テディベアが時空を超える時

産業革命の光と影

翔の怒り

翔たちは、工場のさらに奥へと進んでいった。轟音は激しさを増し、熱気と湿気が肌にまとわりつく。空気は、煤煙と粉塵で淀んでおり、まるで砂嵐の中にいるかのように、息をするのも苦しいほどだ。

喉がチクチクと痛み、咳が止まらない。目を開けているのも辛く、涙が溢れてくる。労働者たちは、咳き込みながら、黙々と作業を続けている。

「ゴホッゴホッ」

工場内に響き渡る、乾いた咳の音。労働者たちの顔や手は、煤煙で黒く汚れている。目は充血し、疲れきった表情をしている。彼らの顔色は土気色で、目はくぼみ、頬はこけている。

油と煤で黒く汚れた服は、何日も着続けているのか、所々が破れ、ほつれている。労働者の多くは、栄養失調のためか、骨ばって痩せ細り、歩くのもやっとの様子だ。中には、咳が止まらず、血を吐いている者もいる。

「ここは換気が悪いようですね」

翔は、ハンカチで口と鼻を押さえながら言った。

「ええ、そうなんです」

ワットは、苦しそうに答えた。

「この工場はまだ換気設備が整っていないんです。そのため煤煙や粉塵が工場内に充満してしまい、労働者たちの健康を害しているんです」

ワットの言葉通り、床には、咳き込んで倒れている労働者が何人もいた。

「あの人たち大丈夫なの？」

エレーヌは、心配そうに尋ねた。

「いえ多くの人が呼吸器系の病気を患っています」

ワットは、悲しそうに答えた。

「長時間労働、低賃金、栄養不足、そして劣悪な労働環境、それらはすべて資本家たちの利益を追求するためなんです。労働者たちはまるで機械の部品のように扱われている。この工場だけでも去年1年間で500人の労働者が過労や病気で亡くなりました。それでも会社は何も対策をしようとしません。彼らにとって労働者の命はただの数字でしかないんです。」

翔は、ワットの言葉を聞いて、怒りで体が震えた。 彼の脳裏には、未来で見た子供たちの笑顔が浮かんだ。 未来の子供たちは、学校で学び、遊び、夢に向かって努力することができる。

しかし、この時代の子供たちは、薄暗い工場で、危険な作業を強いられている。

彼らに、未来への希望はあるのだろうか？ 翔は、この時代の子供たちを救いたいと、強く思った。 そして、未来を変えるために、自分は何をすべきなのかを考え始めた。

アヤは、未来の技術との違いに衝撃を受けていた。

「未来では工場の空気は常にクリーンに保たれているわ。労働者たちは清潔な環境で働くことができるのよ。未来では、工場の空気は常にクリーンに保たれ、温度や湿度も快適に調節されている。労働者たちは、安全で快適な環境で働くことができる。また、労働時間は短縮され、賃金も向上し、誰もが人間らしい生活を送ることができるんだ。」

アヤは、未来の工場の様子を説明した。

「ピッ！あの人たちかわいそうピッ！」

プチは、労働者たちの苦しそうな姿を見て心を痛めていた。

エレーヌは、労働者たちの不安や恐怖を感じ取っていた。

「彼らの心は暗闇に閉ざされている。私たちは彼らに希望を与えなければ」

エレーヌは、静かに言った。

翔たちは、労働者たちに近づいて話しかけた。

「あの、すみません」

翔は、一人の労働者に声をかけた。

「はい？」

労働者は、翔たちを見上げて答えた。

「私たちは旅人なんです。この工場のことをもっと知りたいと思って」

翔は、説明した。

「旅人？」

労働者は、翔たちの言葉を不思議そうに繰り返した。

「ええそうです。この工場で働いている皆さんにお話を伺いたいんです」

翔は、丁寧に言った。

労働者は、少し考えてから頷いた。

「わかりました。では少し休憩しましょう」

労働者は、他の労働者たちに声をかけた。

そして彼らは工場の片隅に集まり翔たちに語り始めた。

「毎日12時間以上働いています。 賃金は安くて家族を養うのもやっとです。 食事はパンとスープだけです。 病気になっても休むことは許されません。 子供たちも働かせないと生活できません。」

