが、そうまでしないとアダマンタイトは柔らかくならない。


 炉の奥まで魔石を詰め終わると、火の魔石を触媒に使う高火力の着火魔道具で火をつけた。


 ボーッと音を立てながら細長い炎が魔石に触れ、数十秒ほど火を当て続ける。すると、手前の魔石が溶融し始め、超高温となった魔石の液体が次々に他の魔石を加熱した。


 そうして数分ほどで、魔石がグツグツと煮えるスープが完成した。


 こうしたスープはアダマンタイト以外にも、高融点の金属を加工する際にも使われる。



 凄まじい熱気が炉から溢れ出す。

 正面に座るブロフはもちろんのこと、離れた位置で見守っているエストとシスティリアも大粒の汗をかいていた。


 ブロフは炉に魔石を投げ入れながら、ミスリルを外した杖の先端をスープに浸していく。


 根菜を煮詰めるようにじっくりと様子を見ていると、アダマンタイト製の大きな火箸で持ち上げた。

 金床に置いて分かる、その温度。

 赤を超えて白くなった杖の先端に、ハンマーを振り下ろす。


 チリン、とワイングラスをぶつけたような音が工房に響いた。


 これこそがアダマンタイトの純度の指標となる、打音の美しさである。

 低純度では鈍く重たい音が鳴るが、純度が高くなればなるほど、打音はより透き通った明るさを持つ。


 何度も叩いて先端を伸ばすと、再度スープに浸けて、また引き上げては美しい音色を奏でる。



 エストはその音を聴きながら鍛造の様子を見ていると、次第に眠気が意識を奪い始めた。

 システィリアが二人分の椅子を持ってくると、エストは彼女にもたれ掛かるようにして落ち着いてしまう。

 流石のエストも、ドラゴンとの戦いで疲れているらしい。


 ハッと目が覚めた時には、既に加工を終えてスープの蒸発を待っている段階だった。



「おう、起きたか。ブツならそこにあるぞ」


「ふふっ、可愛い寝顔だったわ」



 テーブルに立てかけられた杖を見ると、エストは思わず『おおっ』と声を漏らした。



「先端は槍……側面には刃。持ち手も完璧」



 元々付けられていたミスリルの位置を少し下げ、先端が刃物として目立つようになっており、全体を見ることでようやくそれが杖であることが分かる造りになっていた。


 注文以上の出来である。


 持ち手部分は杖自体をねじったような形になっているが、明確な指の引っ掛かりが生まれたことで、激しい近接戦闘をしてもすっぽ抜けることは無いだろう。


 数回全力で振ってしっかりエストの手にフィットすると、アダマンタイトでできた槍と剣、そして杖の複合武器という、驚異的な性能を実感する。



「あぁ……最高だ。ブロフ、ありがとう」


「礼を言うのはオレの方だ。デゥフリィトの作品をこの手で加工するなんざ、一生に一度もねぇ。弟子であってもな。エスト……改めて言おう。ドラゴンの討伐、見事だった」



 二人は強く握手を交わすと、互いにニヤッと笑みを浮かべた。

 これで心置き無く冒険者として活動できると思っていたエストだったが、突如として工房のドアが何度もノックされた。


 上の店ではなく工房に来ることに警戒心を高めると、システィリアは剣に手をかけた。

 念の為にブロフを背後に置くと、等身大アリア像を使ってドアを開けたエスト。


 攻撃する準備は万端。


 そいてドアを開けて入って来たのは、一人の犬獣人の青年だった。



「ブロフさん! 今日納品するって言ってましたよね!? 私、明日にはラゴットを…………あ!」



 青年はエストの顔を見ると、いきなり大きな声を上げた。

 まるでどこかで会ったことがあるかのような反応に、エストは記憶の海を潜る。


 しかし、目の前に立つ茶髪の犬獣人と結びつく光景はなかった。



「エストさん……ですよね」


「違うって言ったら?」


「私はそれまでの商人だということ」



 商人……犬獣人……過去に会った。

 何かもう一つ。

 あと一つピースがあれば思い出せる。



「私の価値は八百万リカ。この言葉に憶えは?」



 顔を上げたエストが、名前を口にする。



「思い出した。僕がシスティと初めて会った日の前日。森でゴブリンに襲われてた…………なんとかフィーだ!」


「パルフィーですよ!」


「そう、パルフィーだ。懐かしいね。お金しか見えてない目は洗った?」


「なんか言い方酷くないです!?」


「確か焼き物を売ってたんだっけ。僕の魔術を売り物にしようとしてたよね」



 その言葉にシスティリアがいち早く反応すると、パルフィーのうなじに刃が触れる。



「ヒィっ! い、今は反省しているのです! エストさんの魔術を利用しようとしたことは、私パルフィー、人生最大の汚点なのです!」



 そこまで言うと、エストの後ろに居たブロフが数本の剣を抱えて出てきた。




「落ち着けお前ら。コイツはオレと馴染みのある商人だ。茶でも飲みながら話をしよう」

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