鉄の支配
翔たちが監視ステーションから持ち帰った情報は、レジスタンスたちに衝撃を与えた。それは、彼らが今まで直面していた脅威が、想像を遥かに超える規模であったことを、意味していた。クロノスの「プロジェクト・ニューエデン」の全貌、そして、その恐るべき内容を知った彼らは、改めてクロノスの脅威を思い知らされたのだった。部屋の中は、重苦しい空気に包まれた。
「これが、クロノスの真の狙いだったとは…」
リョウは、苦々しい表情で、壁に投影された資料を見つめていた。そこには、環境制御装置の設計図や、
「プロジェクト・ニューエデン」の概要、そして、クロノスが支配する未来社会の構想図などが映し出されていた。そのどれもが、人類の自由を奪い、隷属させるための、忌まわしい計画を示していた。
「このままでは、未来は、クロノスの独裁国家になってしまう…」
アヤが、不安げに言った。その声は、恐怖で、小さく震えていた。
「でも、まだ希望はあるわ」
エレーヌが、力強く言った。
「私たちには、クロノスの計画を阻止する力がある。そして、何よりも、未来を救いたいという強い意志がある」
「ああ、その通りだ」
翔は、エレーヌの言葉に、力強く頷いた。
「僕たちは、絶対に諦めない。クロノスの野望を、必ず阻止するんだ」
翔の言葉に、レジスタンスのメンバーたちも、力強く頷いた。彼らの目には、再び、闘志の炎が灯った。
しかし、その決意を嘲笑うかのように、クロノスは、さらなる圧政を敷き始めていた。それは、まるで、希望の芽を摘み取ろうとする、悪魔の手のようだった。
「緊急速報です!」
突然、部屋に設置された通信機から、緊迫した声が響いた。その声は、レジスタンスメンバーの一人から、緊急事態を告げるものだった。
「クロノスが、大規模な捜索隊を編成し、レジスタンスの掃討作戦を開始しました!」
「何だと…!?」
リョウは、驚きの声を上げた。
「街の至る所に、検問が設置され、市民への監視も強化されています!」
通信機からの報告は、さらに続いた。
「クロノスのホログラム映像が、街中に映し出され、市民に協力を呼びかけています!」
「くそっ…!奴ら、本気で俺たちを潰しに来たか…!」
リョウは、悔しそうに、拳を握りしめた。その顔は、怒りと、焦りで、歪んでいた。
その時、部屋の壁に設置された大型モニターに、クロノスの指導者のホログラム映像が映し出された。その姿は、以前クロノスの本部で見た、フードを目深に被った、あの謎の人物だった。
『市民諸君、よく聞け』
威厳に満ちた、しかし、冷酷な声が、部屋中に響き渡った。その声は、人々の心に恐怖を植え付ける、呪いのように、絡みついてくるようだった。
『私は、クロノスの指導者である。今、この街は、重大な危機に瀕している。一部の過激派組織…いわゆる「レジスタンス」が、我々の平和と秩序を乱そうと、企んでいるのだ』
指導者の言葉に、レジスタンスのメンバーたちは、怒りの表情を浮かべた。
『奴らは、過去から来たタイムトラベラーと結託し、未来を破壊しようとしている。私は、諸君らに協力を要請する。レジスタンスに関する情報があれば、どんな些細なことでも構わない、すぐに報告してほしい。我々の未来を守るために…』
指導者のホログラム映像は、そこで途切れた。その言葉は、市民たちへの脅迫であると同時に、彼ら自身への、陶酔のようにも聞こえた。
「奴ら、好き勝手なことを言いやがって…!」
ケンタが、怒りを込めて言った。
「しかし、このままでは、俺たちも危ないぞ…」
別のメンバーが、不安げに言った。その声は、恐怖で、わずかに震えていた。
