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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
白亜紀の真実編
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荒廃した大地 - 歪められた時の狭間


突如として虚空に描かれた、淡く発光する巨大な円環。それは、時空の狭間に穿たれた唯一無二の扉、マックスがその叡智の全てを注ぎ込み、発動させたタイムゲートだった。円環の中心部は、まるで底の見えない深い淵のように、濃密な闇が渦巻いている。そして、その淵から放たれる、眩いばかりの光の奔流は、周囲の空間を、激しく震わせ、歪ませていた。

光は次第にその勢いを弱め、細い一筋の糸となり、やがて、吸い込まれるようにして、漆黒の闇へと消えていった。後に残されたのは、先ほどまでの、激しい光の残滓と、微かに漂う、焦げたような匂いだけだった。

そして、光が消え去ったその場所に、まるで蜃気楼のように、5つの人影が、ぼんやりと浮かび上がった。

翔、アヤ、マックス、エレーヌ、そしてプチ。

クロノスの恐るべき野望を阻止するため、タイムトラベルを繰り返し、幾多の困難を乗り越えてきた仲間たち。彼らは、新たな時代の扉を、今まさに、くぐり抜けようとしていた。しかし、彼らの表情には、希望よりもむしろ、深い困惑と、かすかな不安の色が、濃く滲んでいた。


「ここが……本当に……白亜紀、なの……?」


最初に口を開いたのは、翔だった。彼の声は、信じられないものを見た時特有の、微かな震えを帯びていた。視線の先には、彼が、かつて訪れた、緑豊かな、生命力に満ち溢れた白亜紀とは、似ても似つかない、荒廃した光景が広がっていた。

空は、鉛色の、重苦しい雲に、覆い尽くされている。その雲は、まるで巨大な生き物の、腹部のように、不気味なうねりを伴い、今にも、地上に、降りかかってきそうだった。太陽の光は、厚い雲の層に、阻まれ、まるで、細い糸のように、かろうじて地上に、届いているだけ。その、弱々しい光は、世界を、青白く、不健康な色に、染め上げていた。

見渡す限り広がる大地は、干魃に見舞われたように、赤茶けた土が、露出し、深い亀裂が、まるで、巨大な獣の、爪痕のように、無数に刻まれている。かつて、そこにあったはずの、青々とした草原、鬱蒼と茂る森、その全てが、跡形もなく消え去っていた。

代わりに、そこにあるのは、無残に折れ曲がり、炭化した樹木の残骸。それらは、まるで、朽ち果てた墓標のように、荒涼とした大地に、点々と突き刺さり、もの悲しい光景を、作り出していた。時折、乾いた風が、吹き抜けるたびに、砂塵が舞い上がり、彼らの視界を、白く霞ませる。


「空気が……ひどく、乾燥しているわ……」


アヤが、ハンカチで口元を覆いながら、苦しげに言った。空気中には、微細な砂塵と、何かが焼けたような、刺激臭が混じっており、呼吸をするたびに、喉が、イガイガと痛んだ。まるで、巨大な火災の、直後のような、焼け焦げた匂いが、辺り一面に、立ち込めている。


「以前、訪れた白亜紀とは、まるで、別世界だ……」


翔は、周囲を見回しながら、困惑した表情を、隠せない。彼の記憶の中にある白亜紀は、巨大なシダ植物が生い茂り、多種多様な恐竜たちが闊歩する、生命力に満ちた、緑豊かな世界だった。しかし、今、彼の目の前にあるのは、生命の気配を、ほとんど感じさせない、死の世界だった。


「マックス……これは一体、どういうことなんだ……?」


翔は、腕に抱えたマックスに、問いかけた。マックスは、その青い瞳を、明滅させながら、周囲の環境データを、高速でスキャンしていた。


「……時間軸に、極めて、大きな歪みが、発生しています。それも、私が、これまでに観測した、どの数値よりも、はるかに……深刻なレベルの……」


マックスの、無機質な合成音声に、初めて、明らかな動揺の色が、混じった。その声は、まるで、経験したことのない、未知の脅威に、直面した時の、人間の声のようだった。


「時間軸の、歪みだって……?それって、つまり……」


アヤが、不安そうに、マックスに尋ねる。その瞳には、言い知れぬ恐怖の色が、浮かんでいた。


「何者かが、この時代の過去に、大規模な、そして、極めて、強引な干渉を、行った可能性が、極めて高いと、推測されます。その影響で、時間軸が、大きく歪み、本来あるべき姿から、かけ離れてしまったのでしょう……。おそらくは、自然発生的な、タイムパラドックスとは、考えにくい……これは、明らかに、意図的な、歴史改変……」


マックスの言葉に、一同は、息を呑んだ。静寂が、辺りを支配する。その静寂を破ったのは、風が、枯れ木を揺らす、カサカサという、乾いた音だけだった。

クロノスが、再び、過去に干渉していることは、もはや、疑いようのない事実だった。しかし、彼らの目的は、一体何なのか?そして、この荒廃しきった世界は、一体、何を意味しているのか……?


「ピィ……怖いピィ……」


アヤの足元で、プチが、悲痛な声を上げた。その小さな体は、恐怖と不安で、激しく震えている。プチは、周囲の環境から、本能的に、何か、恐ろしいことが起きていることを、感じ取っているようだった。


「プチ……大丈夫よ……」


アヤは、プチを、優しく抱き上げ、その小さな体を、胸に抱き寄せた。プチは、アヤの温もりに、少しだけ安心したのか、震えを、わずかに、弱めた。しかし、その赤い瞳には、依然として、深い不安の色が、宿っていた。

エレーヌは、目を閉じ、両手を胸の前で、静かに組み合わせていた。まるで、祈りを捧げるように。その表情は、穏やかでありながらも、どこか、悲しみを帯びていた。彼女は、この荒れ果てた世界を、そして、この世界に生きる、すべての生命を、癒したいと、心から、願っているようだった。


「とにかく、情報が、少なすぎる……まずは、周囲を、探索する必要がある……」


翔は、固い決意を込めて、そう言った。彼は、リーダーとして、仲間たちを、導かなければならない。不安に押しつぶされそうになる心を、必死に、奮い立たせ、彼は、荒涼とした大地を、力強く、見据えた。


「ええ……まずは、この異変の原因を、突き止めないと……」


アヤも、翔の言葉に、力強く頷いた。彼女の瞳には、科学者としての、強い探究心と、恐竜たちへの深い愛情が、宿っていた。

彼らは、まだ、知らなかった。この荒廃した白亜紀が、クロノスの、恐るべき計画の、ほんの始まりに過ぎないことを。そして、この地に隠された、真実が、彼らを、想像を絶する、過酷な運命へと、導いていくことを。

彼らの足元で、乾いた土が、音もなく、崩れ落ちた。まるで、この世界の、脆さと、儚さを、象徴するかのように。

そして、彼らの長い長い、戦いの旅路が、再び、静かに、幕を開けた。彼らを、導くのは、胸に灯る、希望の光。しかし、その光は、あまりにも、小さく、そして、頼りないものに、思えたのだった。彼らは、歩き出す。行く手には、ただ、荒涼とした、未知の世界が、果てしなく、広がっているだけだった。遠くで、風が、不気味な音を立てて、哭いている。それは、まるで、この時代の、終焉を、告げる、挽歌のように、彼らの耳に、届いたのだった。




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