囚われのプチ
場所は、クロノスの中枢基地内部、データ保管庫。無数のハードディスクが規則正しく並ぶ部屋の片隅で、プチは小型端末を操作し、情報収集を続けていた。その規則正しく並ぶハードディスクからは、低い駆動音が、静かに響いていた。
「ピッ!『プロジェクト・ニューエデン』のデータは、ここにあるはずなんだけど…ピッ!」
プチは、小さな声で呟きながら、ハードディスクを一つずつ調べていた。「怖くない…怖くない…」と自分に言い聞かせながら。
しかし、その時だった。
「何者だ!?」
突然、背後から、低い声が響いた。その声は、まるで、地を這うような、威圧感に満ちていた。有無を言わさぬ、威圧感に満ちていた。
プチは、驚いて、振り返った。
そこには、銃を構えたクロノスの兵士が、二人、立っていた。
「まずい…!見つかった…ピッ!」
プチは、咄嗟に、近くの棚の陰に隠れた。その小さな体は、恐怖で、小刻みに震えていた。プチの心臓は、恐怖で、張り裂けそうだった。まるで、悪夢の中に、迷い込んでしまったかのようだった。
「ネズミが紛れ込んだようだな…見つけ出して、始末しろ!」
兵士たちは、部屋の中を捜索し始めた。
「ピッ…どうしよう…このままじゃ、捕まっちゃう…ピッ!」
プチは、体を小さく丸め、息を潜めた。
「どこに隠れた、出てこい!」
兵士たちの声が、徐々に近づいてくる。その声は、まるで、獲物を狙う、肉食獣のようだった。
「翔…アヤ…マックス…エレーヌ ピッ…」
プチは、目に涙を浮かべながら、仲間たちの名前を呟いた。その声は、今にも消え入りそうだった。
「もう、ダメかもしれない…ピッ…」
プチが諦めかけた、その時だった。その瞳には、絶望の色が、浮かんでいた。
突然、部屋の照明が、激しく点滅し始めた。まるで、プチの運命を暗示するかのように、不規則に、そして、激しく、点滅していた。
「何だ…!?」
兵士たちは、突然の出来事に、戸惑った。
「今のうちに…ピッ!」
プチは、一瞬の隙をついて、棚の陰から飛び出した。それは、まさに、決死の行動だった。
「逃がすな!撃て!」
兵士たちは、プチに向かって、銃を発砲した。銃弾は、プチが隠れていた棚を、容赦なく貫いた。しかし、プチは、間一髪のところで、銃弾をかわした。
「くそっ…ピッ!」
プチは、兵士たちから逃れようと、必死に走った。
しかし、多勢に無勢、ついにプチは追い詰められ、兵士たちに取り押さえられてしまった。その小さな体は、無力にも、兵士たちの腕の中に、囚われてしまった。
「大人しくしろ!」
兵士の一人が、プチの小さな体に、縄を巻きつけた。
「ピッ…離せ!僕は、まだ…ピッ!」
プチは、必死に抵抗したが、兵士たちには敵わなかった。
「抵抗しても無駄だ。お前は、もう終わりだ」
兵士は、冷たく言い放った。その言葉は、まるで、死刑宣告のように、プチの心に突き刺さった。
「ピッ…翔…みんな…ピッ…」
プチは、力なく呟き、意識を失った。その最後の言葉は、仲間たちへの、深い想いを、物語っていた。
一方、その頃、翔たちは、リョウたちと合流し、クロノスの中枢基地で得た情報について、報告を行っていた。その表情は、一様に、緊張と、決意に満ちていた。
「これが、クロノスの情報ネットワークからダウンロードしたデータです」
翔は、ホログラムプロジェクターを起動し、「プロジェクト・ニューエデン」に関するデータを映し出した。そのデータは、彼らの想像を、遥かに超える、恐るべき計画を、示していた。
「奴らは、環境制御装置を使って、地球を改造するだけでなく、人々の精神まで支配しようとしている…」
翔は、怒りと決意を込めて、言った。その声は、わずかに震えていた。
「そして、これが、その証拠です…」
翔は、さらに、別のデータを映し出した。
「この映像を見てください。これは、一見、希望の象徴のように見えるかもしれません。しかし…」
翔は、そこで言葉を切り、映像を拡大した。その瞳には、深い悲しみと、怒りが宿っていた。
「よく見てください。この芽の周辺には、微量の特殊な粒子が検出されました」
マックスが、映像を指差しながら、説明した。その声は、いつもの冷静さを保ちながらも、わずかに、怒りを含んでいるように聞こえた。
「この粒子こそ、クロノスが環境制御装置から放出している、精神操作のための粒子です」
「何だって…!?」
リョウは、驚きの声を上げた。
「じゃあ、あの緑の芽は…」
ケンタが、言葉を詰まらせた。
「ええ。クロノスが、人々を欺くために作り出した、偽りの希望だったのよ」
アヤが、悲しげな表情で言った。
「人々は、あの緑の芽を見て、未来に希望を抱き、クロノスの支配を受け入れてしまう…そんなことが…」
エレーヌが、信じられないといった様子で、呟いた。その表情は、深い悲しみに満ちていた。
「許せない…!」
翔は、拳を強く握りしめ、怒りを露わにした。
「こんなやり方、間違ってる…!人々を騙して、支配するなんて…絶対に許せない!」
翔の瞳には、強い怒りの炎が燃え上がっていた。
「…待てよ、そういえば、プチのやつ、まだ戻ってきていないな」
それまで黙って話を聞いていたリョウが、ふと、そんなことを言い出した。その言葉が、その場の空気を、一瞬にして凍りつかせた。
「プチなら、別行動で、データ保管庫から情報を…」
翔がそこまで言いかけた時、突然、マックスが目を見開いた。
「大変です!プチからの信号が…途絶えました!」
マックスの青い瞳が、警告を示すように、赤く点滅した。
「何だって…!?」
翔は、愕然とした。
「プチ…まさか…!?」
翔たちの間に、最悪の予感が広がった。それは、まるで、冷たい影のように、彼らの心を覆っていった。
「落ち着け、翔。まだ、決まったわけじゃない…」
リョウが、翔の肩に手を置き、言った。
「しかし、一刻も早く、プチの安否を確認する必要がある…!」
翔は、リョウの言葉に、ハッとした。「その通りだ」と、翔は強く思った。
「ああ、その通りだ…」
翔は、再び、強い決意を胸に、立ち上がった。その表情は、先ほどまでの迷いを、完全に断ち切っていた。
「プチを…必ず助け出す…!」
翔の瞳には、強い決意の光が宿っていた。
一方、その頃、プチは、クロノスの基地内の、冷たい独房の中に、閉じ込められていた。その場所は、希望の光が、一切届かない、絶望の空間だった。
「ピッ!こんなところで、捕まるなんて…ピッ!」
プチは、縄で縛られたまま、悔しそうに呟いた。その小さな体は、怒りと、悔しさで、震えていた。
「ピッ!翔…みんな…無事でいてくれ…ピッ…」
プチは、目に涙を浮かべながら、仲間たちの無事を祈った。その声は、今にも泣き出しそうだった。そして、かすかに、震えていた。