恐竜との共存
ジャングルの中を歩いていると、翔は茂みの中でうずくまっている小さな影に気づいた。
「あれは…?」
翔が恐る恐る近づいてみると、それはトリケラトプスの子どもだった。
「どうしたんだろう…?」
トリケラトプスの子どもは、怪我をして弱っているようだ。右の前足が不自然に曲がり、傷口からは血が滲み出ている。歩くたびに足をひきずり、痛みに耐えかねて「クゥーン、クゥーン」と悲しげな鳴き声を上げていた。
その姿を見た翔は、胸が締め付けられる思いだった。
(かわいそうに…。)
翔は、トリケラトプスの子どもに、もっと近づいてみた。
トリケラトプスの子どもは、翔の姿に気づくと、怯えた瞳でこちらを見つめた。助けを求めているようにも、警戒しているようにも見える。
その瞳は、まだ幼く、潤んでいて、今にも泣き出しそうだった。
翔は、ゆっくりと手を伸ばし、トリケラトプスの子どもの頭をそっと撫でてみた。
「大丈夫だよ。怖くないよ。」
翔は、優しい声で話しかけた。
トリケラトプスの子どもは、最初は警戒して体を硬くしていたが、翔の温かい手に触れるうちに、少しずつ落ち着きを取り戻してきたようだ。
「マックス、見て! この子、怪我をしてるみたい…。助けてあげられないかな?」
翔は、マックスに助けを求めた。
マックスは、トリケラトプスの子どもをスキャンした。
「ショウ、コノコハ、アシヲ、オレテイル。ソレニ、タイオンガ、ヒクイ。カゼヲ、ヒイテイルノカモシレナイ。」
「どうすれば…?」
翔は、途方に暮れた。こんなジャングルの中で、どうやって恐竜の怪我を治せばいいのか、見当もつかなかった。
「ショウ、シンパイシナイデ。ワタシニ、マカセテ。」
マックスは、体の中から、医療キットを取り出した。
「コレハ、ミライノ、イリョウキットダ。コレヲ、ツカエバ、コノコノ、ケガヲ、イヤセルコトガ、デキル。」
「すごい! マックス、さすがだね!」
翔は、マックスの未来技術に、改めて感心した。
マックスは、医療キットを使って、トリケラトプスの子どもの怪我を治療した。
まず、骨折した足を固定するために、未来の素材でできた軽いギプスを取り付けた。
そして、注射器のようなもので解熱剤を注射し、小さなカプセルに入った薬を飲ませた。
「未来の医療技術では、骨を瞬時に再生させることができるんだ。この薬を飲めば、すぐに熱も下がるだろう。」
マックスは、説明した。
しばらくすると、トリケラトプスの子どもは、苦しそうな表情が消え、元気を取り戻した。
「よかった…。」
翔は、安堵のため息をついた。
トリケラトプスの子どもは、翔にすり寄ってきた。まるで、感謝の気持ちを伝えているかのように。
翔は、トリケラトプスの子どもの頭を、優しく撫でた。その子は、まだ幼く、額の3本の角も短く、くりくりとした大きな瞳が印象的だった。
「ショウ、キミハ、ヤサシイ。」
「だって、放っておけなかったんだもん。それに…。」
翔は、少しだけ顔を曇らせた。
「江戸時代で、ツユさんと別れた時、もう二度と会えないかもしれないって、すごく悲しかった。この子も、もし僕たちが助けなかったら、このまま死んでしまうかもしれないと思ったら…。そう思うと、どうしても、助けてあげたくなったんだ。」
翔は、トリケラトプスの子どもの頭を撫でながら、そう言った。
「ショウ…。」
マックスは、翔の心の成長を感じ、静かに見守っていた。
「恐竜だって、僕たちと同じ、生き物なんだ。仲良くできたらいいのに…。」
翔は、トリケラトプスの子どもを見つめながら、呟いた。
「ショウ、キミハ、スバラシイ。」
マックスは、翔の言葉を聞いて、感動した。
「未来では、人間と恐竜が共存できるのだろうか…。もし、そんな未来が作れたら…。」
マックスは、未来への希望を込めて、そう言った。
翔は、トリケラトプスの子どもと、しばらくの間、遊んだ。トリケラトプスの子どもは、翔の周りを元気に走り回ったり、翔にじゃれついたりして、楽しそうだ。
「よし、じゃあ、君の名前は…「リトル」にしよう!」
翔は、トリケラトプスの子どもに名前をつけた。
リトルは、「キュウ!」と嬉しそうに鳴き、尻尾をブンブンと振った。
翔とリトルは、すぐに仲良くなった。リトルは、翔の後を嬉しそうに ついて回ったり、翔が投げる木の枝を 得意げに 取って来たりして、楽しそうに遊んでいる。
疲れてくると、リトルは翔に寄り添い、大きな体を休ませる。翔は、リトルの硬い皮膚を優しく撫でながら、その温かさに心を癒されていた。リトルの体は、ゴツゴツしているけれど、温かくて、優しい。
「リトル、君は、本当に可愛いなぁ。」
翔は、リトルの頭を撫でながら、そう言った。
リトルは、嬉しそうに、翔にすり寄ってきた。
翔は、リトルと過ごす時間に、心から安らぎを感じていた。
しかし、楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
日が傾き始め、空がオレンジ色に染まってきた。
「リトル、そろそろ、お別れだ。」
翔は、リトルに別れを告げた。
リトルは、名残惜しそうに、翔を見つめていた。まるで、「行かないで」と言っているかのように、翔の服を引っ張って 引き止めた。
翔は、リトルの頭をもう一度撫でると、「ごめんね、リトル。」と 呟き、静かに背を向けた。
そして、マックスと共に、ジャングルの奥へと進んでいった。
リトルは、翔たちの後ろ姿を、いつまでも見つめていた。
翔は、リトルの後ろ姿を見送りながら、心の中で誓った。
(リトル、いつか、また会おうね。そして、今度は、もっと一緒に遊ぼう。)
翔は、リトルとの別れを通して、命の尊さを改めて実感した。
生まれて間もないリトルが、怪我をして、一人で寂しそうにしていたこと。
そして、マックスの医療キットと翔のやさしい気持ちが、リトルの命を救ったこと。
翔は、すべての生き物は、かけがえのない存在なのだと、心から 思った。
そして、未来を変えるために、さらに強く、優しくなろうと決意した。