10 リジーの初めてのひとが俺で最高だよ
美しい衣装が舞う。
腰を振って激しく踊るマリーの姿が目に入った。
その前で、ガリエペンの宰相、大臣たちが戸惑ったような表情でマリーの姿を見つめている。横にはアラン王子が青ざめて座り、国王はジロリとアラン王子の方を睨んでいた。王妃だけはマリーのダンスに目を輝かせている。
戻りが遅れたので、修羅場になりかけていた。
よし!
行くしかないっ!
私、覚悟を決めなさいっ!
私は意を決してマリーの横に滑り込み、一緒に踊り始めた。
腰を振る。
魅惑的な仕草で踊る。
誘惑していないが、まるで誘惑するかのような仕草。
途端に、アラン王子の瞳が輝き出し、グッと身を乗り出してきた。
私はリボンを結びつけた王印章をアラン王子めがけて投げ、足を広げてクルクル回転した。
ガリエペンの来賓がほぉっと頬を染める様子を確認した。弧を描いて飛ぶ王印象に彼らの注意がいかなかったようだ。
息つく暇もなく、マリーと踊る私。
16歳のマリーは私を見つめて、もう涙を浮かべている。
悪かった、マリー。
もう大丈夫だ、マリー。
そこにふっともう一人の強力助っ人ダンサーが現れた。
スレンダーの体躯を限りなく色っぽくくねらせている。ガリエペンの来賓の瞳が一瞬でハートになった。
ヨナン妃だ!
民族舞踏ができるとは知らなかった。
イザークの姿は影も形も霧散し、超絶美形で色っぽいヨナン妃の踊りが、ガリエペンの大臣の心不全を引き越すほどの威力を醸し出した。
一気に私たちは飛び跳ねて、ぴたりと床に静止した。
ブラボー!
素晴らしい!
素敵よー!
思わず心臓を抑えた大臣も頬を赤く染め上げて、渾身の拍手を送ってくれている。
国王は来賓に耳打ちしている。
あれは息子の第一妃と第二妃だと自慢げに説明しているのだろう。
ガリエペンの宰相と大臣たちが羨ましそうな目で輝くようなイケメンのアラン王子のチラッチラッと見ている。
なんとかなった……。
私はマリーを抱きしめた。
マリーは安堵のあまりに泣きじゃくり、私はマリーの肩を抱きながら廊下を歩いて自分の部屋に戻った。
「お嬢様ぁ!もう、お戻りにならないかと思いましたぁ!」
マリーは嬉し泣きをして、私にしがみついて、なかなか離れなかった。
「間に合わなかったけれど、マリーのおかげで助かったわ。本当にありがとう」
私はマリーのおでこにキスをして、労った。
その瞬間、ぴたりと動きを止めたマリーは、ハッとした表情で私を見つめた。
「イザークはどちらに?」
そうだった。
マリーはイザークに一目で心を持っていかれたのだった。
「うん?どこだろう?持ち場に帰ったのかな。今回は特別任務だったから」
私はさりげなくそう言って、さっさと服を脱ごうとし始めた。
バン!
ドアが大きく開き、アラン王子が飛び込んできて、私を見るなり抱きついてきた。
「リジー!ほんっとーにありがと!」
私は煌めくアラン王子に抱きしめられて、ほっとした。
「マリー、ありがとう!感謝しきれない!君のおかげで場がつながった。褒美になんでも言うといい!今、少しだけ、リジーを借りるね」
アラン王子は手放しでマリーを褒めちぎると、私の手をしっかりと握り、廊下の外に連れ出した。
「えぇっ!?」
着替えるんですけど……。
「ごめん。あんな踊りを見たら我慢できないよ……」
アラン王子は真っ赤な顔でそう囁くと、私を自分の部屋に押し込んで、ドアにしっかり鍵をかけた。
「ヨナンに何もされなかった?」
私はそう聞かれて固まった。
「えっ!?キスされた?」
「えっ!?もしかして、触られ……」
私はそれを遮った。
「大丈夫、何もされていませんわ。クリフに遭遇したところ、助けていただきましたが」
私の発言は不味かったようだ。
鼻の穴が広がるような猛烈な怒りを感じたようだ。
アラン王子は私の民族衣装の肩の紐の横に口付けをそっとした。
こんな昼間からはいけない。
隣国からの来賓もいるのに。
だが、興奮したアラン王子は止めてくれない。私はそのままふわりとベッドに押し倒された。
「王子っ、いけませんっ……」
一気に王子は上半身の服を脱ぎ捨てて、逞しい胸板をあらわにした。
「ごめんよ、リジー、幸せにしてあげる……けど、俺もう、我慢できないから」
逞しい胸板が見える。
アラン王子の額に汗が出て、私に口付けをしてくる瞳は潤み、信じられないほどの色っぽい顔で私を見ろしている。
私たちはとんでもない幸せな時間を過ごした。
「リジーの初めての男が俺で最高だよ」
アラン王子がそっと私の唇にキスをしながらささやいた。
あなたの初めては誰?
その瞬間。
私の心はチクリとした。
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。




