指導者の嘲笑 - 歪められた理想、救世主の仮面
アヤが母親の研究データから、「プロジェクト・ニューエデン」を阻止する手がかりを掴んだ、その時だった。
突然、部屋の中央に巨大なホログラム映像が出現した。そこに映し出されたのは、漆黒のローブを纏い、仮面で顔を覆い隠した謎の人物……クロノスの指導者だった。部屋の無機質な空気が、その存在感に共鳴するかのように、微かに震える。
「見つけたぞ、タイムトラベラーども……」
指導者の声は、ホログラム映像を通して部屋全体に響き渡った。人工的で冷たく、感情を一切感じさせない声は、聞く者の背筋を凍らせる。
「! クロノスの指導者……!」
翔は指導者の姿を認め、咄嗟に身構えた。光の剣を握る手に、自然と力が入る。
「お前たちの無駄な抵抗も、これまでだ……」
指導者はゆっくりと腕を組み、翔たちを見下ろしながら言った。仮面の奥でどのような表情を浮かべているのか、窺い知ることはできない。その佇まいは、絶対的な自信に満ち溢れていた。
「『プロジェクト・ニューエデン』は間もなく最終段階を迎える……。この私を止めることは、誰にもできはしない……」
「そんなことは、させておけない……!」
翔は指導者に対して力強く言い放った。
「愚かな……。お前たちに何がわかる……?この私は、新世界の救世主となるのだ……」
指導者は翔の言葉を嘲笑うかのように、鼻で笑った。その声には、狂気じみた響きがあった。
「救世主……?違う……!お前は、ただの破壊者だ……!」
翔は怒りを込めて言い返した。
「破壊、だと……?違うな……。私は創造主だ……。古びた、誤謬に満ちた世界を破壊し、新たなる秩序をもたらすのだ……」
指導者は自らの歪んだ理想を語り始めた。その声には、狂信的な響きがあった。言葉とは裏腹に、その声は、歪んだ優越感と陶酔を孕んでいる。
「その、新しい秩序のために、恐竜たちを絶滅させるというの……!?」
アヤが指導者に問いかけた。その声には、深い悲しみと怒りが込められていた。彼女の拳は、怒りに震えている。
「それも必要悪だ……。新たなる世界に、旧き存在は不要……」
指導者は冷酷なまでに言い放った。まるで、それが世界の真理であるかのように。
「ふざけるな……!」
翔は怒りに身を震わせ、指導者に掴みかかろうとした。しかし、ホログラム映像に触れることはできず、その手は空を切った。怒りが、無力感となって翔を苛む。
「無駄な抵抗はやめることだ……。お前たちには、もう何もできはしない……」
指導者は余裕の表情で、翔たちを見下ろしている。
「アヤ……」
指導者はそこで初めて、アヤに視線を向けた。
「お前には特別な才能がある……。恐竜たちへの深い愛情……。そして、あの忌まわしき技術……」
指導者はそこで言葉を切り、不気味な笑みを浮かべた。
「その力を、私のために使わないか……?過去の過ちに囚われるのはやめろ……。私と共に、新世界を創造するのだ……」
指導者はアヤに手を差し伸べた。その手は、まるで悪魔の誘惑のように、アヤを闇へと誘っていた。
「過去の恐竜たちへの、贖罪のために……。お前なら、それができるはずだ……」
指導者はさらに言葉を続けた。その言葉は、アヤの心の奥深くに突き刺さった。
「贖罪……」
アヤは小さく呟いた。彼女の脳裏に、恐竜使いたちの悲痛な叫びが蘇る。
「裏切り者……!」
「お前のせいで……!」
彼らの怒りと憎しみに満ちた言葉が、アヤの心を締め付ける。
「違う……。私は……そんなつもりじゃ……」
アヤは首を横に振り、必死に否定しようとした。しかし、過去の真実は、彼女自身にも、まだわからない。その瞳は、激しく揺れていた。
「さあ、アヤ……。私と共に来るのだ……。我々で新たなる時代を築くのだ……」
指導者は再びアヤに手を差し伸べた。その手は、まるで救いの手のように、アヤには見えた。
「私……は……」
アヤは指導者の言葉に心を揺さぶり、わずかに身を乗り出しそうになる。
その時だった。
「アヤ! そいつの言葉に惑わされるな!」
翔がアヤの腕を掴み、力強く叫んだ。
「翔……」
アヤは翔の言葉にハッとし、我に返った。
「思い出せ、アヤ! お前は恐竜たちを救うために未来から来たんだろ!?」
翔はアヤの目をまっすぐに見つめ、言った。
「俺たちの目的は、奴の野望を阻止することだ! それを忘れるな!」
翔の力強い言葉が、アヤの迷いを断ち切った。
「ええ……そうね」
アヤは力強く頷き、指導者から視線を外した。
「愚かな……」
指導者はアヤの拒絶に小さく呟いた。その声には、失望と怒りの色が混じっていた。
「お前たちには、もう用はない……。せめて、新世界の礎となるがいい」
指導者はそう言うと、ホログラム映像を掻き消した。
「消えた……」
翔は指導者が消えた空間を見つめ、小さく呟いた。
「まだ、何も終わってない。『プロジェクト・ニューエデン』の最終段階が始まる前に、阻止しなければ……!」
アヤは決意を新たに言った。その瞳には、もう迷いはない。
「ああ。そのためにも、まずは母親の残した『装置』を見つけなければ」
翔は力強く頷いた。
「時間がないわ。急ぎましょう!」
アヤはそう言うと、部屋の奥へと駆け出した。
翔、エレーヌ、そしてプチも、アヤの後に続いた。