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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
中世ヨーロッパ冒険譚
35/134

騎士への道

黒騎士との激闘の後、ギヨームは崩れ落ちた。鎧の下から流れ出す鮮血が、石畳を赤く染めていく。


「ギヨーム様!」


ギヨームは、深呼吸をしてゆっくりと立ち上がった。彼の顔色は悪く、鎧は傷だらけだった。それでも、ギヨームは騎士としての誇りを失っていなかった。


「大丈夫だ…心配するな」


ギヨームは、翔とアヤに微笑みかけた。

その瞬間、翔の心に、熱いものがこみ上げてきた。

(なんて…カッコいいんだ…)

翔は、ギヨームの強さ、そして優しさに心を打たれた。


「ギヨーム様…!」


翔は、ギヨームに駆け寄り、ひざまずいた。


「どうか…僕を弟子にしてください!」


ギヨームは、翔の突然の申し出に驚き、目を丸くした。


「弟子…だと?」


「はい!僕は、ギヨーム様のように強くなりたいんです!人々を守れる、真の騎士になりたいんです!」


翔の言葉は、ギヨームの心に突き刺さった。

ギヨームは、かつて騎士叙任式で誓った言葉を思い出していた。


「弱きを助け、正義を守る…」


しかし、現実は厳しかった。戦争は、多くの人の命を奪い、ギヨームの心にも深い傷を残した。弟のリュシアンは、クロノスに利用され、敵として立ちはだかった。

ギヨームは、騎士としての道を歩むことに迷いを抱いていた。

だが、翔の言葉は、ギヨームの迷いを振り払うようだった。


「お前は…なぜ、騎士になりたいのだ?」


ギヨームは、翔の目をじっと見つめた。

翔は、ギヨームの問いに真剣に答えた。


「僕は…この世界を救いたいんです。未来から来た僕にしかできないことがあるはずです。そのためには…強くなる必要があるんです!」


翔の言葉に、ギヨームは心を揺さぶられた。

(この少年は…)

ギヨームは、翔の中に、かつての自分と同じ情熱を感じた。


「よろしい。わしの弟子として、騎士の道を歩むがよい」


ギヨームは、翔の頭を優しく撫でた。


「だが、覚悟しておくがいい。騎士の道は、決して楽ではないぞ」


「はい!どんな試練にも耐えてみせます!」


翔は、力強く答えた。


「よろしい。ならば、わしの弟子として、騎士の道を歩むがよい」


ギヨームの言葉に、翔は喜びを爆発させた。


「ありがとうございます!ギヨーム様!」


翔は、興奮気味に頭を下げた。

アヤとプチも、翔の喜びを分かち合った。


「翔、よかったわね!」


「ピィ!おめでとう!」


ギヨームは、そんな3人を見て、穏やかに微笑んだ。


「しかし、騎士の道は厳しいぞ。覚悟はできているか?」


ギヨームの言葉に、翔は真剣な表情で答えた。


「はい!どんな試練にも耐えてみせます!」


「よろしい。では、明日からわたくしの屋敷で修行を開始する。準備はいいか?」


ギヨームの問いかけに、翔は少し戸惑った。


「え…あの…屋敷に…?」


翔は、ギヨームの屋敷で生活することになると思っていなかった。マックスとアヤとプチと4人で、街の宿屋に泊まるつもりでいたのだ。

ギヨームは、翔の戸惑いを感じ取り、説明を加えた。


「騎士の修行は、剣術や馬術だけではない。生活のすべてが修行となる。わたくしの屋敷で、騎士としての作法や礼儀作法、そして心構えを学ぶのだ」


翔は、ギヨームの言葉に納得し、深く頷いた。


「わかりました。ギヨーム様。よろしくお願いいたします」


「うむ。では、明日、わしの屋敷に来るように」


ギヨームは、翔にそう告げると、馬にまたがり、街を後にした。

翔は、アヤとプチにギヨームの屋敷で生活することになったと伝えた。


「えー!翔だけずるい!」


アヤは、少し拗ねたように言った。


「しょうがないだろ。騎士の修行なんだから」


翔は、苦笑しながら答えた。


「翔、騎士の修行、頑張ってね。私も、この街でできることを探してみるわ」


「ああ、ありがとう、アヤ」


翔は、見送られながら、ギヨームの屋敷へと向かった。

屋敷の門をくぐると、翔は改めてその大きさに圧倒された。広大な敷地、立派な建物、そして手入れの行き届いた庭園。

(ここで、騎士の修行をするのか…)

