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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
中世ヨーロッパ冒険譚
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エレーヌ

深まる絶望


翔たちがリュシアンの圧倒的な力の前に屈し、希望を失いかけていたその時だった。

広場の片隅で、物陰に隠れていたエレーヌは、屋敷の様子を不安そうに眺めていた。

(大変…!)

エレーヌは、リュシアンの放つ禍々しい魔力を感じ、胸騒ぎを覚えていた。


「何か…しなければ…」


エレーヌは、リュートを強く握りしめた。

その時、エレーヌの脳裏に、祖母の言葉が蘇った。


「エレーヌ…お前は…特別な力を持っている…その歌声で…人々を…救うことができる…」


祖母は、エレーヌに、歌い手の家系に生まれた自分の使命を教え諭した。


「でも…私には…そんな力…」


エレーヌは、自信がなかった。


「エレーヌ…自分を信じなさい…お前の歌声は…必ず…人々に…希望を与える…」


祖母の言葉は、エレーヌの心に深く刻まれていた。


「希望…を与える…?」


エレーヌは、リュートを抱え、屋敷へと走り出した。

そして、屋敷の庭に辿り着くと、リュシアンの圧倒的な力の前に苦戦する翔たちの姿が目に入った。


「みんな…!」


エレーヌは、迷わずリュートを奏で、歌い始めた。

その歌声は、まるで天使の歌声のように美しく、清らかだった。

リュシアンは、エレーヌの歌声を聞いて、動きを止めた。


「な…なんだ…この歌声は…?」


リュシアンは、苦しそうに顔を歪めた。額には、冷や汗が浮かび、体はわずかに震えている。

エレーヌの歌声は、リュシアンの魔力を弱める効果があるようだった。


「こ、これは…!」


アヤは、エレーヌの歌声に驚き、そして希望を見出した。


「エレーヌの歌声には…魔力に対抗する力があるのかもしれない…!」


アヤは、興奮気味に言った。

翔たちもまた、エレーヌの歌声に励まされ、再び fighting spirit を燃やした。


「そうだ…僕たちは…まだ…諦めていない…!」


翔は、剣を握りしめ、よろめきながらも立ち上がった。


「ピィ!クロノスをやっつけるぞ!」


プチも、アヤの肩の上で力強く言った。


「我々ニハ…希望ガ…アル…!」


マックスも、エレーヌの歌声に感動した。


翔たちは、エレーヌの歌声に後押しされ、再びリュシアンに立ち向かった。


「うおおおお!」


翔は、ギヨームから教わった剣技を駆使し、渾身の力でリュシアンに斬りかかる。しかし、リュシアンは、片手で剣を受け止め、嘲るような笑みを浮かべながら、翔を軽々と吹き飛ばした。


