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第1章の15 高校生をエンジョイしよう

 時を同じくして、学校では……。


「おはよ~ってあれ? 勇輝寝てんのか?」


 遅れて歩が屋上に上がってきた。カーペットはスルーして勇輝を見下ろす。

 その寝顔はつい顔をほころばせてしまうほど可愛かった。


「可愛い寝顔でしょ~」


 癒慰が勇輝のほおを突いた。柔らかく滑らかな肌。

 だが勇輝は突かれても一向に起きる気配がない。

 そして癒慰の手にカメラが握られていることから歩は既に勇輝が癒慰の毒牙にかかったことを察した。


「ま、普段から可愛いけどな」


「それもそうね」


 歩は靴を脱いでストーブの傍に座った。手を近づけて温める。


「それで? 何か掴めた?」


「全然だめ。尻尾をださねぇ。さすが、最後まで生き残っただけはあるぜ」


「まだ動けねぇのか」


 秀斗はつまらなさそうにファイルを捲っている。昴乱の情報が載っているファイルだ。


「せっかく障壁《しょうへき》も全部作ったのによ。これがどこぞやの組長なら殴り込めばいいだけの話だってのに」


「少なくとも来週の理事会には顔を出すってことは掴めてんだ」


 歩はぼやく秀斗を宥めた。


「理事長が住んでいる家も分からないのですか?」


「いや、それは分かったんだけど、もぬけの殻だった」


「用心深いこった」


 秀斗がファイルを零華に投げた。そしてそのまま寝ころがり体を伸ばす。


「けどそいつらが抜けてからもう四十年も経つし、人間の寿命なんて短けぇんだからほっとけばいいのによ」


「なんていっても能力者だからな、野放しにしとくわけにはいかないんだとさ」


「毒には毒をってやつかよ」


「ほんと人間がやることは今も昔も変わらないよね~」


「……そんな老人のようなこと言うなよ」


 優雅にお茶を嗜んでいる癒慰が縁側のおばあちゃんに見えてくる。


「ほんと、若いころはよかったわ~」


 と冗談にも答えてくれる癒慰に歩は親しみやすさを感じていた。

 噂ではかなり突拍子もないことがささやかれていたが会ってみればなんてこともない、普通の高校生だ。

 突然秀斗があっと呟いて体を起こした。

 そしてくいくいと歩に指でこっちに来るように合図する。


「何?」


 歩が秀斗の傍に寄ると、秀斗は歩の肩に手を回し、声をひそめた。


「ところでよ、お前んとこのリーダーとはどんくらいで連絡とってんだ?」


 なぜそんなことを小声で訊くのかと疑問に思いつつ


「一カ月ごとだけど……?」


 と歩は答えた。


「歩、頼みがある。奴には俺らのこと一切報告すんな」


 ずんと秀斗の声が低くなって凄味が増す。


「え、でも任務が……」


「今奴に知られるとややこしくなんだよ。一生言うなとは言わねぇから、ひとまず伏せとけ」


 歩は横から流れ込む威圧に顔を向けられずにいた。じんわりと背中に汗を感じる。


「でもリーダーは独自に情報網もってるし……」


「言ったら殺す」


 最後はもう頼みではなく脅しだ。


「……わかった」


 歩にはほとんど合わないリーダーよりも今隣にいる秀斗の方が恐ろしかった。


「んで、今奴はどこに潜ってんだ?」


「たぶんFBI」


「よし、じゃぁ当分こっちには戻らねぇな」


 よかったよかったと秀斗は歩を解放して満足そうに頷いた。

 その時、寒空にチャイム音が響いた。


「あ、おい勇輝。起きろ」


 と歩は勇輝を揺さぶる。


「――ん?」


 少し体を起こした勇輝はまだ夢うつつの状態で歩を見上げた。


「次、体育だぜ」


 その一言で勇輝は飛び起きた。


「まじ? てか俺寝てた?」


「不良なのに体育は真面目に受けるの?」


 癒慰が可笑しそうに訊いた。


「不良だから受けるんだ。喧嘩するにも体力は必要だろ?」


 勇輝は靴を履きながら答えるとくるりと秀斗の方を向いた。


「そうだ。秀斗もこいよ」


 暇な秀斗は体を起して弥生へと視線を移した。


「だってよ。弥生はどーする?」


「……やらないけど見てる」


 フェンスごしの景色を見ていた弥生はすくりと立ち上がった。


「じゃぁ行こうぜ~」


 と、四人はグラウンドへと階段を下りて行った。


 残された静けさの中、カップにお茶を注ぐ音だけが響く。


 「あら?」


 しばらくして、零華が何かに気づいたように戸口の方に顔を向けた。

 ほどなく戸が開き、長身の影が現れた。


「錬魔君おかえり~」


 錬魔は戸口で首を巡らせると堅い口を開いた。


「弥生と秀斗は?」


「体育の授業に出るって」


 その言葉に錬魔は眉間の皺をますます深くした。


「……あの弥生が?」


「見てるだけって言ってましたけど」


「ほんと錬魔君って心配症よね」


 癒慰が苦笑交じりにお茶を錬魔に勧めた。

 錬魔はカーペットの上に腰を下ろし、カップを受け取った。


「隊長から高校生らしく過ごせと言われた。零華、これが研究書らしい」


 そして手を伸ばして零華へ本を手渡す。

 零華はそれをまじまじと見つめ、ページを繰り出した。


「私、十分高校生らしくしてるつもりなんだけどな~」


「まぁ、癒慰ちゃんはともかく、もう少し高校生を研究しなくてはいけませんね。幾度も勇輝君に怪訝そうな顔をされてしまいましたから」


「俺は早く任務を終えて戻りたい。こんな人が多い場所は苦手だ」


 低い声で呟いた錬魔は静かに口元にカップを運んだ。


「え~楽しいじゃん!」


「それはお前と秀斗ぐらいだ」


「ですが実際、少し引きこもりすぎましたね。人の暮らしが様変わりしてますし」


 零華は会話に入りつつもその手は素早くページを繰っている。


「今はコミュニケーションの時代だよ!」


 耳元で抗議を受けた錬魔は渋い顔で頷いた。


「わかったから。お前はそのコミュニケーションとやらを存分に試してこい」


 言い終わると、錬魔は残りのお茶を一気に喉に流しこんだ。

 


なんとなくですが、勇輝がいる話は軽めのノリでサブタイトルを

いない話は固めとなっています。


あまり、サブと内容は関係ないです。


その場の思いつきですので

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