労働者たちは疲れ切った声で翔たちに語りかけた。 彼らの言葉は翔たちの心に深く突き刺さった。

「私たちは絶対にこの時代を変えなければならない」

翔は、改めて決意を固めた。

アヤも、未来の技術でこの時代を救いたいと強く思った。

プチは、労働者たちの笑顔を取り戻したいと願った。

エレーヌは、歌で労働者たちに希望を与えたいと思った。

そしてマックスはこの工場の劣悪な労働環境が時空の歪みに関係しているのではないかと疑っていた。彼は密かにセンサーで工場内を調査し始めた。

翔たちはこの工場の劣悪な労働環境を目の当たりにし改めて未来を変える決意を固めたのだった。

工場の奥へ進むにつれて、轟音はさらに大きくなり、熱気も増してきた。翔たちは、まるで巨大な生き物の体内を歩いているような錯覚に陥る。薄暗い通路を抜けると、そこには、さらに衝撃的な光景が広がっていた。

工場の片隅に、小さな子供たちが集められ、大人と同じように働いていたのだ。

5歳くらいの女の子が、油で真っ黒に汚れたボロボロのワンピースを着て、糸巻き機の前に座り込んでいる。彼女の髪は、もつれて汚れ、顔には煤がこびりついている。小さな指先は、糸巻き機の操作で擦り切れて、血が滲んでいる。まるで、魂が抜けてしまった人形のようだった。

近くでは、7歳くらいの男の子が、自分の体よりも大きな鉄板を、両手で抱えて運んでいる。鉄板の熱で、彼の腕は真っ赤に火傷し、水ぶくれができて破れている。それでも、彼は歯を食いしばり、よろめきながら、鉄板を運んでいる。彼の足取りは重く、今にも倒れそうだった。

「これは」

翔は、言葉を失った。

翔は、激しい怒りと、深い悲しみを感じた。 彼は、未来では決して見ることのない、児童労働の残酷な現実を、目の当たりにしたのだ。 翔は、この子供たちを救いたいと、強く思った。

しかし、どうすれば 彼らを この苦しみから 解放してあげられるのだろうか？

翔は、自分の無力さに、歯がゆさを感じた。 だが、彼は諦めなかった。 この時代を変え、未来を明るいものにするために、 自分は何をすべきなのかを、真剣に考え始めた。

「ひどい」

アヤは、涙をこらえきれなかった。 彼女は、未来の子供たちの姿を思い浮かべた。 明るい教室で学び、緑いっぱいの公園で遊び、夢を語り合う子供たち。 その姿とはあまりにもかけ離れた現実に、 アヤは、胸が張り裂けそうだった。

