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テディベアが時空を超える時  作者: Gにゃん
白亜紀の真実編
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交錯する想い - 哀しきお母さんの真実



迫り来るティラノサウルスの巨体に、翔は死を覚悟し、固く目を閉じた。しかし、次の瞬間、予想していた衝撃は訪れなかった。


恐る恐る目を開けると、ティラノサウルスは翔の目の前で動きを止め、その巨大な頭を悲しげに垂らしていた。まるで、母親の命令と、自身の本能との間で葛藤しているかのようだった。


「母さん……?」


翔は信じられない光景に呆然としながらも、母親に呼びかけた。母親は、そんな翔を冷たい視線で見つめ返している。


「なぜだ、母さん!なぜ、こんなことを!」


翔の悲痛な叫びが森に響く。しかし、母親は何も答えない。その表情はまるで能面の様に、感情を一切読み取ることができなかった。


「あの子」


沈黙を破り、母親が小さく呟いた。しかし、それは翔に語りかけているというよりは、まるで独り言のようだった。


「あなたは、まだ何もわかっていない」


母親はそう言うと、手に持った装置を操作し始めた。すると、ティラノサウルスは再びゆっくりと動き出し、翔にその巨大な顎を向ける。


「やめろ!母さん!」


翔は必死に母親を止めようとする。しかし、彼の声は母親には届いていないようだった。


「母さん!僕だよ!翔だよ!思い出してくれ!一緒に過ごした日々を!父さんと、3人で!」


翔は過去の記憶を呼び覚まそうと、必死に言葉を紡いだ。しかし、母親の表情は変わらない。その瞳には相変わらず冷たい光が宿っているだけだった。


「どうして?どうして、僕と戦わなければならないんだ?僕たちは、親子じゃないか!」


翔の目から涙が溢れ出す。彼は母親と戦いたくなかった。しかし、このままでは未来は救えない。そして、何よりも母親の真意を知りたいという強い想いが、彼を突き動かしていた。


「母さん、答えてくれ!一体、何があったんだ?なぜクロノスに協力するような真似を!」


翔の悲痛な叫びに、母親は一瞬だけ表情を歪めた。その瞳に、一瞬だけ深い悲しみの色が浮かんだように見えた。


「全てはあの子と未来を救うため」


母親は絞り出すような声でそう言った。その声は微かに震えていた。


「未来を、救う?」


翔は母親の言葉に戸惑いを隠せない。母親は一体何を言っているのだろうか?クロノスに協力することが、なぜ未来を救うことに繋がるのか?


「私は時間と取引をしたの」


母親はさらに言葉を続けた。


「時間と、取引?」


翔は母親の言葉を理解することができなかった。時間と取引とは、一体どういう意味なのだろうか?


「このままではいずれ、全てが無に帰す。それを阻止するためには、これしか方法がなかった」


母親の言葉は断片的で要領を得ない。しかし、その声には深い絶望と、悲痛な決意が込められているように感じられた。


「何を言っているのか、わからないよ!母さん!もっとちゃんと説明してくれ!」


翔は母親に歩み寄ろうとした。しかし、その時、ティラノサウルスが再び動き出し、翔の行く手を阻んだ。


「時間がない。もう後戻りはできない」


母親はそう言うと、手に持った装置を高く掲げた。すると、装置から眩い光が放たれ、周囲の空間が激しく歪み始めた。


「母さん!何をするつもりだ!」


翔は母親の行動に危険を察知し、叫んだ。しかし、母親は翔の言葉には答えず、冷たい視線を翔に向けたまま、装置の操作を続けた。


「あの子を、頼みます」


最後にそう言い残し、母親の姿は光の中に消えていった。後に残されたのは、呆然と立ち尽くす翔と、咆哮を上げるティラノサウルスの姿だけだった。


「母さん」


翔は母親が消えた場所を見つめながら、力なく呟いた。彼の目からは再び涙が溢れ出す。


母親の言葉は謎に包まれていた。しかし、その言葉の端々から、彼女が何か大きな犠牲を払って、未来を救おうとしていることだけは理解できた。


「時間との取引」


翔は母親の言葉を反芻する。その言葉の真意はまだわからない。しかし、その言葉がこの先の運命を暗示していることは間違いないだろう。


「母さん」


翔はもう一度小さく呟いた。その声には深い悲しみと、母親を必ず救い出すという強い決意が込められていた。


彼は母親が残した謎を解き明かすことを決意する。たとえその先にどんな困難が待ち受けていようとも、彼は決して諦めるわけにはいかなかった。


なぜなら、それが母親が命懸けで守ろうとした未来に繋がる唯一の道だと信じているからだ。


彼は拳を固く握りしめ、再び歩き出した。彼の瞳には深い悲しみと共に、未来への希望の光が宿っていた。


そして、彼はまだ知らない。母親との再会が遠くない未来に待っていることを。そして、その再会が彼にとって最も過酷な選択を迫られるものになるということを……。



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