翔は、緊張と期待を胸に、屋敷の中へと足を踏み入れた。

こうして、翔はギヨームの屋敷で、新たな生活を始めることになった。


ギヨームの屋敷での生活は、翔にとって初めての経験ばかりだった。毎朝、鶏の鳴き声で目を覚まし、冷たい井戸水で顔を洗う。朝食は、硬いパンとスープ。そして、すぐに始まる厳しい訓練。


剣術の稽古では、ギヨームの鋭い剣さばきに翻弄され、何度も地面に転がされた。ギヨームの剣は、まるで生きているかのように翔の動きを予測し、容赦なく襲いかかってくる。


「まだまだだ、翔!もっと集中しろ!」


ギヨームの叱咤激励が飛ぶ。翔は、汗と泥にまみれながらも、必死に剣を振るった。


「ハァ…ハァ…」


息が切れ、腕が震える。それでも、翔は諦めなかった。ギヨームのように強くなりたい。その一心で、歯を食いしばって訓練に励んだ。

(くそっ…全然ダメだ…)

翔は、自分の未熟さに歯がゆさを感じていた。未来を救うという大きな使命を背負っているのに、今の自分に何ができるのか。不安と焦りが、翔の心を締め付ける。

しかし、そんな翔を見て、ギヨームは静かに言った。


「焦るな、翔。騎士の道は、一日にして成らず。大切なのは、諦めずに努力を続けることだ」


ギヨームの言葉は、翔の心に深く響いた。

(諦めない…)

翔は、ギヨームの言葉を胸に、再び剣を握りしめた。

昼には、馬術訓練が行われた。最初は馬に乗ることさえままならなかった翔だが、ギヨームの指導と、持ち前のバランス感覚で、次第に馬を操れるようになっていった。


「いいぞ、翔!その調子だ!」


ギヨームに褒められると、翔は嬉しさを噛みしめた。

(できた…!)

翔は、少しずつ成長している自分に自信を持つことができた。

昼には、馬術訓練が行われた。馬場の広場で、ギヨームは翔に手綱の握り方、騎乗の仕方、馬への合図の出し方などを丁寧に教えた。


「馬は生き物だ。お前が心を許せば、馬もお前に心を開く。焦らず、ゆっくりと信頼関係を築くことが大切だ」


ギヨームの言葉に、翔は真剣に耳を傾けた。

しかし、実際に馬に乗ってみると、翔は全くうまくいかなかった。馬の背中は高く、乗るのも一苦労だ。やっとの思いで乗馬できたと思っても、すぐにバランスを崩して落ちてしまう。


「うわっ!」


「大丈夫か、翔!」


ギヨームが駆け寄る。


「はい…大丈夫です…」


翔は、地面に手をつきながら、悔しさを噛みしめた。

(くそっ…なんでうまくいかないんだ…)

翔は、自分の不甲斐なさに苛立ちを感じていた。


「焦るな、翔。馬術は、一朝一夕に身につくものではない」


ギヨームは、優しく翔に声をかけた。


「まずは、馬と仲良くなることから始めよう」


ギヨームは、翔に馬のブラッシングや餌やりを教えた。翔は、馬の温かい体に触れ、優しい瞳を見つめるうちに、次第に馬への恐怖心を克服していった。

そして、何度も練習を重ねるうちに、翔は少しずつ馬を操れるようになっていった。最初は歩くことさえ難しかったが、次第に速足、そして駆け足ができるようになった。


「やった!できた!」


翔は、喜びの声を上げた。

ギヨームも、翔の成長に目を細めた。


「いいぞ、翔!あとは、馬との一体感を掴むことだ」


ギヨームは、翔に馬場を自由に走らせてみた。翔は、風を切って走る爽快感に心を躍らせた。

(すごい…!)

