09 俺を慰めてくれる?
「大丈夫か?リジー?」
イザークは私の顔を心配そうに見つめている。
透き通った瞳は真剣だった。
「迂闊に奴に触らせて、本当にすまなかった。油断していた。俺の責任だ」
イザークは本気で謝罪してくれた。
「大丈夫。すぐに助けてくれてありがとう」
私は戸惑いながらもうなずいた。
「よし、どこの部屋に泊まったんだ?」
ヨナン妃ことイザークが私に宿屋の案内をお願いしてる向こうで、宿屋の主人がクリフに何か言っている声がした。
「あんたがいけない。連れがいるのに抱きついたりするから」
「あれは、俺のリジー」
「あんたのじゃないよ。前回もものすごいイケメンを連れ込んでいたんだから。諦めな。どの道あんたに勝ち目はない」
とかなんとかだ。
私は記憶を探りながら、前回アラン王子と泊まった部屋にたどり着いた。
そして、目的の部屋に入り込んだ私たちは、とんでもない事態に遭遇した。
先客がいて、逢瀬を楽しむ最中だった若者と町娘にばったり遭遇したのだ。
失礼っ!
うわっ!!
イザークの瞳がほぉっ?といったスケベな瞳に一瞬で変わるのを見て、私は思わずクローゼットの方を指差して、イザークに探しに行かせた。
だめっ!
見ちゃだめっ!
「リジー?顔が真っ赤だけど?」
イザークが私の耳元でささやくと、私は弾かれたように飛び上がり、必死で印章を探しに集中しようとした。
結局、町娘の指に王印章がはまっていた。
私はそっと彼女の前に行き、微笑んでそっと印章を返してもらった。
「これ、私の忘れ物なの。ごめんなさい」
ささやいて謝ると、彼女はウィンクして微笑んできた。
イザークも投げキッスをして、私たちはすぐに部屋から退散した。
「うわっ……結構刺激的だった」
ヨナン妃ことイザークは耳から首まで真っ赤だった。
えっ?
意外とウブ?
「なんか……想像しちゃった」
そう言いながら、私をチラッと見て、パッと顔を背けた。
はぁ?
今、何を想像した?
「イザーク、君は今は従者だ!使命を果たすのだ!」
私は最後まで言わせず、イザークの腕をつかんで宿屋の外まで押し出した。
宿屋の主人には、出てくる際にイザークが金貨を数枚渡していた。
私たちは待たせていた馬車に乗り込み、一目散に宮殿に戻ったのだ。
「リジー、アランのことが死ぬほど好きなのは本当だ」
馬車の中でそれだけヨナン妃きまてイザークはポツンと言った。
私はうなずいた。
分かった。
ヨナン妃はアラン王子に本気。
また、少し悲しそうな影が宿る綺麗な透き通った瞳に、グッと胸の奥がつかまれる。
「俺を慰めてくれる?」
優しく肩を抱かれた。
切ない煌めきが宿る瞳に胸がドキドキする。
だめだけど、同士ということかな。
「少しなら肩を貸すわ」
私がそう言うと、ヨナン妃にしか見えない美しい笑みを浮かべた短髪のイザークが私の肩に頭を乗せてきた。
私たちは宮殿までそのポーズでしばらくじっとしていたのだ。
狂ったように緊張した面持ちで、民族ダンスの煌びやかな衣装に身を包んだマリーが、決死のダンスを始めようとしているとは、その時は思いもしなかった。
ガリエペンとの外交の場は波乱の展開を迎えていた。アラン王子は絶対絶命だった。
「リジー、ちょっと遅れたね……リジーも踊るしかないんじゃない?」
馬車が宮殿に着いた時にイザークにささやかれて、私はハッと顔をあげた。
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。