「ああ。クロノスの捜索は、日に日に厳しさを増している。このアジトも、いつまで安全かはわからない…」
リョウは、難しい表情で、腕を組んだ。
「何か、対策を考えなければ…」
翔が、そう言いかけた時だった。
突然、アジト内に、けたたましい警報音が鳴り響いた。それは、彼らの最悪の予感が的中したことを、告げていた。
「何だ!?」
リョウが、叫びながら、立ち上がった。
「クロノスに見つかったか…!?」
ケンタが、焦りの表情を浮かべた。
「いや、違う…!」
マックスが、警報音の発生源を特定し、言った。
「これは、レジスタンスのメンバーが、クロノスに捕らえられたことを知らせる信号です…!」
「何だって…!?」
リョウは、驚きの声を上げた。
「場所は…?どこで捕まったんだ…!?」
「座標XXX、北緯YY、東経ZZ…街の中心部です!」
マックスが、捕らえられたメンバーの位置を特定した。
「くそっ…!また、仲間が…!」
リョウは、悔しそうに、床を蹴りつけた。
「リョウ…どうする…?」
翔は、リョウに問いかけた。その瞳には、不安と、決意が入り混じった、複雑な光が宿っていた。
「…救出に向かうぞ」
リョウは、決意を固めた表情で、言った。その声は、迷いを断ち切るように、力強かった。
「しかし、危険すぎるぞ…!クロノスの罠かもしれない…!」
ケンタが、リョウを止めようとした。
「罠だろうが何だろうが、仲間を見捨てるわけにはいかない…!」
リョウは、強い意志を込めて言った。その言葉は、彼の揺るぎない信念を、表していた。
「俺は、必ず、仲間を助け出す…!」
リョウの言葉に、レジスタンスのメンバーたちは、力強く頷いた。彼らの目には、再び、闘志の炎が灯った。
「よし、行くぞ…!」
リョウは、翔たちに、声をかけた。
「僕たちも、一緒に行く」
翔は、力強く言った。
「ああ、頼む…!」
リョウは、翔の手を、力強く握り返した。
翔たちは、リョウと共に、捕らえられた仲間を救出するために、再び、クロノスの支配する街へと向かった。それは、あまりにも危険な、しかし、避けられない戦いの始まりだった。
しかし、彼らを待ち受けていたのは、クロノスの非情な罠と、過酷な戦いだった。
街の至る所に、クロノスの兵士たちが配置され、厳戒態勢が敷かれていた。上空には、無数のドローンが飛び交い、地上を監視している。その赤い監視光は、まるで、獲物を狙う、肉食獣の目のようだった。
そして、街の中心にある広場には、巨大なホログラムスクリーンが設置され、クロノスの指導者の映像が、繰り返し映し出されていた。
『レジスタンスに告ぐ。直ちに武装解除し、投降せよ。さもなくば、貴様らに未来はない…』
指導者の冷酷な声が、街中に響き渡る。その声は、まるで、死神の宣告のように、人々の心に恐怖を植え付けていった。
翔たちは、息を潜めながら、広場へと近づいていった。
広場の中央には、捕らえられたレジスタンスのメンバーたちが、鎖で繋がれ、跪かされていた。
彼らは、激しい拷問を受けたのか、全身傷だらけで、意識も朦朧としているようだった。その姿は、見るも無残で、翔たちの怒りに、火をつけた。
「何て酷いことを…!」
アヤが、怒りと悲しみに満ちた声で言った。その瞳には、涙が浮かんでいた。
「絶対に、許さない…!」
翔は、拳を強く握りしめ、クロノスへの怒りを露わにした。
「必ず、仲間を助け出す…!」
翔たちは、クロノスの非情な支配に立ち向かうべく、決意を新たに、広場へと足を踏み入れた。彼らの背中には、未来への希望と、仲間への想いが、重くのしかかっていた。
しかし、その瞬間、彼らは、クロノスの恐るべき罠に、足を踏み入れてしまったことに、まだ気づいていなかった…