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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
白亜紀の真実編
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残された課題 - 紡がれる希望、歌に託された未来



『古代植物』との共鳴により、マックスは一時的に意識を取り戻した。しかし、それはあくまで一時的なものに過ぎず、彼の残り少ない「時間」が刻一刻と失われている事実には変わりなかった。洞窟の奥深く、古代植物が放つ生命の光は、マックスの儚い命の灯火と呼応するように、明滅を繰り返している。


「マックス、本当に大丈夫なのか……?」


翔は、再び深い眠りについたマックスを見つめながら、不安げに呟いた。彼の声は、湿った空気に溶け、重苦しい静寂が再び辺りを支配する。


「ええ、今は休ませてあげるのが一番よ」


アヤは優しく、しかし力強く言った。その瞳には、先ほどまでの迷いはもう見られない。彼女の言葉は、翔の不安を優しく包み込む、一条の光のようだった。


「『古代植物』のエネルギーを完全に制御することができれば、マックスを助けることも、クロノスの技術に対抗することもできるはず……」


アヤはそう言うと、『古代植物』を見上げた。その巨大な、そして神秘的な存在は、まるで全てを見透かしているかのように、静かに佇んでいる。その根は地中深くまで伸び、計り知れないエネルギーを蓄えているかのようだ。


「でも、どうやって……? 私には、まだ、その方法が……」


アヤは不安げに呟いた。恐竜たちと心を通わせる能力は覚醒しつつある。しかし、『古代植物』のエネルギーを完全に制御する方法など、皆目見当もつかなかった。彼女の手のひらには、先ほど感じた『古代植物』の温もりが、まだ微かに残っている。


「まずは、落ち着いて、状況を整理しましょう」


エレーヌが静かに、しかしはっきりとした声で言った。


「私たちには、まだ、やるべきことがたくさん残されているわ」


エレーヌの言葉に、翔とアヤは深く頷いた。彼女の言葉は、暗闇の中に灯る灯火のように、進むべき道を照らしている。


「そうね……。まずは、恐竜たちとの繋がりをもっと強くする必要があるわ」


アヤは、洞窟の入り口付近に集まっている恐竜たちを見つめながら言った。彼らはアヤの呼びかけに応じ、ここに集まってきた。しかし、まだ完全な信頼関係が築けているわけではない。恐竜たちの瞳には、不安と警戒の色が混ざり合っている。


「そのためには、アヤの能力の完全な覚醒が必要不可欠だ」


翔はアヤを見つめながら言った。


「ええ……。でも、どうすれば……」


アヤは自分の手のひらを見つめながら呟いた。その手には、まだ見ぬ可能性が秘められているはずなのに。


「『魂の笛』……。その笛をもっと使いこなせれば……」


エレーヌが、アヤの手に握られた『魂の笛』を指差しながら言った。月光石で作られたその笛は、神秘的な光を放ち、静かにアヤの手の中で眠っている。


「そうね……。長老も言っていたわ……。恐竜たちへの愛を胸に……」


アヤはエレーヌの言葉にハッとし、再び『魂の笛』を唇に当てた。


しかし、先ほどのようにはうまく音を奏でることができない。焦りが、彼女の心を蝕んでいく。


「どうして……?」


アヤは焦りを感じていた。


「落ち着いて、アヤ……。心を空っぽにするの……」


エレーヌがアヤの肩にそっと手を置き、優しく言った。


「恐竜たちのことを思い出して……。彼らの痛み、悲しみ、そして喜び……。それらを全て受け止めるの……」


エレーヌの言葉に導かれるように、アヤはゆっくりと目を閉じ、深く深呼吸を繰り返した。


そして、恐竜たちとの出会い、触れ合い、そして共に戦った日々を思い出した。


「みんな……」


アヤは心の中で恐竜たちの名前を一つ一つ呼びかけた。


すると、アヤの心の中に温かいものが流れ込んでくるのを感じた。それは、恐竜たちからアヤへの信頼と愛情……。自然と心が穏やかになり、深い安らぎが訪れる。


アヤは再び『魂の笛』を唇に当て、ゆっくりと息を吹き込んだ。


すると、今度は先ほどとは比べ物にならないほど澄んだ、美しい音色が洞窟内に響き渡った。その音色は優しく、そして力強く、まるで聴く者の魂を揺さぶるような、不思議な力を持っていた。


「すごい……」


翔はアヤの奏でる音色に心を奪われ、思わず感嘆の声を上げた。


「ピィ……」


プチも目を輝かせながら、アヤを見つめている。


恐竜たちもアヤの音色に耳を傾け、静かに佇んでいた。その瞳には深い安らぎの色が浮かんでいるように見えた。


エレーヌはアヤの様子を静かに見守っていた。そして、ふと、何かを思い出したように小さく呟いた。


「歌……」


「歌……?」


翔はエレーヌの言葉に首を傾げた。


「私の歌……。もしかしたら、アヤの助けになるかもしれない……」


エレーヌはそう言うと、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


そして、静かに歌い始めた。


その歌声は優しく、そしてどこか神秘的な響きを持っていた。まるで、遠い昔、失われた古代の調べのようだった。それは、忘れ去られた記憶を呼び覚ますような、懐かしさと哀愁を帯びた旋律。


エレーヌの歌声は、アヤの奏でる笛の音色と見事に調和し、洞窟全体を幻想的な雰囲気で包み込んでいく。


「エレーヌの歌……」


アヤはエレーヌの歌声に導かれるように、さらに深く『古代植物』と共鳴していくのを感じた。


「この歌は……時間軸に……影響を与える……」


その時、微かなマックスの声が聞こえた。


「マックス!?」


翔はマックスの声に希望を見出し、声を上げた。


「エレーヌさんの……歌声……時間軸の……歪みを……安定させる……効果……」


マックスは途切れ途切れの声で言った。


「エレーヌの歌が……時間軸に……?」


アヤは驚きを隠せない。エレーヌの歌声に、そんな力が秘められていたとは思いもしなかった。


「まだ……完全では……ありません……。しかし……可能性は……ある……」


マックスはそう言うと、再び深い眠りに落ちていった。


「マックス……」


翔はマックスの身を案じ、悲痛な声を上げた。


「今は、希望を繋ぐこと……。それが、私たちにできる全て……」


エレーヌは静かに、しかし力強く言った。その瞳には未来への強い決意が宿っていた。彼女の歌声は、絶望の淵に立つ彼らに差し伸べられた、希望の光だった。


エレーヌの歌声は今も洞窟内に響き渡っている。その歌声は、まるで未来への祈りのように、翔たちの心を優しく包み込んでいた。



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