さらなる情報 - 歴史改竄、救世主の狂気、お母さんの選択
観測者の撃退に成功したものの、マックスは再び深い眠りにつき、アヤの記憶も完全には戻らなかった。しかし、それでも彼らは前進しなければならない。失われた真実を掴むために。そして、未来を救うために。
「……長老、まだ動けるか……?」
翔は激しい戦闘で傷ついた長老に声をかけた。長老は先ほどの戦いで恐竜使いたちを守るために自ら盾となり、深い傷を負っていた。肩の傷からは、今も血が滲み出ている。
「なんとか、な……。それより、マックスは……?」
長老は苦痛に顔を歪めながらも、翔の腕の中で眠るマックスを気遣った。
「今は休ませている……。でも、きっと、また目を覚ましてくれるはずだ……」
翔は力強く答えた。その声には、自分自身を鼓舞するような響きがあった。
「そうか……。ならば、よい……」
長老は安堵の表情を浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
「長老……!しっかりしてくれ……!」
翔は長老の意識が遠のいていくのを感じ、慌てて声をかけた。
「心配するな……。まだ、死にはせんよ……。それより……早く……『古代植物』の元へ……」
長老は途切れ途切れの声で言った。
「わかった……。アヤ、エレーヌ、行こう……!」
翔はアヤとエレーヌに声をかけ、再び『古代植物』がそびえ立つ祭壇へと向かった。
「待って、翔……!何か方法がないかしら……?」
アヤが翔を呼び止め、祭壇の上に横たわるマックスを見つめた。その瞳には、強い意志が宿っている。
「マックスのデータにアクセスできれば……『プロジェクト・ニューエデン』の情報が残されているかもしれない……」
「でも、どうやって……?マックスは今は……」
翔が言いかけると、アヤは自分の胸元を指差した。
「『古代植物』……。そのエネルギーを利用できないかしら……?」
「古代植物のエネルギーを……?」
翔はアヤの提案に一瞬戸惑った。しかし、すぐにその可能性に気づき、目を輝かせた。
「そうか……!マックスは『古代植物』と共鳴したんだ……!そのエネルギーを利用すれば、マックスのシステムにアクセスできるかもしれない……!」
「ええ……。そして、その過程で、私の記憶も……」
アヤは決意を込めて言った。
「危険かもしれないけど……やってみる価値はあるわ……」
エレーヌもアヤの提案に賛同した。
「わかった……。やってみよう……」
翔は深く頷き、マックスを祭壇の中央に慎重に置いた。
「アヤ、どうすればいい……?」
翔がアヤに尋ねた。
「私にもわからない……。でも、きっと……」
アヤはそう言うと、ゆっくりと目を閉じ、精神を集中させた。
「『古代植物』のエネルギーを感じるのね……」
アヤは小さく呟き、両手をゆっくりと『古代植物』にかざした。
すると、『古代植物』はアヤの行動に呼応するように、再び脈打ち始め、淡い光を放ち始めた。その光は徐々に強さを増し、アヤの体を優しく包み込んでいく。
「何か、感じるか……?」
翔がアヤに尋ねた。
「ええ……。微かだけど……何かが流れ込んでくる……」
アヤは目を開け、翔に答えた。その瞳には希望の光が宿っていた。
「マックス……聞こえる……?私と繋がって……」
アヤはマックスに語りかけるように言った。そして、さらに強く『古代植物』との共鳴を試みた。
すると、マックスの青い瞳が微かに光った。
「マックス……!」
翔はマックスの反応に歓喜の声を上げた。
「アヤ……さん……?」
マックスの微弱な合成音声が聞こえた。
「マックス……!良かった……!」
アヤはマックスの無事を確認し、安堵の表情を浮かべた。
「データ……アクセス……試みます……」
マックスはそう言うと、再び目を閉じた。
しばらくの沈黙の後、マックスが再び目を開けた。
「アクセス……成功……。『プロジェクト・ニューエデン』……情報……発見……」
「本当か!?」
翔は身を乗り出してマックスに尋ねた。
「表示……します……」
マックスの青い瞳が強く輝き、彼の目の前にホログラム映像が投影された。
そこには、クロノスのロゴマークと『プロジェクト・ニューエデン』の文字、そして夥しい量のデータが表示されていた。
「これが……『プロジェクト・ニューエデン』……」
アヤはホログラム映像を見つめながら息を呑んだ。
「信じられない……」
エレーヌもその情報量に圧倒され、言葉を失った。
「マックス、概要を説明してくれ」
翔がマックスに指示を出した。
「了解……。『プロジェクト・ニューエデン』とは……クロノスによる……歴史改竄計画……です……」
マックスは途切れ途切れの合成音声で説明を始めた。
「指導者は……自らを……新世界の……救世主……と……称し……過去を……書き換えることで……自らが……神となる……世界を……創造しようと……しています……」
「歴史を書き換える……?そんなことが、本当に可能なのか……?」
翔はマックスの言葉に戦慄を覚えた。
「彼らの……計画では……可能です……。そのために……必要となるのが……『古代植物』の……エネルギー……」
「『古代植物』……。やはり、そうだったのか……」
アヤは確信を込めて言った。
「そして……そのエネルギーを……利用して……白亜紀に……恐竜絶滅を……引き起こそうと……しています……」
「恐竜絶滅を引き起こす……?どういうことだ!?」
翔はマックスの言葉に衝撃を受けた。
「巨大隕石……の……軌道を……操作し……地球に……衝突させる……」
「何だって……!?」
翔は絶句した。巨大隕石の衝突……。それこそが恐竜絶滅の原因とされている天変地異……。それを人為的に引き起こそうとしているのか……?
「そんなことをすれば……この時代は……消滅してしまう……!」
アヤは恐怖に顔を引き攣らせた。
「そして……未来も……大きく……変わってしまう……」
マックスが静かに、しかし重々しく言った。
「そんなこと……絶対にさせてはならない……!」
翔は拳を固く握りしめ、決意を新たにした。
「しかし、どうやって……?隕石の衝突を阻止するなんて……」
エレーヌが不安げに言った。
「方法は……一つ……。『古代植物』の……エネルギーを……完全に……覚醒させ……時間軸の歪み……を……修復する……」
マックスは苦しげに息をしながら答えた。
「時間軸の歪みを……修復……」
翔はマックスの言葉を反芻した。それがこの時代を、そして未来を救う唯一の希望なのだ。
「しかし……そのためには……時間がない……。隕石は……すでに……操作され……地球へ……向かって……いる……」
マックスの言葉に、一同は絶望的な気持ちになった。時間がない……。その言葉が重く彼らにのしかかる。
その時、アヤの脳裏に母親の言葉が蘇った。
『全ては、あの子と未来を救うため……』
「お母さん……」
アヤは小さく呟いた。母親はこのことを知っていたのだろうか?そして、この事態を阻止するために一人、過去へ向かったのだろうか?
「まだ希望はあるわ」
アヤは顔を上げ、力強く言った。
「お母さんがきっと何かをしてくれているはず……。それを信じて、私たちもできることをやりましょう!」
アヤの言葉に、翔とエレーヌは力強く頷いた。
「ああ……。マックス、お前の力を貸してくれ……!」
翔はマックスに呼びかけた。
「もちろん……です……。しかし……私に……残された……時間は……」
マックスの青い瞳が弱々しく明滅した。
「時間がないのはお互い様だ……。必ず間に合わせる……!」
翔は力強く言った。その瞳には未来への希望と決意の光が宿っていた。