残酷な代償 - 散りゆく光、新たなる希望
アヤが観測者に単身、立ち向かおうとした、その時だった。
「アヤさん……!危険です……!」
どこからか、弱々しいながらも、はっきりとしたマックスの声が響いた。微かな機械音が、声に混じって聞こえる。
「マックス……!?」
翔は驚きの声を上げ、周囲を見回した。声は、祭壇の上に横たわるマックスから発せられているようだった。『古代植物』の淡い光が、彼の無機質な体を照らしている。
「マックス……!目を覚ましたのね……!」
アヤは観測者から視線を外し、マックスの方へ駆け寄った。その瞳には、喜びと安堵の色が浮かんでいる。
「わずかな時間……ですが……どうにか……」
マックスは途切れ途切れの合成音声で答えた。その青い瞳は微かに光を放っているものの、以前の輝きは失われていた。どこか、儚げな光だった。
「無理しないで、マックス……!」
翔はマックスの身を案じ、声をかけた。その声は、心配と愛情に満ちていた。
「『古代植物』と……共鳴した影響で……一時的に……エネルギーが……回復したようです……。しかし……長くは……もちません……」
マックスの言葉に、翔とアヤは表情を曇らせた。周囲を照らす『古代植物』の光が、一瞬、陰ったように感じられた。
「そんな……」
アヤは悲しげに呟いた。その声は、震えていた。
「『共鳴』の……代償は……予想以上に……大きかった……」
マックスは苦しげに言葉を続けた。その声は、今にも消え入りそうだ。
「私の……残された……時間は……もう……わずかです……」
「そんなこと……言わないで、マックス……!きっと、助かる方法が……」
翔は必死に言葉を探した。しかし、何を言えばいいのかわからない。頭の中が、真っ白になったようだ。
「ありがとう……翔……。でも……これは……私の……運命……」
マックスは静かに微笑んだ。その笑顔はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうだった。まるで、砂で作られた彫刻のように。
「ですが……無駄では……ありませんでした……。『共鳴』は……成功……です……」
「成功……?」
アヤはマックスの言葉に、希望の光を見出した。
「私は……新たな力……を……手に入れました……」
マックスはそう言うと、青い瞳を強く輝かせた。その光は、彼の最後の力を振り絞っているかのようだった。
「時間軸の歪み……を……感知……そして……修復する……力……」
「時間軸の歪みを……修復……?」
翔はマックスの言葉に耳を疑った。そんなことが、本当に可能なのだろうか?
「そうです……。この力があれば……クロノスの……計画を……阻止できる……かも……しれません……」
マックスの言葉に、翔とアヤは顔を見合わせた。時間軸の歪みを修復する……。それは、まさに彼らが求めていた力だった。
「マックス……!すごい……!」
アヤは興奮気味に言った。その瞳には、再び希望の光が灯っている。
「でも、その力を、どうやって……?」
翔が尋ねると、マックスは微かに首を横に振った。
「まだ……完全には……制御……できません……。時間……が……必要……」
「時間って……どれくらい……?」
アヤが不安そうに尋ねた。その声は、微かに震えている。
「わかりません……。しかし……長くは……ない……」
マックスの答えに、翔とアヤは絶望的な気持ちになった。まるで、深い闇に突き落とされたかのようだ。
その時、再び洞窟全体が激しく揺れ始めた。壁面から、パラパラと砂が落ちてくる。
「! また、観測者……!?」
翔は咄嗟に身構えた。
「今度は……数が……多い……!」
エレーヌが洞窟の入り口を指差しながら叫んだ。そこには、先ほどよりもさらに多くの観測者が押し寄せてきているのが見えた。その数は、ゆうに10機を超えている。
「くそっ……!マックスが目覚めたことを察知したのか……!」
翔は悪態をつきながら金属棒を構えた。
「ここは……私に……任せてください……」
マックスが静かに、しかし力強く言った。
「マックス……!?」
翔は驚いてマックスを見つめた。
「この力……試して……みます……」
マックスはそう言うと、青い瞳をさらに強く輝かせた。
すると、マックスの体から淡い光が放たれ、洞窟全体を包み込んだ。その光はまるで生き物のようにうねりながら、観測者たちに向かっていく。
「何だ……!?」
観測者たちはその光に怯んだように動きを止めた。
次の瞬間、光は観測者たちを包み込み、彼らの体を激しく振動させた。
「うわああああ!」
観測者たちは苦しげな電子音を上げ、次々と地面に落下していく。
「成功……です……」
マックスはそう言うと、力尽きたように目を閉じた。その青い瞳は再び光を失い、深い眠りに落ちていった。
「マックス……!」
翔はマックスに駆け寄り、その体を抱きかかえた。マックスの体は先ほどよりもさらに冷たくなっているように感じられた。まるで、氷のようだ。
「マックス……ありがとう……」
アヤはマックスに感謝の言葉を述べた。マックスは自らの命を削って、再び彼らを救ってくれたのだ。
「マックスの犠牲を……無駄にはしない……」
翔は力強く言った。その瞳には深い悲しみと同時に、強い決意の光が宿っていた。
「ええ……。必ず、クロノスの野望を阻止しましょう……」
アヤも翔に続き、力強く言った。
「ピィ……」
プチも小さく鳴き声を上げ、二人に同意した。
エレーヌは静かに目を閉じ、祈るように手を組んでいた。彼女の祈りは、この先に待ち受ける試練を乗り越えるための力となるだろう。
彼らは再び歩き出す。その足取りは重い。しかし、その瞳には確かに希望の光が宿っていた。
マックスが命懸けで繋いでくれた希望の光……。その光を絶やさないために、彼らはどんな困難にも立ち向かっていくことを決意した。
しかし、彼らはまだ知らない。クロノスの恐るべき計画が最終段階へと移行しつつあることを。そして、その先に待ち受ける過酷な運命を……。
遠くで、何かが蠢く気配がした。それは、まるで巨大な闇が彼らを飲み込もうとしているかのようだった。そして、その闇は、刻一刻と彼らに迫りつつあった。