決死の脱出
場所は、クロノスの中枢基地へと続く地下トンネル、罠が仕掛けられた円形の広場。回転する壁と、うねるように動く床が、翔たちを閉じ込めようとしている。その光景は、まるで、悪夢の中に迷い込んだかのようだった。
「マックス!アヤ!何とかならないのか!?」
翔は、二人に向かって叫んだ。床の揺れは、ますます激しくなり、立っているのもやっとの状態だった。まるで、巨大な獣の背中の上に、乗っているかのようだった。
「もう少しで…制御システムにアクセスできる…!」
アヤは、必死にキーボードを叩きながら、答えた。彼女の指先は、限界を超えたスピードで動いている。
「私も、全力を尽くしています…!」
マックスは、目を閉じ、精神を集中させていた。彼の青い瞳は、普段よりも強い光を放っている。その姿は、まるで、全てを賭けた、戦士のようだった。
「エレーヌ!もう少し、頑張ってくれ…!」
翔は、歌い続けるエレーヌに、声をかけた。その声は、祈りにも似た、響きを持っていた。
「ええ…!でも…長くは…持たないわ…!」
エレーヌは、苦しそうな表情を浮かべながら、歌い続けていた。彼女の声は、徐々に、掠れてきている。その姿は、痛々しいほどに、献身的だった。
「このままじゃ、全員、飲み込まれてしまう…!」
翔は、絶望的な状況に、焦りを感じ始めていた。
その時、アヤが、突然、叫んだ。
「アクセスできた…!装置の制御システムに、侵入成功したわ…!」
「本当か!?アヤ!」
翔は、希望の光を見出し、アヤに駆け寄った。
「ええ…!でも、この装置、思った以上に複雑よ…!完全に停止させるには、もう少し時間が必要だわ…!」
アヤは、画面を見つめながら、言った。
「そんな…!」
翔は、落胆の表情を浮かべた。
その時、マックスが、翔の肩を叩いた。
「翔!私に、考えがあります…!」
その声は、切迫感に満ちていた。
「何だ、マックス!?」
翔は、マックスに、すがるような眼差しを向けた。その声は、希望を求めるように、震えていた。
「この装置のエネルギー供給システムを、一時的にオーバーロードさせるのです。そうすれば、装置の動きを止められる可能性があります…!」
「オーバーロード…!?でも、そんなことをしたら、この装置、爆発するんじゃないのか!?」
アヤが、心配そうに言った。その瞳には、マックスを心配する、深い愛情が込められていた。
「ええ、その可能性は高いです。しかし、他に方法はありません…!」
マックスは、決意を込めて言った。その声には、わずかながら、恐怖の色も、混じっていた。
「でも、そんな危険なこと…!」
エレーヌが、歌うのをやめ、マックスに訴えかけた。
「エレーヌ…!今は、歌を中断して、体力を温存してくれ…!すまない…」
翔は、エレーヌに、申し訳なさそうに言った。その声は、断腸の思いで、絞り出されていた。
「…わかったわ…」
エレーヌは、翔の真剣な表情を見て、静かに頷いた。そして、再び目を閉じ、静かに呼吸を整え始めた。その表情には、かすかな、安堵の色が浮かんでいた。
「マックス、オーバーロードさせる方法は!?」
翔は、マックスに問いかけた。
「私を、装置のメインコンソールに接続してください。私のエネルギーを、直接、装置に流し込みます…!」
「そんなことをしたら、マックスが…!」
翔は、マックスの提案に、躊躇した。その表情には、深い苦悩の色が、浮かんでいた。マックスは、一瞬、翔の顔を見つめた。その瞳には、深い信頼と、別れの予感が、込められていた。
「大丈夫です、翔。私を信じてください…!」
マックスは、力強く言った。
「…わかった。マックス、頼む…!」
翔は、覚悟を決め、マックスを装置のメインコンソールに接続した。その手は、わずかに震えていた。
「エネルギー、流入開始…!」
マックスが、そう言うと、彼の体から、青白い光が放たれ、装置へと流れ込んでいった。それは、まるで、マックスの命の光が、吸い取られていくかのようだった。
「うう…!」
マックスは、苦しそうな声を上げた。
「マックス…!大丈夫か…!?」
翔は、心配そうに、マックスに声をかけた。
「大丈夫…です…。もう少し…で…」
マックスは、途切れ途切れに、答えた。
その時、装置が、激しい音を立て始めた。それは、まるで、獣のうめき声のようだった。
「まずい…!爆発するぞ…!」
アヤが、叫んだ。
「みんな、離れろ…!」
翔は、仲間たちに、声をかけ、装置から離れた。
次の瞬間、装置が、眩い光を放ち、大爆発を起こした。
爆風が、翔たちを吹き飛ばした。
「ぐわっ…!」
翔は、地面に叩きつけられ、激しい衝撃を受けた。体中が、悲鳴を上げていた。
「みんな…!無事か…!?」
翔は、ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡した。視界が、ぼやけて、定まらなかった。
「ええ…何とか…」
アヤが、埃を払いながら、立ち上がった。
「私も…大丈夫…です…」
エレーヌも、無事だった。
「マックス…!マックス…!」
翔は、マックスを探した。
マックスは、装置の近くに、倒れていた。
「マックス…!しっかりしろ…!」
翔は、マックスに駆け寄り、その体を抱き起こした。
「…翔…私は…大丈夫…です…」
マックスは、目を閉じ、力なく呟いた。
「よかった…無事で…」
翔は、安堵の息をついた。
「装置は…?」
アヤが、問いかけた。
翔は、周囲を見渡した。
回転していた壁も、うねっていた床も、完全に停止していた。
「止まった…みたいだな…」
翔は、力なく呟いた。
「やったのね…私たち…!」
アヤは、喜びの声を上げた。
「ええ…でも、喜んでいる場合じゃないわ…」
エレーヌが、冷静に言った。
「プチは、まだ、クロノスの手に…」
「ああ…そうだったな…」
翔は、エレーヌの言葉に、ハッとした。
「急いで、プチを探さなければ…!」
翔は、立ち上がろうとした、その時だった。
突然、背後から、冷たい声が響いた。
「…よくも、我々の装置を破壊してくれたな…」
その声は、怒りと、侮蔑の感情を、含んでいた。
翔たちが、振り返ると、そこには、クロノスの兵士たちに囲まれた、あのフードを被った人物…クロノスの指導者が立っていた。その姿は、圧倒的な威圧感を放ち、翔たちを、見下ろしていた。
「貴様が、クロノスの指導者か…!」
翔は、強い敵意を込めて、指導者を睨みつけた。
「いかにも…。そして、お前たちが、過去から来た、タイムトラベラーだな…?」
指導者は、静かに、しかし、威圧感のある声で言った。
「お前たちの目的は、すでに把握している。『プロジェクト・ニューエデン』を阻止し、この時代の我々の野望を、阻止すること…違うか?」
指導者は、ゆっくりと、そして、冷たく言い放った。
「…そうだ」
翔は、真っ向から、指導者の問いに答えた。
「我々の邪魔をするというのなら…ここで、消えてもらうぞ…!」
指導者は、そう言うと、手を高く掲げた。
すると、周囲にいたクロノスの兵士たちが、一斉に、翔たちに銃を向けた。
「くっ…!」
翔は、絶体絶命の危機に、直面していた。