アジト探索
「クロノスのアジト……一体どこにあるんだろう……」
翔は地図を広げながら呟いた。
奪われた設計図、マックスの分析、そして未来の危機。
それらが重く翔の肩にのしかかっていた。
もしクロノスの計画を阻止できなければ、未来はどうなってしまうのか?
翔は未来で見た荒廃した光景を思い出す。
乾ききった大地、風に舞う砂塵、そして静まり返った廃墟。
生命の息吹を感じられない世界……。
「そんな未来は絶対に阻止する!」
翔は拳を強く握りしめた。
「マックス、何か手がかりはないか?」
翔はマックスに尋ねた。
マックスは静かに目を閉じ、意識を集中させた。
彼の青い瞳は微かに輝き、周囲の微細なエネルギーの流れを捉えようとしていた。
街の喧騒、人々の生活音、行き交う馬車の蹄の音、そして大地の微かな振動。
あらゆる情報がマックスの意識に流れ込んでくる。
しかし、クロノスに繋がるような情報は何もなかった。
彼らは痕跡を完全に消している……まるで存在しないかのように。
「……街の人に聞いても無駄だ」
マックスは目を開けた。
「クロノスの反応は、意図的に隠蔽されている。通常の手段では探知できない」
「どういうことだ?」
翔が尋ねた。
「彼らは特殊な技術を使っている。
エネルギーフィールドのようなもので、自分たちの痕跡を完全に消しているんだ。
僕のセンサーでなければ、感知することすら不可能だろう」
マックスは真剣な表情で答えた。
「ただし……微弱だが、確かに反応はある。
森の奥深く……通常の人間では立ち入らないような場所に、その反応は続いている」
「通常の人間では立ち入らない場所……?」
アヤが眉をひそめた。
「何か危険でもあるの?」
「それについてはわからない。
だが、通常の森とは違うエネルギーの流れを感じる。
まるで……何か異質な空間がそこだけ切り取られているような……」
マックスは森の方を見つめた。
翔たちはマックスの言葉を信じ、街外れの森へ向かった。
街を抜けると、景色は一変した。
舗装された道はすぐに途切れ、足元は湿った土と落ち葉で覆われた。
鬱蒼と茂る木々が空を覆い、昼なお暗い。
湿った土と苔の匂い、そして時折聞こえる不気味な鳥の鳴き声が、一行を包み込む。
森の奥へ進むにつれて、空気は重く、静寂は深まっていった。
木々の間から漏れる僅かな光さえも、濃い霧に遮られ、視界は極端に悪くなっていた。
まるで何かに覆われているかのように、周囲の音が吸い込まれていくような感覚に襲われる。
風の音さえも、木々の葉が擦れ合う音さえも、聞こえない。
まるで世界から隔絶されたような、異様な静けさだった。
「マックス……本当にこの先に何かあるのか……?」
アヤが不安そうに尋ねた。
彼女は周囲を警戒しながら、懐から小型のレーザー銃を取り出した。
「間違いない。反応は確実に強まっている。だが……」
マックスは言葉を濁した。
「この森は……何かがおかしい。
通常の森とは違うエネルギーの流れを感じる。
まるで……結界のようなものに覆われている……」
「結界……?魔法のようなものか?」
翔は眉をひそめた。
ギヨームから魔法の存在は聞いていたが、
実際に目にするのは初めてだった。
「魔法と呼ぶべきかどうかはわからない。
だが、何らかの力場が働いているのは確かだ。
僕のセンサーも、その影響を受けて若干不安定になっている」
マックスは額に汗を浮かべながら言った。
彼は体内の分析装置をフル稼働させ、
結界の構造を解析しようとしていた。
その時、マックスが足を止めた。
「ここだ。反応が最も強い」
目の前には、鬱蒼とした木々が茂っているだけで、
建物らしきものは何も見えない。
しかし、マックスは確信していた。
「目を凝らして見てくれ。注意深く……」
翔たちが注意深く周囲を見渡すと、
木々の間にかすかな歪みがあることに気づいた。
それはまるで、熱い空気を通して遠くの景色を見た時のような、
蜃気楼のような歪みだった。
歪みの境界線は揺らめき、周囲の景色を微妙に屈折させている。
「あれは……」
アヤが息を呑んだ。
歪みの奥には、確かに何かが存在する。
銀色に輝く巨大なドーム状の建造物の一部が、
木々の隙間から僅かに見えていた。
それはまるで、周囲の風景に溶け込むように、
光学迷彩のような技術で隠蔽されているようだった。
木々の葉の隙間から覗くドームは、
まるで水面に映った月のように歪んで見え、
その全貌を捉えることはできない。
「あれがクロノスのアジト……」
翔は息を呑んだ。
壁は特殊な素材で出来ているのか、
光を屈折させて周囲の風景を映し出している。
注意深く見なければ、
そこに巨大な建造物があることには気づかないだろう。
周囲を囲む壁も、ただの壁ではない。
所々に設置された装置から、
微弱なエネルギー波が放出されているのを、
マックスには感じ取れた。
これが結界の正体なのだろう。
その結界は、まるで水面のように揺らめき、
周囲の風景を歪ませている。
そのため、建物全体をはっきりと視認することができない。
門の前には黒いマントを羽織ったクロノスのメンバーが立っている。
彼らは武器を持ち、鋭い視線で周囲を警戒している。
ドームの中から微かな機械音や人の声が漏れ聞こえてくる。
それは規則的な機械の作動音と、低い話し声が混じり合った、
不気味な音だった。
翔は決意を込めて言った。
「よし、潜入するぞ!」
翔は仲間たちに合図を送った。
彼らはクロノスのアジトに潜入することになったのだった。
しかし、その入り口は、
まるで巨大な口を開けた怪物の胃袋のように、
彼らを飲み込もうとしていた。
彼らはまだ知らない。
この先に待ち受けているものが、
彼らの想像を遥かに超えるものであることを……。