13 もしかして、ヨナンはあの手のチャラい男が好みなの?
「リジー、大変だ」
誰かの囁き声で目が覚めた。
ハッとして目を開けた。隣にアラン王子がすやすやと寝ている。ベッドのすぐ横にいるのは、イザークだ。
彼の瞳は真剣だ。いつものふざけたモードでは決してない。
「どうしたの?」
私はガウンを引っ掛けてすぐにベッドから降りた。
「さっき、早馬が出た。ヨナンが国に密令を送った」
イザークが囁いた言葉に、私は心臓がどきりとした。
「どんな密令を?」
「アランとヨナンの政略結婚は、国家間の利権を共有するためのものだ。互いに争わないために、ペジーカのエネルギー資源を両国で分け合っている。ヨナンはアランが第二妃と離縁しなければ、自分とアランの婚姻を無効とし、エネルギー資源の利権の共有差し止めを要求するつもりだ」
私は呆然とした。
何ですって……?
それだと、とんでもない争いに発展する。
私は戦争になりそうなイザコザの渦中の人物となってしまったようだ。
ヨナンは私にアラン王子が惚れていると本気で思ったということ?
「昨晩、ヨナンとアランは過ごしたはずなんだけれど」
私はヨナンがアランに抱きついたところで耐えきれずに部屋を飛び出してきたのだ。アランが私の部屋までやってくるまでに随分の時間があったと思う。
私はイザークを前に、うつむいた。
「リジー、顔をあげて」
私はふっとイザークにあごの先に手を添えられて、顔をのぞき込まれた。イザークの瞳はキラキラしていて、真っ直ぐで真剣だ。
イザークは私の耳元に息を吹きかけるほどの距離まで近づいてきて、小さな声でささやいた。
「アランはヨナンとだめだった」
へ?
なんと?
だ……だめだった?
私は床にヘナヘナとへたり込んだ。
「あの話、本当だったの?」
「ヨナンは自分に魅力が無いと言った男は初めてだから、怒り心頭だった。暴れたんだ。なんとか落ち着かせて、アランはその……そういうことになったと、ヨナンは納得した。その……アランはできない問題を抱えたんだと納得した」
イザークは冷静な声で話し続けた。
なんという話でしょう。
「だが、夜、アランはリジーの部屋にやってきた。ヨナンはそれ……その……つまり君たちのお熱く抱き合っているのをのぞいたんだ。もちろん、アランの従者がドアの前にいた。だが、相手は第一妃だ。ヨナンは止める従者を無理やり押しのけて、リジーとアランをのぞいたわけだ。あぁ、最悪だろ?それがヨナンだ」
私は真っ青になった。
なんで……のぞく?
「で、激怒したヨナンはすぐさま本国に使者を出したというわけだ、リジー。大層お熱い感じだったって、ヨナンは泣きながら怒った」
私はゾッとして震えた。
の……のぞいたの?
怖い。
怖すぎる。
恐怖のヨナンの行動だ。
自分で振っておいて、結婚するのをあれほど嫌がったくせに、今更のこのこやってきて、自分とは夜を過ごせないからって、覗き見して、確かめて、自分とだけ過ごせないことを……。
ヨナンにだけダメじゃなくて、私にだけOKってことじゃなかったかしら?
よし、私。
国王と王妃の元に駆け込もう。
アランの病気のことを打ち明けてしまおう。
ペジーカからの使者が到着する前に、情報を国のトップに入れてしまおう。
ダメだ。
本当にそれが正解だろうか?
よく考えて、私!
迂闊な行動はダメだ。
傷つく人がいる。
黙り込んで考える私に、イザークが聞いた。
「リジーの知り合いに、超絶イケメンはいないの?」
私はとっさに頭に浮かんだ名前を言った。
「クリフ……とか」
「あ?」
ムッとした声でイザークに反応されて、私は思わず謝った。
そもそも16歳で婚約したから、他の若者を知らない。
「ごめん、なんでもない。全然イケメンじゃなかった……」
「いや?ちょっと待てよ……?」
イザークは考え込んだ。
ヨナンは従兄弟のイザークが、アラン王子に想いを寄せていることを知っていて、それにつけ込んだのだろうか。アラン王子が女性しかその対象に選ばない事を知った上で。
私は胸がちくりとした。
悲しい。
痛みを感じる。
私の顔を見つめたイザークに、慌てて私は話を続けた。
「もしかして、ヨナンはあの手のチャラい男が好みなの?」
「うーん、どうだろう」
腕組みをして考え込んだイザークは、「あの宿屋に行く?」とつぶやいた。
いや、あれはもういい。
だが、アラン王子できない問題を抱えるヨナンにとっては、少しは気晴らしにはなるかもしれない。
クリフ。
スレンダー美人が好みのクリフ。
クリフからしたら、ヨナンはど真ん中だろう。
好み過るでしょう。
私を振って婚約解消したクリフ。
そのクリフが自分に夢中になれば?
ヨナンもざまぁと私に思うことができる?
クリフを……使うしかあるまい!
この際、私の邪念は捨てるのだ。
よし、やってみるか。
私、腹をくくろう!
私とイザークは固く握手を交わした。意気投合したのだ。
打倒!遊び人だ。
横でスヤスヤ眠るアラン王子の横で、私とイザークは同盟を結んだ。
怒り心頭の本物のヨナン。
私は、国王と王妃に、息子であるアラン王子のセンシティブ問題を打ち明けるのは後にすることにした。
聞けば、2人が嘆き悲しむと思った。
息子の問題を知りたいはずがないから。
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。




