第1章の12 なんか裏ある転校生!
そして、結局誰一人として帰ってこないまま五時間目終了のチャイムが鳴った。
その休み時間、にわかに騒がしくなったと思えば、可愛そうなミイラたちがしおしおと帰ってきた。
ミイラたちは彼らを見るとガーゼなり包帯なりをひきつらせ、直立の姿勢で彼らの前に立った。
その姿は死刑台に上がる死刑囚さながらである。
「喧嘩を売ってすいませんでした!」
教室に響く大合唱、そして風を感じるほどの礼。
目の前には緑みどりミドリ、赤、黄色きいろ、ピンク、紫……まるで花畑みたいだ。
「いいよ~。許してあ、げ、る」
癒慰の女神の微笑とその言葉に花畑が一斉に天に向かって茎をのばした。
「おい癒慰、お前なんもしてねぇじゃん」
喧嘩を買った張本人の秀斗がムッとした顔で癒慰を見た。役を取られたことが気に食わなかったらしい。
「だって、こんなに誠意をもって謝ってるんだもん。許してあげなきゃね」
その言葉を聞いて花畑の下の土は一気に輝いた、お日様浴びて元気いっぱい栄養満点だ。
「でも、わかってるよね」
しかし、うららかに照っていた花畑に突如冬がやってきた。太陽なのにそこから降り注ぐ光は氷のように冷たい。
「はい! おれたちは今日から皆様のために真心をもって尽くさせていただきます!」
癒慰はあっさりとクラスを掌握した。
その掌の返しように身内の秀斗たちまで目を見張っている。
「癒慰ちゃん。他人をいじめるのもほどほどにしてくださいね」
「わかってるよ~」
癒慰は無邪気に笑っていたが、その背後には茨が蠢いていた……。
次の日から、クラスは快適空間に改造された。
だからといって彼らが真面目に授業に参加しているかと言えばそうではなく、ちゃんと学生の本業を全うしているのは零華と癒慰ぐらいだった。
朝、歩は一人屋上へと上った。
勇輝は例によって寝坊したらしくまだ来ていない。こういう時は大抵二時間目にならないとこなかった。
(ちょうどよかった。あいつがいるとゆっくり話もできねぇしな)
戸口に立って、顔を引き締めるとドアノブを回した。
「歩君だ~おはよ~」
そこには全員がいた。各々の美貌が朝日をうけてひときわ輝いている。眠気も吹き飛ぶ光景だ。
しかし歩はその声に答えずに、ゆっくり片膝をついて畏まった。その動作に一同の顔つきが改まり、空気が引き締まる。
「貴方方におかれましては如月の皆様かと存じ上げます。ご挨拶がおくれましたことをお詫び申し上げます」
畏まった口調は普段のそれとは別物で、ものものしい空気を作り出す。
「そうだがお前はどこの者だ」
警戒心のこもった低い声で錬魔が問う。
「黎冥、隼に所属しています」
黎冥は情報収集を専門とする特殊な階級であり、その隼は唯一の隠密グループだった。
「隼!」
秀斗が声を荒げた。今にも飛び出しかねない様子に錬魔が手で制する。
「あの件について調べてるの?」
一番奥に座っていた弥生が淡く微笑を浮かべた。だがその目は全ての嘘を見抜くような光を持っていた。
「はい、逐次報告をしています。今回ここへ潜入なさったのはやはりその任務ですか?」
「そうよ」
そして彼らは互いに目線を交わした。秀斗が苦い顔をしているが、小さくうなずく。彼らにはそれだけで十分だったのだ。
「だから歩君、協力をお願いね~」
全員、隼に協力を得るのに反対したものはいなかった。
「もちろんでございます!」
「ちっ、せっかくだからつかってやるよ。じゃ、今後一切敬語なし! 俺そういう面倒なのやだ」
不機嫌そうな表情はすぐに人懐っこい笑みに変わった。
歩はすっと立ち上がるとにっと口角を上げる。
「わかってるぜ秀斗。これからよろしくな」
そこに組織の人間としての顔は無く、一人の生意気な不良が笑っていた。
あはは、短いですね
もっと転校生たちのことに踏み込みたいけど、さて
どれくらい先になるんだろう