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母の面影、そして未来からのSOS


場所は、翔の自宅のダイニングキッチン。夕暮れ時、窓の外は赤く染まり、部屋の中は、温かみのあるオレンジ色の光に包まれている。窓から差し込む夕日は、部屋全体を、優しいオレンジ色に染め上げ、テーブルの上の料理を、一層美味しそうに見せていた。壁に掛けられた時計の針は、ゆっくりと、しかし確実に、夕暮れの時を刻んでいた。テーブルの上には、ほかほかと湯気を立てる夕食が並び、山田さんが、忙しそうに立ち働いている。


「翔ちゃん、ご飯できたわよ」


山田さんは、優しく微笑みながら、翔に声をかけた。彼女は、翔の母親が失踪してからずっと、翔の面倒を見てくれている、もう一人の母親のような存在だ。ふくよかな体型で、いつも優しい笑顔を絶やさない彼女は、翔にとって心の支えとなっていた。


「ありがとう、山田さん。今日も美味しそうだね」


翔は、テーブルにつきながら、山田さんに笑顔を向けた。テーブルの上には、ハンバーグ、ポテトサラダ、野菜スープなど、翔の好きな料理が並んでいる。ほかほかと湯気を立てる料理からは、山田さんの愛情が伝わってくるようだった。


「今日はね、翔ちゃんの大好きなハンバーグにしたのよ。たくさん食べて、大きくなってね」


山田さんは、翔の皿に、ハンバーグを取り分けながら、母親のような、優しい笑顔で言った。


「うん!山田さんのハンバーグ、世界で一番美味しいよ!」


翔は、ハンバーグを頬張りながら、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、まるで、幼い子供のように無邪気だった。普段の凛々しい表情とは違い、年相応のあどけなさが残っていた。


