嵐の夜、テディベアが光る
窓ガラスを叩きつける雨音が、まるで怒り狂った獣の咆哮のようだった。風の唸りは、家全体を揺さぶり、今にも屋根を吹き飛ばそうとしていた。10歳の翔は、ベッドに潜り込み、毛布を頭まで被っていた。だが、轟轟と鳴り響く雷鳴と、窓枠をガタガタと震わせる強風は、翔の小さな体を恐怖で硬直させるには十分だった。
「お父さん…。」
翔は、思わず呟いた。2年前、科学者だった父は、研究中の事故で帰らぬ人となった。優しい笑顔と、温かい手が忘れられない。母は、翔を一人で育てることはできないと、遠い親戚に預けて姿を消した。美しい母の泣き顔が、今も翔の心に焼き付いている。
以来、翔はこの古びた一軒家で、家政婦の山田さんと二人で暮らしている。山田さんは、いつも優しく接してくれるが、どこか寂しげな影を落としている。
ピカッ!
稲妻が走ると同時に、家の中が真っ暗になった。停電だ。恐怖で心臓がバクバクと高鳴る。目の前が真っ暗で、何も見えない。耳を澄ませば、雨と風の音だけが、ひどく大きく聞こえる。
暗闇の中、翔は枕元のテディベアをぎゅっと抱きしめた。
「マックス…。」
マックスは、父が翔にプレゼントしてくれた、唯一の形見だった。
薄いベージュの毛並みは、年月を経て、ところどころ薄くなり、汚れてしまっている。
それでも、翔は、毎日欠かさずブラッシングをして、大切にしていた。
ちょこんと座った姿は、高さ30センチほどで、少し小柄だ。
片方の目は、昔、翔が誤って取ってしまい、代わりに青いボタンを縫い付けてある。
そのせいか、少し間抜けで、愛嬌のある顔になっている。
翔は、そんなマックスが、大好きだった。
その時、マックスの体がぼんやりと光り始めた。
「え…?」
翔は驚き、目を凝らした。
マックスの光は次第に強くなり、部屋全体を温かく照らし出す。
そして、信じられないことに、マックスが口を開いたのだ。
「ショウ。ワタシノコエ、キコエルカ?」