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プロローグ:クロノスの暗躍


巨大なドーム状の建造物、それがクロノスの本拠地だった。外の世界とは隔絶されたその空間は、無機質な金属の壁と、人工的な光に満たされていた。壁面には、無数の配線が這い回り、所々で青白い光が点滅している。ドームの中心には、複雑な配線が絡み合う巨大な装置が鎮座し、周囲には、白衣を着た研究員たちが忙しなく動き回っている。人工的な光は、彼らの顔に、冷たい影を落としていた。

そのドームの一角、一段高くなった場所に設けられた司令室では、ガラス張りの壁面から、ドーム内部の様子が一望できた。クロノスの幹部たちがホログラム映像を囲み、深刻な面持ちで議論を交わしていた。ホログラムには、先ほどコウタとミク、そして老婆が見つけた、あの小さな緑の芽が映し出されている。それは、クロノスの巨大な基地の中では、あまりにも小さく、か弱い存在だった。


「馬鹿な…!砂漠に緑が芽吹くなど…信じられん…」


幹部の一人、痩せぎすで神経質そうな男が、苛立ちを隠せない様子で声を荒げた。彼のこめかみには、青い血管が浮き出ている。その指先は、細かく震えていた。早口でまくしたてるように話すのが特徴だ。


「我々の計画に、何か誤算があったとでもいうのか…?」


もう一人、恰幅の良い、しかし目つきの鋭い男が、低く唸るように言った。彼の顔には、長い年月、悪事に手を染めてきたことが刻まれているようだった。その瞳は、冷酷な光を放っている。力で全てを解決しようとする、傲慢な性格だ。


「しかし、これまでも何度か同様の現象は確認されています。データ上では…」


幹部の中で最も若く見える、眼鏡をかけた男が、冷静な口調で指摘した。


「過去にタイムトラベルした、あの少年…翔とか言ったか?彼の干渉による影響でしょう」


「だが、ヤツは産業革命の時代で蒸気機関の設計図を持ち帰っただけのはず…それがなぜ、未来の環境に及ぼす?」


痩せぎすの男が、苛立たしげに問い返す。


「おそらく、翔が過去で成し遂げたことは、我々の予測を遥かに上回る影響を、時間軸に及ぼしているのです」


眼鏡の男は、淡々と答えた。


「ヤツは、我々が預かり知らぬ、何か特別な力を持っているのかもしれません」


「特別な力…?フン、くだらん。そんなものは、科学の力で、ねじ伏せられるわ!」


恰幅の良い男が、鼻で笑い、力強く言い放った。


「ですが、油断は禁物です」


眼鏡の男は、なおも食い下がる。


「現に、こうして未来に変化が現れているのですから…このまま放置すれば、我々の計画に支障をきたす恐れがあります」


「……」


恰幅の良い男は、しばし沈黙し、顎に手を当てて考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。


「ならば、ここは一つ、計画を前倒しにするか…」


「しかし、それではリスクが…」


眼鏡の男が、懸念を示す。


「黙れ、これは決定事項だ」


恰幅の良い男が、眼鏡の男の言葉を遮った。


「『プロジェクト・ニューエデン』…予定よりも早く、実行に移す」


その言葉に、幹部たちの間に、緊張が走った。


「『プロジェクト・ニューエデン』…ですか」


痩せぎすの男が、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「ああ。環境制御技術を用いて、地球を人工的な楽園に変えるのだ。我々の理想とする世界に…」


恰幅の良い男は、不敵な笑みを浮かべながら言った。


「そして、その過程で、邪魔な芽は、全て摘み取る…」


その言葉は、まるで刃物のように、鋭く、冷たく、部屋に響いた。彼の瞳には、狂気にも似た光が宿っていた。


「しかし、その技術には、まだ不安定な要素が…」


眼鏡の男が、再び、懸念を示そうとした、その時だった。


「もうよい」


部屋の奥、一段と高い場所に設置された玉座から、威厳に満ちた声が響いた。

その声に、幹部たちは、一斉に頭を下げた。

玉座には、一人の人物が座っていた。その人物は、フードを目深に被り、その表情は、暗闇に隠れて、窺い知ることはできない。しかし、その存在感は、圧倒的であり、その場の空気を、支配していた。


「計画は、予定通り実行する」


玉座の人物は、静かに、しかし、逆らうことを許さない口調で言った。


「我々の理想の世界を創るのだ。そのためには、多少のリスクは、覚悟の上…」


「ハッ!」


幹部たちは、一斉に頭を下げ、その言葉に従う意思を示した。

玉座の人物は、ゆっくりと立ち上がると、ホログラム映像に映し出された、小さな緑の芽を見つめた。その瞳には、怒り、焦り、そして、ほんのわずかな、恐れのようなものが、混ざり合っていた。


「邪魔な芽は、全て刈り取る…」


その言葉は、まるで、自分自身に言い聞かせているかのようだった。その声は、微かに、だが、確かに震えていた。

そして、その瞳には、冷酷な光と共に、どこか悲しげな色が混じっているようにも見えた。

この瞬間、未来の運命は、大きく動き出した。

クロノスの野望、そして、翔たちの戦い…

全ては、まだ始まったばかりだった。

クロノスの指導者の目的、そして、その正体…

それは、まだ深い闇の中に、包まれていた。

そして、その闇は、これから、少しずつ、明らかになっていくことになる…

希望の芽、そして、クロノスの野望…

未来の運命は、今、まさに、揺れ動こうとしていた。




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