「もう、翔ちゃんたら、おだてても何も出ないわよ」


山田さんは、そう言いながらも、嬉しさを隠しきれない様子で、照れくさそうに笑い、翔の頭を優しく撫でた。

しばらくの間、二人は、和やかな雰囲気の中で、食事を楽しんでいた。しかし、翔の心の中には、常に、母親のことが引っかかっていた。


「ねえ、山田さん…」


翔は、食事の手を止め、真剣な表情で、山田さんに問いかけた。


「お母さんのこと、何か知らない…?」


その言葉に、山田さんの手が止まった。彼女の表情から、一瞬にして笑顔が消え、悲しげな色が浮かんだ。まるで、古傷が、再び痛み出したかのような、そんな表情だった。


「翔ちゃん…」


山田さんは、何かを言い淀むように、言葉を詰まらせた。


「お母さんがいなくなってから、もう何年も経つよね…」


翔は、寂しそうに呟いた。


「お母さんは、僕に何も言わずに出て行っちゃった…一体、どこで何をしているんだろう…?」


翔の瞳には、不安と寂しさが入り混じった、複雑な感情が浮かんでいた。


「翔ちゃん…」


山田さんは、翔の肩に、そっと手を置いた。


「お母様はね、きっと、翔ちゃんのことを思って、出て行かれたのよ…」


山田さんは、翔に言い聞かせるように言った。


「僕のことを思って…?」


翔は、山田さんの言葉を、理解できないといった表情で、聞き返した。


「ええ…お母様は、いつも、翔ちゃんのことを一番に考えていらっしゃったわ…」


山田さんは、遠い過去を懐かしむように、目を細めた。その瞳には、遠い過去への、懐かしさと、哀愁が入り混じった、複雑な光が浮かんでいた。


「お母様は、とても優しい方だったわ…いつも、翔ちゃんのことを、それはそれは、大切にされていて…」


山田さんは、そこで言葉を切り、何かを思い出すかのように、窓の外に視線を向けた。


「ある日、お母様は、私にこうおっしゃったの…『山田さん、もし、私に何かあったら、翔のことをお願いします…』って…」


山田さんの瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


「その時、私は、お母様が、何か重大な決意をされたのだと感じたわ…でも、私には、それを止めることはできなかった…」


山田さんは、悔しそうに、唇を噛み締めた。その拳は、固く握りしめられ、微かに震えていた。


「お母さんは、一体、何のために…?」


翔は、やり場のない思いを、山田さんにぶつけた。


「ごめんなさい、翔ちゃん…私にも、わからないの…」


山田さんは、力なく首を振った。


「ただ…お母様は、きっと、翔ちゃんのことを、誰よりも愛していらっしゃった…それだけは、間違いないわ…」


山田さんは、翔の目を、真っ直ぐに見つめながら、言った。その言葉には、強い確信が込められていた。

その言葉に、翔は、胸が締め付けられるような思いがした。母親の深い愛情を、改めて感じ、目頭が熱くなった。


「お母さん…」


翔は、小さく呟き、俯いた。その肩は、小さく震えていた。

しばらくの間、部屋の中は、静寂に包まれた。

やがて、山田さんが、静かに立ち上がった。


「翔ちゃん、これを見て…」


山田さんは、棚の上から、古びた木箱を取り出し、翔の前に置いた。


「これは、お母様が、大切にされていたものよ…」


翔は、木箱を手に取り、ゆっくりと蓋を開けた。

中には、一枚の写真が入っていた。

写真には、若かりし頃の母親と、幼い翔、そして、父親らしき男性が写っていた。三人は、笑顔で、幸せそうに寄り添っていた。


「お父さん…」


翔は、写真の中の父親の顔を、じっと見つめた。その指先は、微かに震えていた。


「お父様は、優秀な科学者だったわ…お母様と、いつも、未来の話をされていた…」


山田さんは、懐かしそうに言った。


「でも、お父さんは、何かの研究中に、亡くなってしまったの…」


翔は、写真から目を離さず、黙って山田さんの話を聞いていた。


「お父様が亡くなってから、お母様は、人が変わったように、研究に没頭されるようになったわ…」


山田さんは、悲しげな表情で、続けた。


「そして、ある日、翔ちゃんを私に託して突然、姿を消されてしまったの…」


翔は、写真の中の父親の顔を、指でなぞった。


「お父さんとお母さんの研究…クロノスと何か関係があるのか…?」


翔は、小さく呟いた。


「さあ…私には、わからないわ…」


山田さんは、力なく首を振った。


「でも、翔ちゃん…お母様は、きっと、どこかで、翔ちゃんのことを、見守ってくださっているわ…」


山田さんは、翔の肩に、優しく手を置いた。


「だから、翔ちゃんも、希望を捨てずに、前を向いて歩いていってね…」


山田さんは、翔の背中を、優しく、しかし力強く、押した。

山田さんの言葉に、翔は、ゆっくりと顔を上げた。


「うん…ありがとう、山田さん…」


翔は、力強く頷いた。

その瞳には、母親への深い愛情と、未来への希望の光が、確かに宿っていた。

この木箱の中にある写真、そして母親が失踪する前に山田さんに託した言葉。それらは、母親の真実、そしてクロノスとの関係を知るための、重要な手がかりとなるのかもしれない。

その時、部屋の隅に置かれたままだったマックスが、突然、青い瞳を強く光らせた。


「翔!緊急事態です!」


マックスが、いつもとは違う、緊迫した声で言った。


「どうしたんだ、マックス?」


翔は、マックスに駆け寄った。


「未来からのSOS信号をキャッチしました!発信源は、座標XXX、北緯YY、東経ZZ…現在の東京近郊です!」


「未来からのSOS…?」


翔は、マックスの言葉に、息を呑んだ。


「発信者は、リョウと名乗っています。クロノスの支配に抵抗する、レジスタンス組織のリーダーを名乗っているようです」


「レジスタンス…未来にも、クロノスと戦っている人たちがいるんだ…」


翔は、驚きを隠せない様子だった。


「彼らは、クロノスの『プロジェクト・ニューエデン』に関する情報を掴んだようです。しかし、クロノスの追跡が厳しく、通信が途絶する恐れがあります」


「『プロジェクト・ニューエデン』…?何だ、それは…?」


翔は、聞き慣れない言葉に、眉をひそめた。


「詳細は不明です。しかし、クロノスが、未来の世界で、何か大規模な計画を実行しようとしていることは確かです。先程の通信で、彼らは、その計画の情報を、こちらに送ろうとしていたようです。」


とマックスが補足した。


「どうする、翔ちゃん…?」


山田さんは、不安げな表情で、翔の顔を覗き込んだ。


「…行くしかない」


翔は、決意を固めた表情で、言った。


「未来のレジスタンスを助け、クロノスの計画を阻止するんだ」


「でも、危ないわ…!」


山田さんは、翔の腕を掴み、引き留めようとした。


「大丈夫、山田さん。僕には、マックスがいる。それに、アヤ、プチ、エレーヌも一緒だ」


翔は、山田さんの手を、優しく振りほどき、言った。


「それに…これは、母さんの謎を解く、手がかりになるかもしれない…」


翔は、ポケットから、母親の写真を取り出し、じっと見つめた。


「行ってくるよ、山田さん。必ず、無事に帰ってくるから…」


翔は、山田さんに、力強く言った。


「翔ちゃん…」


山田さんは、心配そうな表情を浮かべながらも、翔の強い決意を前に、それ以上、引き留めることはできなかった。


「…わかったわ。でも、無理だけはしないでね…」


「うん、ありがとう…」


翔は、山田さんに、優しく微笑みかけた。

そして、マックス、アヤ、プチ、エレーヌと共に、未来へと向かった。




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