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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
白亜紀の真実編
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儀式の開始 - 共鳴する光、忍び寄る影



長老に導かれ、翔たちは『聖地』と呼ばれる場所へ足を踏み入れた。そこは、洞窟の奥深くに隠された広大な空間だった。頭上はるか高く、岩肌が複雑に入り組み、まるで巨大な生物の体内を思わせる。


「ここが……『聖地』……」


翔は目の前に広がる光景に息を呑んだ。そこには、今まで見たこともない巨大な植物がそびえ立っていた。


それはまるで天を突く巨木のように、太く、そして高く、どこまでも伸びているように見えた。その表面は滑らかな翡翠色をしており、複雑な模様が網の目のように張り巡らされている。表面には、ところどころ、苔のようなものが生え、長い年月を感じさせた。


「あれが……『古代植物』……」


アヤはその巨大な植物を見上げながら呟いた。その瞳には畏敬の念と同時に、科学者としての強い好奇心が宿っていた。まるで、古代の叡智が結晶化したかのようなその姿に、アヤは心を奪われている。


『古代植物』は微かに脈打つように明滅を繰り返しており、周囲に淡い光を放っている。その光は優しく、そして温かく、まるで生き物の鼓動のように感じられた。発光する樹液が、模様に沿ってゆっくりと流れているようにも見える。


「すごい……」


エレーヌはその光景に心を奪われ、思わず感嘆の声を上げた。その幻想的な美しさに、言葉を失っている。


「綺麗ピィ……」


プチも目を輝かせながら『古代植物』を見つめている。子供のように無邪気な感嘆の声だった。


「さあ、時間がない……。儀式を始めよう……」


長老が厳かな声で言った。その言葉に、翔たちは我に返り、気を引き締めた。空間を満たす神秘的な雰囲気に、僅かな緊張が混じる。


「マックスをどこに……?」


翔は休止状態のマックスを抱えながら長老に尋ねた。その声には、不安と期待が入り混じっている。


「あそこだ」


長老は『古代植物』の根元付近を指差した。そこには小さな祭壇のようなものが設けられており、その上にマックスを安置するように指示した。祭壇は、長い年月、この時を待っていたかのように静かに佇んでいる。


翔は言われた通り、マックスを祭壇の上にそっと置いた。マックスは深い眠りについているかのように静かに横たわっている。その顔は穏やかで、苦痛の色は浮かんでいない。


「これで準備は整った……。アヤ、『魂の笛』を……」


長老はアヤに視線を向けた。アヤは意を決して一歩前に進み出た。その手には長老から託された『魂の笛』がしっかりと握られている。この神秘的な笛が、これからどんな役割を果たすのか。


「この笛を、どうすれば……?」


アヤは不安げに長老に尋ねた。手に持った笛からは、かすかに温もりが伝わってくる。


「心を鎮め、精神を集中させるのだ。そして、恐竜たちへの愛を胸に、『古代植物』と共鳴するイメージを強く思い描くのだ」


長老の言葉に、アヤは深く頷き、ゆっくりと目を閉じた。そして、『魂の笛』を唇に当て、深く息を吸い込んだ。静寂が辺りを包む。張り詰めた空気が、洞窟全体を満たしていた。


次の瞬間、アヤはゆっくりと『魂の笛』を吹き始めた。


最初はか細く頼りなかった音色が、徐々に力強さを増し、洞窟全体に響き渡っていく。その音色は優しく、そしてどこか懐かしい、まるで遠い記憶を呼び覚ますような不思議な旋律だった。木霊する音は、洞窟の壁に反響し、より一層神秘的な雰囲気を醸し出している。


すると、『古代植物』がアヤの奏でる音色に呼応するように、ゆっくりと輝き始めた。その光は徐々に強さを増し、『聖地』全体を幻想的な光で包み込んでいく。まるで、植物自体が意思を持っているかのようだ。


「始まったようだな……」


長老はその様子を満足げに見つめながら呟いた。まるで、長年待ち望んだ瞬間が訪れたかのように。


「マックス……」


翔は祭壇の上に横たわるマックスを見つめながら、祈るように呟いた。どうか、無事に共鳴が成功してほしい……。彼の胸には、マックスへの深い祈りが込められていた。


アヤの奏でる音色はさらに力強さを増し、まるで一つの生き物のように空間を舞い始めた。そして、『古代植物』の放つ光もそれに呼応するように激しく脈打ち、輝きを増していく。光は波紋のように広がり、洞窟内を神秘的な光彩で満たした。


その時だった。


突然、洞窟全体が激しく揺れ始めた。


「! 何だ!?」


翔は咄嗟に身構えた。足元から突き上げるような振動が体を襲う。


「ピィ!?」


プチが恐怖の声を上げた。その小さな体は、恐怖に震えている。


「来るぞ……!」


長老が鋭い声で叫んだ。その視線の先には、洞窟の入り口付近に不気味な影が蠢いているのが見えた。影は、闇の中から滲み出るように現れた。


「まさか……!」


アヤは演奏を中断し、その影を見つめた。その瞳には恐怖と驚愕の色が浮かんでいる。


影は徐々にその輪郭をはっきりと現していく。それは紛れもなく、クロノスの『観測者』だった。金属的な冷たい光を放つその姿は、この神聖な空間には不釣り合いだった。


「見つかったか……!」


翔は歯ぎしりしながら言った。『聖地』は時間軸が不安定な場所……。だからこそ、観測者の追跡を逃れられると考えていたのだが、それは甘い考えだったようだ。


「ピィ……どうするピィ!?」


プチが翔の服の裾を引っ張りながら不安げに尋ねた。その瞳には、恐怖の色が浮かんでいる。


「儀式を中断するわけにはいかない……!ここは俺たちで食い止める……!」


翔は決意を込めて言った。


「アヤ、お前は儀式を続けてくれ……!マックスを……そして、未来を救えるのはお前だけだ……!」


翔はアヤを見つめ、力強く言った。その瞳には強い信頼の光が宿っていた。


「翔……」


アヤは翔の言葉に心を打たれ、深く頷いた。


「わかったわ。必ず成功させてみせる……!」


アヤは再び『魂の笛』を唇に当て、演奏を再開した。先ほどよりもさらに力強く、そして決意に満ちた音色が洞窟内に響き渡る。その音色は、翔たちの戦いを鼓舞するかのように、力強く鳴り響いた。


「エレーヌ、プチ、行くぞ……!」


翔はエレーヌとプチに声をかけ、観測者の方へ駆け出した。


「ええ……!」


エレーヌも覚悟を決めたように頷き、翔の後に続いた。その表情には、強い決意が表れていた。


「ピィ……!」


プチも小さく鳴き声を上げ、二人を追いかけた。その小さな体には、勇気がみなぎっていた。


観測者は全部で3機。彼らは『古代植物』と共鳴を始めたマックスを破壊しようと、祭壇へ向かってくる。その動きは、機械的で、無機質だった。


翔たちは観測者の攻撃を阻止するため、決死の戦いを挑む。しかし、相手はクロノスの最新鋭の兵器。生身の人間が敵う相手ではなかった。彼らは、攻撃を避けながら、必死に抵抗する。


翔たちは絶体絶命の危機に追い込まれていく。彼らは、この危機を乗り越え、無事に儀式を成功させることができるのだろうか?


そして、マックスは再び目覚めることができるのだろうか?


彼らの運命は、今まさに、アヤの奏でる笛の音色に託されようとしていた。その音色は、希望と絶望が交錯する戦場に、響き渡っていた。



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