「ピッ！こわいピッ！」

プチは、子供たちの姿を見て、恐怖で震えていた。 彼は、アヤに抱きつき、「ピッ！帰りたいピッ！」と訴えた。

エレーヌは、子供たちの疲れた心に寄り添い、静かに祈りを捧げた。

「どうかあの子たちに安らぎを」

マックスは、冷静に状況を分析した。

「これは深刻な問題だ。子供たちは長時間労働低賃金、そして危険な作業に従事させられている。彼らの健康状態は非常に悪い。このままでは彼らの未来はない。」

マックスの言葉に、翔たちは言葉を失った。 翔は、子供たちに近づいて話しかけた。

「ねえ君たち」

しかし、子供たちは翔たちを警戒し、 目を伏せて、何も答えない。 彼らは、大人たちに逆らうことを、恐れていたのだ。

「大丈夫！僕たちは君たちを助けに来たんだ！」

翔は、優しく語りかけた。 しかし、子供たちは依然として警戒を解かない。

「君たちはなぜここで働いているんだ？」

翔は、尋ねた。

「おなかすくから 　はたらかなきゃだめなんだ」

一人の男の子が、 小さな声で答えた。

「僕たちには家族がいるんだ。お父さんお母さん弟妹、僕たちが働かないとみんな飢え死んでしまう」

別の女の子が言った。 子供たちの言葉に翔たちは言葉を失った。

ワットは、目を潤ませながら、静かに説明した。

「この工場では100人以上の子供が働いています。 中にはまだ4歳の子供もいるんです、彼らは6歳くらいから働き始め 1日12時間以上働かされています。賃金は大人の半分以下です、彼らは学校に行くことも遊ぶことも許されません、ただひたすら働くだけです」

ワットは、言葉を詰まらせた。

「私はこの子たちをどうにかして助けたい 。そう思っていますが 、なかなか難しいのが現状です」

ワットの言葉に翔たちは深い悲しみを感じた。 翔は、未来の子供たちの姿を思い浮かべた。 未来の子供たちは、学校で学び、遊び、自由に過ごすことができる。 しかし、この時代の子供たちは、 そんな当たり前の権利すら奪われているのだ。 翔は、この残酷な現実を変えたいと強く思った。

その時、翔は、工場の奥で クロノスのメンバーらしき人物を見かけた。

彼らは、子供たちに、 小さな部品を組み立てさせていた。 その部品は、見たこともない複雑な形をしており、 何に使われるのか、翔には見当もつかなかった。

翔は、クロノスが児童労働を悪用して 何かを企んでいるのではないかと疑った。

子供たちの姿を見て、翔の心は激しい怒りで燃え上がった。

「こんなひどい！」

翔は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。 彼の目は、怒りで燃えており、額には青筋が浮き出ていた。 呼吸は荒く、体は怒りで震えていた。 彼は、まるで怒り狂う獣のようだった。

彼の脳裏には、未来で見た子供たちの笑顔が、走馬灯のように駆け巡る。 あの笑顔をこの時代の子供たちにも取り戻してあげたい！ そんな強い思いが翔の怒りをさらに大きく燃え上がらせた。

翔は、未来の子供たちの姿を思い出した。 彼らは、広々とした教室で、最新の技術を駆使して、楽しそうに学んでいた。 翔もまた、彼らと同じように、学校に通い、多くのことを学んだ。 そして、友達と遊び、夢を語り合った。 未来の子供たちは、翔にとって、弟や妹のような存在だった。 だからこそ、翔は、この時代の子供たちの姿を見て、胸が締め付けられるような思いだった。

「なぜこんなことが許されるんだ！」

翔は、怒りを込めて叫んだ。 彼の怒りは、燃え盛る炎のように、彼の心を焼き尽くそうとしていた。

翔は、何か行動を起こさなければそう思った。

翔は、決意を固めた。

今こそ行動を起こす時だ！ 僕はこの手で未来を切り開く！

「ワットさん」

翔は、ワットに真剣な表情で話しかけた。

「私たちはこの子供たちを救う方法を考えなければなりません」

翔の言葉に、ワットは静かに頷いた。

「ええそうだな」

ワットもまた、子供たちの姿を見て心を痛めていた。

「私にできることがあれば」

ワットは、言った。

「ありがとう、ワットさん」

翔は、ワットの言葉に感謝した。

「僕たちは力を合わせてこの問題に立ち向かいましょう」

「翔！」

アヤは、涙をこらえながら、翔の肩に手を置いた。

「私もあの子たちを絶対に助けたい！」

「ピッ！ボクも頑張るピッ！」

プチは、心配そうに翔の顔を見上げ、彼の足元にすり寄った。

「翔、あなたの気持ちよくわかります」

エレーヌは、翔に寄り添った。

「翔の怒り、そして決意しかと受け取ったよ」

マックスは、翔の目をまっすぐに見つめた。

彼らは翔の怒りと決意に共感し共に戦うことを誓ったのだった。