翔は、馬の背中で、まるで自分が鳥になったかのように感じた。

こうして、翔は馬術訓練を通して、馬との信頼関係を築き、騎士としての重要なスキルを身につけていった。

厳しい訓練の合間には、ギヨームとゆっくり話す時間もあった。ギヨームは、翔に故郷のこと、家族のこと、そして未来の話を聞いた。


「翔、君の故郷はどんなところなんだ?」


「僕の故郷は…砂漠化が進んでいるんです。緑はほとんどなくて、水も貴重です。人々は、毎日生き残るために必死です」


翔は、少し寂しそうに答えた。


「そうか…それは大変だな」


ギヨームは、翔の話を真剣に聞いてくれた。


「でも、僕は諦めません!未来を救うために、僕はここに来たんです!」


翔は、力強く宣言した。

ギヨームは、翔の強い意志に感心し、微笑んだ。


「翔、お前ならきっとできる。わしは、お前を信じている」


ギヨームの言葉は、翔の心に温かい光を灯してくれた。

(ギヨーム様…)

翔は、ギヨームの優しさに感謝し、信頼を深めていった。


「翔、明日、試練を行う」


ギヨームの言葉に、翔は緊張した面持ちで頷いた。騎士になるための試練。それは、翔にとって大きな試練であり、同時に、騎士への道を進むための重要な一歩でもあった。

翌朝、翔はギヨームから渡された地図を手に、屋敷を後にした。試練の舞台は、屋敷から少し離れた森の中。深い森の中は、昼間でも薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。

翔は、一人森の中を進む。足元には枯れ葉が積もり、時折、小動物が走り去る音が聞こえる。

(どんな試練が待っているんだろう…)

翔は、不安と期待が入り混じった気持ちで、森の奥へと進んでいった。

魔物との遭遇、恐怖と葛藤

しばらく歩くと、森の中に開けた場所に出た。そこには、古びた祠が建っていた。


「ここが…試練の場所か」


翔は、祠の前に立ち、深呼吸をした。

その時、背後から物音が聞こえた。


「なっ…!」


翔は、振り返ると、巨大な熊が姿を現した。熊は、鋭い牙と爪を剥き出し、威嚇するように唸り声をあげている。


「うわああああ!」


翔は、恐怖で体が硬直した。

(どうしよう…!)

翔は、剣を抜こうとしたが、手が震えてうまくいかない。

熊は、ゆっくりと翔に近づいてくる。翔は、後ずさりしながらも、必死に逃げる方法を探した。

しかし、背後には崖があり、逃げ場はない。

(もう…ダメだ…)

翔は、絶望的な気持ちになった。

その時、ギヨームの言葉を思い出した。


「真の騎士とは、己の力を弱き者のために使う者だ」


(そうだ…僕は、騎士になるんだ!)

翔は、恐怖を振り払い、剣をしっかりと握りしめた。

翔は、二メートルはあろうかという巨体の熊に向かって突進した。熊は、鋭い爪と牙を剥き出し、血走った目で翔を睨みつけている。

(なんて…恐ろしいんだ…!)

翔は、恐怖で体が硬直した。心臓がバクバクと高鳴り、足が震える。

しかし、翔は逃げるわけにはいかない。未来を救うため、そして騎士になるために、この試練を乗り越えなければならないのだ。

翔は、ギヨームから教わった呼吸法で心を落ち着かせ、剣をしっかりと握りしめた。

熊が咆哮を上げながら、翔に襲いかかってきた。

(速い…!)

翔は、熊の攻撃をかわすのが精一杯だった。熊の巨体から繰り出される攻撃は、想像をはるかに超える威力で、木々がなぎ倒されていく。


「ぐああああ!」


翔は、熊の爪が腕をかすめ、深い傷を負った。血が噴き出し、激痛が走る。

(このままでは…!)

