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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
産業革命の光と影
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ワットの決意


翔たちは急ぎ足でワットの工場へ戻った。朝の光を浴びて、レンガ造りの工場は昨日よりも陰鬱に見えた。工場の門の前には昨日よりも多くの警備員が配置され、物々しい雰囲気が漂っている。警備員たちは険しい表情で周囲を警戒し、手に持つ銃に油を差している。工場の周囲には有刺鉄線が張り巡らされ、まるで要塞のようだ。近くの運河からは、かすかに油の匂いが漂ってくる。物騒な世の中になったものだと、翔は眉をひそめた。クロノスの影響は、確実にこの街にも及んでいる。


「ワットさん!」


翔は工場の事務所に駆け込むと、息せき切って話しかけた。事務所の中は、機械油とインクの匂いが混じり合っている。壁には蒸気機関の設計図や部品の図面が所狭しと貼られており、ワットがこれまで積み重ねてきた努力を物語っている。


「翔君?どうしたんだい?そんな慌てて」


ワットは翔の様子に驚き尋ねた。彼の顔には、疲労の色が濃く表れている。昨晩は眠れなかったのだろう。


「大変です!ワットさん!街で聞いたのですが、クロノスがワットさんの技術を狙っているそうです!」


ワットは翔の言葉に驚き、顔色を変えた。彼の顔から血の気が引き、青ざめていく。


「そんな……まさか……でも、本当かもしれない」


ワットは窓の外を見ながら言った。工場の裏手には、巨大な蒸気機関がそびえ立っている。それはワットの人生そのものと言っても過言ではない。


「私の技術が悪用されたら大変なことになる……」


ワットは不安を隠せない様子だった。彼は蒸気機関を愛していた。それは彼の情熱であり、人生そのものだった。しかしそれは同時に彼の恐怖でもあった。蒸気機関は人類にとって大きな進歩をもたらすものだが、同時に破壊の道具にもなりうることをワットは知っていたのだ。それは、過去の悲しい出来事が彼に教えてくれた教訓だった。


「もし私の技術がクロノスの手に渡ったら……奴らはきっとそれを兵器に利用するだろう。そして多くの人々を傷つけるだろう。いや、それだけではない……」


ワットは恐怖に震えた。彼の脳裏には、最悪のシナリオが次々と浮かんでくる。クロノスは蒸気機関をどのように利用するのだろうか?一体どんな兵器を作り出すのだろうか?想像するだけで、ワットの背筋は凍り付いた。ワットは過去の記憶を呼び覚ました。それはまだ彼が若かった頃、蒸気機関の試作品が爆発事故を起こし、多くの労働者が犠牲になった時のことだった。轟音と共に工場は炎に包まれ、壁や天井が崩れ落ち、逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡った。瓦礫の下敷きになった人、炎に焼かれる人、そして助けを求める声も虚しく力尽きていく人。ワットはその光景を今でも鮮明に覚えていた。焦げ臭い匂い、熱風、そして人々の悲鳴……それらはワットの心に深い傷跡を残した。


「私はあの時誓ったんだ。二度とあんな悲劇を繰り返さないと……私の発明で、人々を傷つけるようなことは絶対にしないと……」


ワットは唇を噛みしめ、過去の過ちを悔やんだ。彼の目には、深い悲しみが宿っていた。

翔はワットの肩に手を置いた。


「ワットさん、あなたの技術は人々を幸せにする力を持っています。だから決して諦めないでください!」


翔の言葉はワットの心に温かく響いた。彼は翔の目を見つめた。そこには未来への希望が輝いていた。まるで、失われた光を見つけたかのように。


「翔君……君は本当に私の息子のようだ……君はあの事故のことを知っているのか?」


ワットは目頭を熱くしながら翔の手を握りしめた。彼の目には、感謝と戸惑いの色が混じり合っていた。


「ありがとう、翔君。君たちの言葉は私に勇気をくれる。でも……私は……」


「ワットさん、私たちはあなたを決して見捨てません!」


アヤが力強く言った。アヤはワットのもう片方の手を握りしめた。彼女の言葉には、強い決意が込められていた。


「私たちは仲間です!それに、私たちは科学者として、技術が正しく使われるように見届ける責任があります!」


「ピッ!ワットさん、がんばって!ピッ!」


プチはワットの足元にすり寄りながら応援した。彼の小さな体は、ワットの足に優しく触れている。


「ワットさん、あなたは強く優しい人です。私たちはあなたを信じています」


エレーヌが静かに、しかし力強く言った。彼女の優しい歌声は、ワットの心を癒し、勇気を与えた。


「ワットさん、あなたの技術は多くの人々を救うことができます。だからどうか希望を捨てないでください。過去の悲劇に囚われるのではなく、未来のために力を貸してください」


マックスもワットを励ました。彼の言葉は論理的でありながらも、ワットの心を慮る優しさに満ちていた。

ワットは皆の言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げた。彼の目には、先ほどまでの悲しみや恐れは消え、代わりに強い決意の光が宿っていた。


「私は……間違っていた……過去の影に怯え、自分の力を恐れていた……しかし、君たちの言う通りだ……私の技術は、人々を幸せにするためにある……クロノスに、好き勝手にはさせない!」


ワットは力強く宣言した。彼は拳を握りしめ、天井を見上げた。


「私はもう逃げるのはやめる!私は自分の発明、そしてこの時代を守るために戦うんだ!過去の悲劇を繰り返さないために、未来のために……私は戦う!」


ワットの目には強い決意の光が宿っていた。過去の悲劇を思い出し彼は体を震わせた。しかし彼はもう過去にとらわれてはいなかった。彼は未来を見つめていた。そして、その未来を自分の手で切り開こうとしていた。


「私は君たちと共に未来を切り開く!」


翔たちはワットの決意に心から感動した。


「ワットさん……」


翔はワットの手を握り返した。


「僕たちもあなたと共に戦います!」


アヤ、プチ、エレーヌ、そしてマックスも力強く頷いた。彼らはワットと共にクロノスに立ち向かうことを決意したのだった。その時、事務所のドアが開き、一人の労働者が慌てた様子で飛び込んできた。


「大変です!ワットさん!クロノスの連中が、また工場に近づいてきています!」




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