第1章の7 新たなる知らせ
そしてこの日は一時間目から歩と二人屋上でさぼった。
彩と付き合う前はずっとふまじめな生活をしていたことを思い出す。
屋上に寝転がっていると、薄い青の中を雲が泳いでいた。
見上げる空はいつも同じはずなのになぜこんなにも見え方が違うのか。
(彩……俺は絶対忘れない)
勇輝は顔の筋肉をほぐしてにっと笑ってみた。
「気持ち悪」
「見るなよ……」
(彩は俺の笑顔が好きだったんだ。俺が今できることは笑うことだ)
「変な勇輝」
「ほっとけよ」
歩は不満そうな顔をしたが、はたと思いだしたような顔をして言った。
「あ、そうそう。なんかうちのクラス転校生くるらしいぜ」
あまりの急な話の変わりように勇輝は目を丸くした。
「転校生? 今?」
学期も中途半端な今に転校とはめったにない。
「なんか今日急に転校届が来たみたいでよ。職員室も騒然としてた」
「なんかやらかして学校追い出されたくちかな」
勇輝のクラスは落ちこぼれクラスなので、そういった経緯で転校してくる奴はけっこういたのだ。
「たぶんそうじゃねえかな。なんたって一度に5人もくるんだからよ」
歩は手を開いて5の数字を強調した。
「まじ?」
これは一大ニュースだ。この時期の転校、しかも一挙に5人なんて聞いたことがない。
「なんか起きそうな気がしねぇ?」
「するする。謎の転校生と大乱闘とか!」
勇輝の顔がぱっと明るくなった。
男だったらぜひ手合わせを願いたい。体を動かせばこの気分も少しはましになるだろう。
「乱闘好きだねぇ」
「もしくは実はどっかの組の跡取りだったり……」
勇輝の想像は際限なく広がっていく。
「実は潜入捜査員とかでもいい」
「……ベタだなぁ」
歩の感想を聞いた勇輝はきっと歩に顔を向け、拳を握る。
あ、やべぇ……変なスイッチ入れちまった、と後悔するがすでに遅し、勇輝は熱弁態勢に入ってしまった。
「ベタの何が悪いんだよ」
「……いや、悪くはねぇけど。たまには意表を突いてほしいっていうか」
負けず嫌いが手伝って歩も応戦する。
「意表? そんなの安心して見てられないじゃん! 仲間は誰も死なない。異世界へ行けば助けてくれる人がいる。転校生が来れば事件が起きる! そして最後はハッピーエンド! 何が不満なんだよ!」
そこまで一息でまくしたてると勇輝は一息ついて歩の反論を待つ。
「……けどさ~現実そんな甘くねぇし。転校生来るたびになんか起こってたら世界潰れてんだろ」
「現実と一緒にすんな! ベタはベタな世界でしか生きられないんだ!」
もう何が言いたいのかもよく分からない
「……うん。わかったからそう熱くなんな……なんか虚しくなっちまった」
「わかってくれたんだったらいい」
と勇輝は握った拳を下ろして座り直し、そんな勇輝を歩は苦笑交じりで見ていた。
「まぁ、ちょっとは元気出たか?」
「え……あ、心配かけてごめん」
「いいって」
なんだかんだ言っても、歩と勇輝のつきあいは長い。口には出さなくても勇輝の様子がおかしいことは分かっていた。かといって正面からなぐさめてあげるような間でもないが。
そうして二人は他愛のない話をして時間を過ごしていったのだった。