15 一生愛している。分かっている?
「今日、ヨナンはどこに行ったの?」
私は今日あの後どうなったのかを聞いた。
「あの宿屋」
アランは何かを思い出したかのようにニヤッとしながら言った。
「あの宿屋に行って……リジー、聞きたい?」
私はうなずいた。
「いやー、見物だった。クリフがさぁ」
出た……。
クリフっ!
やっぱり、クリフとヨナンは出会ったのね。
「あの宿屋の前でクリフはヨナンを一目見て、大袈裟な愛の告白をした」
はぁ?
いきなり?
「で、ヨナンはそのクリフの軽さが気に入った」
へ……。
「流石に何か一線を超えるとかはないよ。ただ、ヨナンはケラケラ笑って、チャラいクリフに口説かれるのを楽しんだ。独り身か?と聞かれたクリフは、最近、太めのディッシュ公爵令嬢に婚約破棄を申し出て、まだ一人と答えたから、ヨナンは喝采をあげていた」
はぁ……。
さぞ「ざまぁ」と私に思ったんでしょうね。
「あんた見る目あるわぁ、気に入った、だって」
アラン王子はヨナンの口真似をした。
少し似ていた。
私たちは抱き合った。
「良かった」
それから、ヨナンはイザークに感謝の言葉を伝えたらしい。
「イザークのおかげでここまでバレなかった。ありがとう、だってさ」
素直に感謝が言えるのね。
私はイザークの気持ちを思って良かったと思った。
私たちは宮殿に戻るまでの間に、馬車の中で計画を練った。
「子爵のクリフを宮殿に呼んで、ヨナンと彼が仲良く一緒にいる所に、今までのようにヨナン妃に扮したイザークと私とアラン王子が国王と王妃と一緒に現れたらどうなるかしら」
偽物はヨナンの方になる?
ペジーカは、流石に姫の無謀なやりように手を焼いているはずだ。
政略結婚の身代わりに自分の従兄弟を差し出したヨナン。姫とは言え、国家間に緊張をもたらす火種を仕込み、自分は自国で遊んでいたのだから。
いくらアラン王子が嫌だからと言って。
でも、政略結婚はかわいそうかも?
いや、自分にぞっこんだったイケメンアラン王子との結婚ですっ!
しかも、関係は既に成立していた……。
いや……想像したくない……。
あんな美女をアラン王子が夢中に愛でたなんて。
アラン王子の初めてを奪ったのが、あんなナイスバディの美女だなんて……。
やめなさいっ、私!
脱線し過ぎで、自分を惨めにし過ぎよ。
ヨナンとアラン王子の絡みは、今、私には毒でしかないからっ!
しっかりするの。
イザークを巻き込むなら、ちゃんとやらねば。
契約違反も甚だしいことをしていたのは、ペジーカの方。
イザークだって、ヨナンの従兄弟ということは王家に連なる血筋のはずだろう。
私の頭は不安だらけだったが、馬車はまもなく宮殿の正門についた。
私はアラン王子に抱き抱えられて、宮殿に戻った。
ヨナンは烈火のごとく激怒した。
「あら?太っちょ第二妃はもう戻ったわけ?」
イライラモードのヨナンにガン飛ばされて睨みつけられた。
ふーっ。
深呼吸をするアラン王子。
「ヨナン、クリフが明日尋ねてくるから」
ヨナンは毒気を抜かれたような表情になり、すっと美しい顔に柔らかな笑みを浮かべた。
「太すぎるからって振られたあなた。エリザベス?あなたさえ気分を害さないのであれば、私はよろしくてよ」
ヨナンは微笑みながら、私に言った。
「クリフがヨナン様の事を愛すのは、私には止められません。お気遣いいただかなくても私は大丈夫でございます」
私はしおらしく項垂れて、申し上げた。
通り過ぎざまに、私だけに聞こえるようにヨナンは囁いた。
「ブスなのもそろそろ気づいた方がいいわよ、エリザブス」
はい。
気づいておりますって!
あなたほどの美女はいません……。
ヨナンがいそいそと自分の部屋に戻る姿を見送ると、アラン王子が私を抱きしめて囁いた。
「今晩、眠れないかも。リジー、俺逃げられたら、悲しくて、耐えがたい苦しみを味わった」
はっとして顔を見上げる私。
王子の表情は、完全に口角が上がっている。
ふっと妖艶な笑みを浮かべたアラン王子は、くぐもった声で囁きながら、私に熱いキスをした。
「寝かさないから。リジーをめちゃくちゃに幸せにしたい。いい?」
あぁっ……。
「俺の可愛いいリジー……一生愛している。分かっている?」
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。