翔は、危機感を募らせた。

その時、ギヨームの教えが頭をよぎった。


「敵の動きをよく見ろ。そして、隙を突け」


翔は、深呼吸をして心を落ち着かせ、熊の動きに集中した。

熊が再び襲いかかってきた。今度は、地面を叩きつけ、衝撃波を発生させた。翔は、とっさに飛び上がり、攻撃をかわした。

そして、着地と同時に、ギヨームから教わった剣技を繰り出した。


「うおおおお!」


翔は、剣を水平に薙ぎ払い、熊の顔面を斬りつけた。


「グワー!」


熊は、顔面に一撃を受け、よろめいた。

すかさず、翔は熊の懐に飛び込み、剣を突き上げた。


「とどめだ!」


翔の剣が、熊の腹部に深々と突き刺さった。


「グオオオォォ…!」


熊は、悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。

森に、静寂が訪れた。

翔は、息を切らしながら、倒れた熊を見つめた。血の匂いが、静かな森に漂っている。


「やった…!」


初めて味わう勝利の喜び。しかし、翔は気を緩めなかった。

(まだ…終わっていない)

翔は、周囲を警戒しながら、熊から距離を取った。

しばらく熊を見ていたが動いてくる気配がなかったため、安堵のため息をついた。


「ふぅ…なんとか、倒せた…」


まだ腕の傷は痛むが、それ以上に、試練を乗り越えた達成感で胸がいっぱいだった。

翔は、ギヨームから授かった剣を鞘に収め、祠へと歩み寄った。祠の前には、小さな石碑が立っている。


「これが…試練の証か」


石碑には、古びた文字が刻まれていた。翔は、文字の意味は分からなかったが、これが試練を達成した証であることは理解できた。

翔は、石碑の前にひざまずき、深々と頭を下げた。

(ギヨーム様…見ていてください。僕は、必ず騎士になります)

翔は、改めて騎士になる決意を固めた。

その時、背後から声が聞こえた。


「よくやったな、翔」


振り返ると、ギヨームが立っていた。


「ギヨーム様…!」


翔は、驚き、そして安堵のあまり、その場に崩れ落ちた。


「翔!」


ギヨームは、慌てて翔に駆け寄った。翔の腕からは、まだ血が流れていた。


「これは…!」


ギヨームは、翔の傷の深さに驚き、すぐに手当てを始めた。


「翔、しっかりしろ!」


ギヨームは、声をかけたが、翔は意識を失っていた。

ギヨームは、翔を抱きかかえ、屋敷へと急いだ。



意識を取り戻した翔は、見慣れない天井を見つめていた。


「ここは…?」


翔が起き上がろうとすると、腕に激痛が走った。


「うっ…」


その時、ドアが開き、ギヨームが入ってきた。


「翔、目が覚めたか!」


ギヨームは、安堵の表情で翔に近づいた。


「ギヨーム様…?」


翔は、まだ状況を把握しきれていない様子だった。


「試練の後、お前は気を失っていたんだ。わしが手当てをして、屋敷に連れて帰ってきた」


ギヨームは、優しく説明した。

翔は、自分の腕に巻かれた包帯を見て、試練のことを思い出した。


「あの…熊は…?」


「心配するな。もう、あの熊はいない」


ギヨームの言葉に、翔は安堵した。


「よかった…」


「翔、お前はよくやった。試練を乗り越えたお前を、誇りに思う」


ギヨームは、翔の頭を優しく撫でた。

翔は、ギヨームの言葉に、涙がこみ上げてきた。


「ありがとうございます…ギヨーム様…」


翔は、ギヨームに深々と頭を下げた。


「翔、お前は強い心を持っている。そして、騎士になるための資質も十分にある」


ギヨームは、真剣な表情で翔に言った。


「わしは、お前が騎士になることを、心から願っている」


ギヨームの言葉に、翔は心を揺さぶられた。


「はい…!」


翔は、力強く答えた。


「僕は、必ず騎士になります!」


ギヨームは、翔の決意を感じ、静かに頷いた。


「うむ。わしは、お前を信じている」


二人は、静かに見つめ合った。その瞳には、師弟としての絆、そして未来への希望が輝いていた。

こうして、翔は試練を通して大きく成長した。恐怖を克服し、自信を得た翔は、騎士への道を力強く歩み始めた。



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