産業革命期のイギリスへ
青白い光が収まると、翔たちは見慣れない場所に立っていた。
「ここは…?」
翔が、あたりを見回しながら尋ねた。
そこは、レンガ造りの建物がひしめき合う街だった。道の舗装は粗雑な石畳で、馬車や人でごった返している。活気に満チている…はずなのに、鼻をつく煤煙の匂いと、耳をつんざくような機械の轟音で、翔たちは思わず顔をしかめた。
「ココガ…サンギョウカクメイキノイギリス…ナンダネ…」
マックスは、青い瞳を不安げにきょろきょろと動かした。
「うわ…なんだこりゃ…」
翔は、思わず呟いた。未来都市の整然とした風景とは全く異なる、雑多で混沌とした街並み。煤けたレンガの建物、ガタガタと音を立てる馬車、怒号と笑い声が入り混じる喧騒。そして、鼻腔を刺激する煤煙と機械油の匂い。まるで、違う惑星に降り立ったような気分だった。
アヤは目を輝かせた。
「すごい…!まるで、図鑑で見た古代の都市みたい!」
彼女は、煤で黒ずんだ石造りの建物や、古びた看板、行き交う人々の服装に、強い興味を示した。
「ピッ!ピッ!人がいっぱい!馬車もいっぱい!大きい音!ピッ!」
プチは、アヤの肩の上で興奮気味に叫び、飛び跳ねている。まるで、おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさに、好奇心を刺激されているようだった。
エレーヌは、静かに人々の様子を観察していた。
「…希望に満ちた…明るい表情の人もいれば…疲れきって…絶望に沈んでいる人もいる…まるで…光と影が…混在しているみたい…」
彼女は、人々の顔に浮かぶ感情を読み取っていた。喜び、怒り、悲しみ、希望、絶望…様々な感情が渦巻くこの街に、彼女はどこか不安を感じていた。
「翔、気ヲツケロ。コノ時代ハ…危険ナ香リガスル…」
マックスは、鋭い感覚で、この時代の危うさを察知した。彼の体内のセンサーは、時空の歪みから発生する特殊な波動を感知するだけでなく、その波動を分析することで、歪みの発生源や規模、影響範囲などを特定することができるのだ。
「ああ…わかっている…」
翔は、マックスの言葉に頷いた。
「コノジクウノヒズミ…シゼンニハッセイシタモノデハナサソウダナ…」
マックスは、青い瞳を曇らせながら言った。
「ナニモノカニヨッテ…イトテキニヒキオコサレタカノウセイガアル…」
「ってことは…まさか…またクロノス…?」
翔は、思わず声を上げた。
「カノウセイハ…タカイ…ケイカイ…スル…ヒツヨウ…ガ…アル…」
マックスは、真剣な表情で言った。
翔たちは、まず安全な場所を探して、路地裏に身を隠した。
路地裏は薄暗く、湿った石畳からはカビ臭い匂いが漂ってくる。壁には落書きがされ、壊れた木箱やゴミが散乱している。時折、人々が行き交う足音や話し声が聞こえてくる。路地裏の奥には、ゴミが山積みになっており、ハエが飛び交っている。壁には、煤で黒ずんだポスターが剥がれかけ、その下に、貧しそうな人々が身を寄せ合っている。
「ねえ、マックス。これからどうするの?街の中を調べてみる?」
翔は、マックスに尋ねた。
「ソウダネ。まずはジクウノヒズミノゲンインヲツキトメヨウ」
マックスは、真剣な表情で言った。
「コノヒズミハキケンだ。ヒズミガカクダイ…スレバ…レキシガカワッテシマウ…ダケジャナク…ココニイル…ワタシタチ…ジシンモ…ショウメツ…シテシマウ…キケンセイモ…アルンダ」
マックスの言葉に、翔たちは息を呑んだ。
「そんな…!」
アヤは、驚きの声を上げた。
「ピッ…!ボク…消えちゃうの…?ピッ…!」
プチは、不安そうにアヤに抱きついた。
