15 では、リジーをさらっていきます、義父上、義母上
泣く私の唇に、そっとアラン王子の柔らかくて温かい唇が落ちてきた。
体の奥がとろける。
心までとろける。
「リジーも俺を愛してる?」
濡れたような声が私の耳元で聞こえた。髪の毛を優しくかきあげられて、さらに口づけされた。
「どうなの?愛してくれてる?」
私は切なくてアラン王子の温かい胸に頭を押し付けて、うつむいて震えた。
体の奥からじーんと貫かれたような切ない痛みで身動きが取れなくなる。
私が愛していると言えば、ヨナンがこの国に不利益をもたらそうとしていることを止められなくなるのではないのだろうか。
そう思って離れようとした。
離れなきゃ……。
「だーめ。俺のものだからリジーは。もうどこにも行かせない」
アラン王子はそうささやくと、私を抱き上げた。
お姫様だっこ。
えっ!?
私は思わず足をバタバタしようとしたが、ちゅっと唇にキスをされた。
いやっ……なんという包容力。
拒否しようにも、この胸のときめきで、体がとろけてしまって、ふわふわする。
イケメン過ぎる顔が至近距離で私を優しく見つめている。
「では、リジーをさらっていきます、義父上、義母上」
軽々と私を抱いたアラン王子は、颯爽と父と母にそう言って微笑んだ。
おぉ……!
素敵……!
きゃあっ……!
どよめきに辺りが包まれた。
ディッシュ公爵家一同が両手を握りしめて大興奮して喜んでいる中、アラン王子は私を横抱きにして、大股で歩いて屋敷を出た。
父と母は、ふるふる小刻みに震えるようにして、よろよろと互いに寄りかかるようにして泣いていた。アラン王子に抱き抱えられた私の姿に頷き合っている。
安堵の涙かもしれない。
マリーは大号泣していた。
「お嬢様ぁ!良かったでございますぅっ!あぁっおっおぉっ……!」
これも安堵の涙だろう。
屋敷のすぐそばに馬車が待たせてあった。
乙女の夢を散らした翌日、王家の馬車を連ねてアラン王子が迎えに来た時みたいに、150台あまりの馬車の行列が待っていた。
「な……何でこの数?」
私はあまりの事態に呆然として聞いた。
「輿入れだからねぇ?まぁ2回目だけど。俺、ますますリジーに本気になっちゃったから。リジーも簡単に逃げちゃだめだよ」
煌めく瞳で前髪の隙間から私をじっと見つめたアラン王子は、口角をあげて微笑んだかと思うと、唇をすぼめて接近してきて、私のおでこにちゅっとキスをした。
甘いキス。
思わず顔がゆるむ。
だめだ。
はぁっ……。
「で、なぜまだ抱かれているのでしょう?」
アラン王子に私はお姫様抱っこされたまま、馬車の座席におさまっていた。
「逃げないようにでしょ」
当然っ!と言った調子でアラン王子はきっぱりと言って妖艶な笑みを浮かべた。
甘い雰囲気なのに、どこか怖い。
「怒っていますか?」
私はアラン王子の胸に抱かれたまま聞いた。
「怒っているよ?そりゃぁ……」
ぼそっと言われて、私は目をつぶった。
そのまま唇が降りてきて、頭を抱き起こされて、熱烈なキスをされた。
「こんなに一緒にいると幸せなのに。こんなに愛しているのに。こんなにリジーを大切に思っているのに……」
責めている。口調はむくれたように怒っている。優しい口づけを繰り返された。
ぎゅっと抱きしめられた。
「私が……そばにいたら、あなたに迷惑がかかるから……」
私は切ない思いに溢れながら、切れ切れに言った。
「だから……あなたと別れます」
アラン王子は泣きそうな顔になった。
唇が歪んでいる。
目から涙が溢れ出ている。
「だめ。方法はあるから。俺はリジーを諦めない」
方法って?
どんな。
そんな方法ないでしょう?
「ヨナンは美人だし、いつかヨナンのことを愛せると思う……」
鼻の奥がツンとして、それ以上話せなくなって言葉を続けられなくなった。
ふーっ。
がんばれ、私、ちゃんと言わなきゃ。
「いつかヨナンのことを、きっと前みたいにあなたも愛せると……」
奇妙な嗚咽が私の喉からした。
目の奥が痛い。
鼻の奥がツンとするだけでなく。
震える。
アラン王子の初めての人はヨナン。
だから、2人の絆は特別なはずだ。
「リジーの初めての人は俺。俺はそっちしか記憶にないし、今後は一生、他の女性と夜を過ごす気はしないし、過ごす気もないから。俺はリジーを愛しているんだ」
アラン王子のその言葉に涙が止まらなくなった。
でもそれじゃ……。
解決しない。
「イザークが告白する」
はっ!?
何を?
誰に?
私がギョッとしてフリーズしたのを見て、アラン王子は私を抱きしめたまま、静かに言った。
「イザークがヨナンに成り代わっていたことを、国王に暴露する。ペジーカへの切り札にする」
なんとっ!?
それでイザークは大丈夫なのだろうか。
「政略結婚としては、重大な契約違反だ」
アラン王子は厳しい顔で言った。
「ちょっと待って!それってイザークも嘘をついていたことを問われるのでは?一緒に騙したと言われないのかしら?」
私は冷や水を浴びたような気持ちになり、アラン王子に聞いた。
アラン王子は黙った。
だめ。
イザークはアラン王子が死ぬほど好き。
自分を犠牲にするだろう。
私がアラン王子のために身を引くのと同じだ。
「待って待って待って!」
私はよく考えようとして、唇を噛み締めた。
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。




