蘇る記憶 - 呼び覚まされる真実、お母さんの取引、そして指導者の影
観測者の脅威は、マックスの命を削った決死の活躍によって退けられた。しかし、その代償はあまりにも大きかった。マックスは再び深い眠りにつき、いつ目覚めるのか、誰にもわからない。静寂が戻った洞窟内に、『古代植物』の微かな鼓動だけが響いている。
「マックス……」
翔は祭壇の上に横たわるマックスの小さな体を見つめながら、悲痛な声を上げた。その声は、虚空に消えていく。
「きっと、また会えるわ」
アヤは翔の肩にそっと手を置き、優しく言った。その声には、自分自身を励ますような響きがあった。
「ああ……そうだな」
翔はアヤの言葉に力強く頷いた。今は悲しんでいる場合ではない。マックスが繋いでくれた希望を、未来へと繋げなければならない。
その時、アヤの体に微かな変化が起こった。
「あれ……?」
アヤは自分の体に手を当て、不思議そうな声を上げた。
「どうしたの、アヤ……?」
翔がアヤの様子に気づき、尋ねた。
「何だか……頭の中に……何かが……」
アヤは頭を押さえながら、苦しげに言った。
「記憶……?……断片的に……蘇ってきたような……」
「記憶……!?」
翔はアヤの言葉に目を見開いた。
「どんな記憶なの!?」
翔はアヤに詰め寄り、その答えを待った。
「待って……。今……思い出そうと……」
アヤは目を閉じ、精神を集中させた。すると、彼女の脳裏に次々と映像が流れ込んできた。
それは、まるで古いフィルムを早送りで再生しているかのように断片的で不明瞭な映像だった。しかし、その中に、確かに見覚えのある人物の姿があった。
「これは……」
アヤは目を開け、震える声で言った。
「クロノスの……指導者……」
「何だって……!?」
翔はアヤの言葉に衝撃を受けた。
「そして……母さん……」
アヤはさらに言葉を続けた。その声は先ほどよりもさらに震えていた。
「母さんがどうかしたのか!?」
翔はアヤのただならぬ様子に不安を覚えた。
「母さんが……クロノスの指導者と……一緒にいる……」
アヤの言葉に、翔は息を呑んだ。母親が、クロノスの指導者と……?一体、どういうことだ……?
「そして……取引を……」
アヤは途切れ途切れに言葉を紡いだ。その表情は、苦痛に歪んでいる。
「取引……?母さんが……?」
翔はアヤの言葉を反芻した。母親が、クロノスと取引を……?
「そう……。母さんは……未来のために……クロノスと……」
アヤはそこで言葉を詰まらせ、激しく頭を振り始めた。
「やめて……!それ以上は……!」
アヤはまるで何か恐ろしいものでも見るかのように、怯えた表情を浮かべている。
「アヤ……!どうしたんだ!?」
翔はアヤの様子にただならぬものを感じ、彼女の肩を強く掴んだ。
「頭が……割れるように……痛い……!」
アヤは頭を抱え、その場にうずくまった。
「アヤ……!」
翔はアヤに駆け寄り、その体を支えた。
「ごめん……。まだ……完全には……思い出せない……」
アヤは苦しげに息をしながら言った。
「無理しないでいいんだ。少しずつ思い出せば……」
翔はアヤを優しく抱きしめ、彼女の背中をさすった。
「でも……少しだけ……わかったことがある……」
アヤはゆっくりと顔を上げ、翔を見つめた。その瞳には深い悲しみと同時に、強い決意の光が宿っていた。
「母さんは……自分の意思で……クロノスと取引をした……」
「自分の意思で……?」
翔はアヤの言葉に戸惑いを隠せない。母親は強制されてクロノスに協力しているのではなかったのか……?
「ええ……。そして、その取引には……私と……そして、マックスが……関係している……」
「俺たちが……?」
翔はさらに混乱した。一体、どういうことなのだろうか?
「ごめんなさい……。今はこれ以上思い出せない……。でも、必ず全てを思い出すから……」
アヤは力強く言った。その瞳には、真実を求める強い意志が宿っていた。
「ああ……。一緒に真実を突き止めよう……」
翔はアヤの手を強く握り、力強く頷いた。
「ピィ……」
プチもアヤの足元に寄り添い、心配そうに彼女を見上げていた。
エレーヌは何も言わず、ただ静かに二人を見守っていた。彼女の優しい眼差しは、まるで全てを包み込むお母さんの愛のようだった。
アヤの脳裏に再び、あの断片的な記憶が蘇る。クロノスの指導者と対峙する母親の姿……。そして、母親が何かを決意したような表情で指導者に語りかける姿……。
『全ては、あの子と未来を救うため……』
その言葉は一体何を意味しているのか?そして、母親がクロノスと交わした「取引」の内容とは……?
アヤは失われた記憶の断片を繋ぎ合わせようと、必死に思考を巡らせた。しかし、記憶の扉は固く閉ざされたまま、真実を見せてはくれなかった。
それでも、彼女は諦めない。必ず全てを思い出し、真実を突き止めてみせる。
それが母親の想いに応える唯一の方法なのだから。そして、未来を救うただ一つの希望なのだから。
アヤは再び顔を上げ、前を見据えた。その瞳にはもう迷いはなかった。