「うう…怖いよ…」
エレーヌは、顔を青ざめた。
「だから…僕たちは…早く…歪みの原因を…突き止め…なければ…ならないんだ…」
翔は、決意を新たにした。
「クロノス…が…また…歴史に…介入しようとしている…のか…?」
翔は、考え込んだ。
「もし…そうだとしたら…奴ら…は…一体…何を…企んでいるんだ…?」
翔は、クロノスに対する疑問を口にした。
「わかんないけど…絶対何か企んでるって!」
マックスは、言った。
「ボクタチハ…チュウイ…ブカク…コウドウ…シナケレバ…ナラナイ…」
マックスは、念を押した。
翔たちは、マックスの指示に従い、人目につかないよう路地裏を移動しながら、街の様子を探ることにした。
黒煙が、まるで生き物のようにうねりながら空を覆い尽くし、太陽の光を貪り食っていた。路地裏では、子供たちが裸足で走り回り、汚れた手でパンの切れ端を口に運んでいる。
翔は、路地裏で見た子供たちの姿に、胸が締め付けられるような思いがした。未来では決して見ることのない、貧困と飢餓の現実を目の当たりにした。子供たちの目は、希望を失い、空虚に見えた。翔は、胸が張り裂けそうになり、この時代の人々を救うために、自分ができることは何でもしようと決意した。
アヤは、建物や人々の服装を興味深そうに観察していた。そして、未来の技術と比較しながら、この時代の技術レベルを分析していた。
プチは、初めて見る馬車や、人々の賑わいに興奮していた。しかし、路地裏の暗さや、人々の悲しそうな表情を見て、不安を感じているようだった。
エレーヌは、人々の心の叫びを感じ取っていた。希望に満ちた声、怒りに満ちた声、悲しみに暮れる声…。彼女は、この時代の人々の心の痛みを、自分のことのように感じていた。
翔たちは、未来の世界とは全く異なる、この時代の厳しい現実に、改めて衝撃を受けた。
「…こんな…世界を…僕たちは…救わなければならないんだ…」
翔は、心に誓った。
彼らは、歴史を守るため、そして未来を救うため、危険な街へと足を踏み入れた。
翔は、クロノスがなぜ産業革命期のイギリスを狙っているのか、その真意を掴めずにいた。もし、彼らが歴史を変えようとしているのだとしたら、一体どのような未来を創造しようとしているのだろうか?翔は、不安と好奇心が入り混じる複雑な気持ちを抱いていた。
その時、マックスが、翔の腕の中で震え始めた。
「ショウ!大変だ!ジクウノヒズミがおおきくなっている!」
マックスは、苦しそうに言った。
「なんだって…?」
翔は、驚いてマックスを見た。
「どうやら…この時代の…どこかで…歴史が…変わりつつある…ようだ…」
マックスは、深刻な表情で言った。
「歴史が…変わりつつある…?」
翔は、マックスの言葉の意味を理解しようと努めた。
「そう…このままでは…未来に…大きな影響が…出てしまう…」
マックスは、不安そうに言った。
「僕たちは…どうすれば…いいんだ…?」
翔は、マックスに尋ねた。
「まずは…ジクウノヒズミノ…ゲンインヲ…ツキトメル…ヒツヨウガ…アル…」
マックスは、冷静に言った。
「わかった…」
翔は、決意を新たにした。
「僕たちは…この時代の…どこかで…歴史を…変えようとしている…何者かを…見つけ出すんだ!」
翔は、力強く宣言した。
「アヤ、プチ、エレーヌ…頼んだぞ!」
翔は、仲間たちに声をかけた。
「ええ!任せて!」
「ピッ!ボクもがんばる!ピッ!」
「私も…全力を尽くします…」
アヤ、プチ、エレーヌは、力強く答えた。
翔たちは、歴史を守るため、そして未来を救うため、再び立ち上がった。