「ぐああああ!」


翔は、地面に叩きつけられる。石畳に背骨が打ち付けられ、息ができない。視界がぼやけ、耳鳴りがする。


「翔!」


アヤの悲鳴が、遠くで聞こえる。

プチは、機敏な動きでリュシアンの背後に回り込み、鋭い爪で攻撃を仕掛ける。


「ピィ!喰らえ!」


しかし、リュシアンは、まるでプチの動きを見透かしているかのように、いとも簡単に攻撃をかわしてしまう。


「無駄だ…」


リュシアンは、冷酷な声で言った。

アヤは、薬草を調合し、翔とプチの傷を癒そうとする。指先が震え、薬草を落とす。リュシアンの放つ強力な魔力が、アヤの薬草の効果を打ち消してしまう。


「くっ…!ダメ…!」


アヤは、歯を食いしばり、諦めずに薬草を調合し続けた。

翔たちは、エレーヌの歌声に励まされながらも、リュシアンの圧倒的な力の前に、再び追い詰められていく。

崩れゆく希望


「もう…ダメだ…」


翔は、力なく呟いた。意識が薄れていく中で、故郷の砂漠の風景が目に浮かぶ。


「ピィ…僕たち…負けるの…?」


プチもまた、 fighting spirit を失いかけていた。


「諦めないで…!」


アヤは、必死に声を振り絞った。


「私たちには…まだ…やれることがある…!」


しかし、アヤの声は、虚しく響くだけだった。

リュシアンは、冷酷な笑みを浮かべながら、翔たちに近づいていく。


「愚かな…お前たちに…未来を変える力など…ない…」


リュシアンは、翔たちにとどめを刺そうと、剣を高く掲げた。

その時、エレーヌの歌声が、一段と高くなった。まるで、翔たちを鼓舞するかのように、希望を繋ぎとめるかのように。

だが、リュシアンの剣は、容赦なく振り下ろされた。

瞬間、世界が、 slow motion のように動き始めた。


その時、ギヨームがよろめきながらリュシアンの前に立ちはだかった。


「リュシアン…!」


ギヨームは、弟を止めるために、剣を震える手で構えた。


「兄上…邪魔をするな…」


リュシアンは、冷酷な目でギヨームを見つめた。だが、その奥底には、微かな苦悩の色が浮かんでいた。


「リュシアン…私は…お前を止めなければならない…!」


ギヨームは、悲痛な表情で言った。愛する弟を、自らの手で止めなければならない。その現実に、ギヨームの心は引き裂かれそうだった。


「なぜだ…兄上…!」


リュシアンは、ギヨームに詰め寄った。


「なぜ…私を…邪魔するのだ…!」


リュシアンの声は、怒りと悲しみが入り混じり、震えていた。


「お前は…道を間違えている…!」


ギヨームは、叫んだ。


「クロノスに…加担するなど…!」


「クロノスは…私に…力と…目的を…与えてくれた…!」


リュシアンは、反論した。


「私は…クロノスと共に…この世界を…変える…!」


「それは…間違っている…!」


ギヨームは、リュシアンを説得しようとした。


「リュシアン…お前は…まだ…戻れる…!」


「もう…遅い…!」


リュシアンは、ギヨームの言葉を遮った。


「私は…もう…クロノスの騎士だ…!」


リュシアンの瞳からは、涙がこぼれ落ちた。


「兄上…すまない…」


そう呟くと、リュシアンはギヨームに襲いかかった。


断ち切られる絆


ギヨームは、リュシアンの攻撃を必死に防いだ。しかし、リュシアンの力は、ギヨームをはるかに上回っていた。


二人の剣が激しくぶつかり合う。火花が散り、金属音が屋敷に響き渡る。リュシアンの剣技は、かつてギヨームが教えたものだった。しかし、その剣は、今やギヨームに向けられている。


「ぐあっ…!」


ギヨームは、リュシアンの剣を受け、地面に倒れ込んだ。


「ギヨーム様!」


翔たちは、ギヨームの危機に駆けつけた。


「もう…ダメだ…」


ギヨームは、弱々しく言った。


「お前たちは…逃げるんだ…」


「でも…ギヨーム様…!」


翔は、ギヨームを置いて逃げることなどできなかった。


「行け…!」


ギヨームは、翔たちを突き飛ばした。


「お前たちは…未来を…救うんだ…!」


翔たちは、ギヨームの言葉に後押しされ、屋敷から飛び出した。


リュシアンは、翔たちを追いかけようとした。


しかし、ギヨームが、リュシアンの行く手を阻んだ。


「リュシアン…お前を…逃がすわけには…いかない…」


ギヨームは、最後の力を振り絞って、リュシアンに立ち向かった。


「兄上…!」


リュシアンは、ギヨームの覚悟を感じ、剣を収めた。


「…行け…」


ギヨームは、リュシアンに背を向け、翔たちの方を見た。


「未来を…救ってくれ…」


翔たちは、ギヨームの言葉に応えるように、力強く頷いた。


そして、涙を流しながら、屋敷を後にした。


希望を託して


翔たちは、森の中を走り抜けた。


背後からは、クロノスの騎士たちの追跡の手が迫っていた。


木々の間を縫うように走りながら、翔はギヨームの最期の言葉を思い出していた。


「未来を…救ってくれ…」


(ギヨーム様…)


翔は、ギヨームの sacrifice を無駄にするわけにはいかない、と心に誓った。


その時、アヤが足を止めた。


「アヤ…?」


翔は、アヤに尋ねた。


「あそこ…」


アヤは、森の奥を指差した。


そこには、洞窟があった。


「あそこに…隠れよう…!」


アヤは、そう言うと、洞窟の中へと入っていった。


翔たちも、アヤの後を追いかけた。


洞窟の中は、暗く、湿っていた。


翔たちは、息を潜め、クロノスの騎士たちが通り過ぎるのを待った。


しばらくすると、騎士たちの足音が遠ざかっていった。


「…大丈夫…かな…?」


翔は、不安そうに尋ねた。


「大丈夫…だと思う…」


アヤは、答えた。


「でも…このまま…ここにいても…いいのか…?」


翔は、再び尋ねた。


「…わからない…」


アヤは、答えた。


「でも…今は…他に…行くところがない…」


翔たちは、洞窟の中で、夜を明かすことにした。

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