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第1章の10 え、転校生?

 教室に入るとにわかにざわついていた。昨日までとは何かが違う。教室に圧迫感があるのだ。

 勇輝はいぶかしんで教室を見渡した。


(あ……机が増えてる)


 各列の後ろに一つづつ昨日までは無かった机が置いてある。


(例の転校生?)


「とうとう来たぜ転校生!」


 席に着くと歩が話しかけてきた。前の席を横取りして熱く語りだす。


「なんの変化もないこの日常に吹き込まれた新たな息吹! ぜっこうのカモだぜ」


「もう来たんだ……」


「どんな奴かな。やっぱり最初は力試しと行くか?」


 歩は転校生とやり合う気満々だ。


「やるやる!」


 勇輝は出来る限りの明るい声で返事をした。

 今は何でもいい。気晴らしがしたかった。


「よ~し。んじゃ決行はカモの情報が集まってからってことで、ひとまずさぼりますか」


「さんせーい」


 というわけで、転校生の顔を拝むのは昼からにして二人は屋上へ向かった。


 だいぶ屋上で過ごすにはきびしい季節になってきたのだがそんなことは関係ない。

 不良に寒さなんか関係ないのだ。階段を登りきって、錆びついたドアを開けるとなんと、先客がいた。

 音に振り向いた彼らを見て二人は言葉を失った。まずその奇抜な髪色に、そして次にその下についている顔に。

 一目でわかった。


(こいつらが転校生だ!)


 だが二人ともぜひお手並み拝見! という気は起きなかった。もう、威圧感で負け確定だ。

 どう頑張ってもこいつらの前では自分が情けなくなって喧嘩どころじゃない。

 人睨みされただけで逃げ出したくなる。全力で謝りたくなる。


 それほどに、美形だった。まさに形容できないとはこのことだった。

 二人とも口をあんぐりと開けて彼らに見入っていた。


「まじかよ」


 歩が思わず漏らしたその言葉に勇輝はやっと現実に立ち戻る。


「あ……こんにちは」


(どんな人にもまずは挨拶! 挨拶を交わせば心も通じあえる!)


「こんにちは~」


「ちは」


 五人のうち挨拶が返ったのは二人。茶髪の女子と金髪に黒のヘアバンドをした男子だ。


「……あの、転校生?」


 勇輝は恐る恐る話しかける。転校生の心をほぐすには明るい笑顔と柔らかい口調!

 なぜか頭のなかには転校生とのいろはが大音響で流れている。


「そうだよ。よくわかったね~」


 茶髪の女子が朗らかに答えてくれて勇輝はほっと胸をなでおろす。だが後ろに控えている三人はまだ警戒したままだ。


「見かけない顔だから……」


(おかしい。ちゃんと会話は成り立っているのにこの空気に冷え冷えさはなんだ?)


 五対の視線に射抜かれて勇輝は早くも背中に嫌な汗が伝い始め半泣きになりかけていた。


「んで? お前ら誰?」


 金髪の男子がしげしげと二人を観察する。


「え、俺? 俺は春日勇輝。二年」


(なんてことだ。うっかり自己紹介を忘れていた。相手の正体もわからなければ警戒なんて解けないだろう。かの有名なスパイも名前も名乗らない奴は相手にもしなかった)


「俺は森本歩。同じく二年」


「へ~俺らとタメじゃねぇか」


 金髪の男子はもう一度勇輝をじっくりと観察した。


(絶対俺一年だと思われてた)


 その反応で勇輝は彼の思考を理解した。


「こっちにおいでよ。ちょうど聞きたいことがあったの」


 と茶髪の女子が手招きをし、二人は吸い寄せられるように彼らの輪の中に入った。

 そして近づけば近づくほど、彼らの威圧感はすざましかった。


「じゃぁ、まずは自己紹介ね。私は癒慰ゆい


 緩やかなウェ―ブのかかった茶髪は肩より少し長めで柔らかい和み系を演出している。

 瞳はくりっと丸く、肌も透き通るように白い、世の男性のタイプの一、二を争う容姿だ。

 制服もよく似合っていて、着る人が違うだけでこうも可愛くなるのかと二人は感心する。

 そしてにこりと笑った顔は子供っぽくて、春の日差しが来たように感じた。


(あぁ、天然のオアシスだ)


 この寒い北風の吹きつける屋上では唯一の救いに感じた。


「俺は秀斗しゅうと。よろしくな!」


 さらりと風に揺れる金髪は太陽の光を反射して輝いており、額に当てている黒のヘアバンドが金色を際立たせる。精悍な顔が少し笑えばそこには少年の無邪気さが残っていた。

 制服は不良らしく、カッターのシャツをはだけさせている。しかし憎いことによく似合っていた。

 勇輝も見習いたいところである。


「私は零華れいかです。よろしくお願いしますね」


 珍しい藍色の髪は腰まで広がっており、肌は陶磁器のようだった。淡い微笑を浮かべる彼女の周りには清楚な雰囲気が漂う。

 指先から足元に至るまで美しく存在しており、制服の着こなしもばっちりだ。


 そして二人の視線は零華の隣にいた赤い髪の大人びた男の子へと注がれた。

 彼はそれに気づくと煩わしそうに少し眉をひそめて


錬魔れんまだ」


 と短く名乗った。

 太陽に透けて光る髪は燃えるような赤で、不機嫌そうな切れ長の目が大人びたように見せる。二十歳すぎでも十分通りそうだ。

 彼はカッターシャツを着ておらず、赤のシャツの上にボタンを留めずに学ランを着ている。

 彼の鋭い視線に射抜かれた時、二人は強い北風を心の中に感じた。


 そして、最後に残った女の子に目をやる。


「私は弥生やよい。よろしく」


 さらりと肩を落ちる髪は銀色で、長さは腰に少し届くくらい。肌は曇り一つない白さで、瞳には優しげな笑みが浮かんでいた。

 彼女はリボンをしておらず、しかもスカートではなくズボンを穿いていた。しかし、それがなんの違和感もなくはまっている。

 髪色と身に纏う雰囲気と研ぎ澄まされた美しさが人離れした印象を与える。

 しかし、にこりと微笑むと、その笑みは普通の女の子。勇輝が知っているものと何一つ変わらなかった。

 そして彼らの容姿を見て気づいたのは、全員が灰色の目をしていたことだった。


(ハーフとかかな? あ、今はダブルっていうんだっけ)


 そして自己紹介が済んだところで秀斗がさっそく質問した。


「この学校って喧嘩がやり放題って本当か?」


「ま、まぁ。まちがってはないよ。クラスの八割が不良だし」


 勇輝は目をぱちくりとさせながら答えた。なんとも好戦的な転校生だ。


「他のクラスは真面目だから。喧嘩できんのは俺らの科だけだけどな」


  歩がそう付けたした。

  この学校全体が荒れているわけではない。勇輝たちの体育科、通称不良科の他には進学を目指す普通科と就職を目指す商業科もあった。

 そして彼らを見た二人が思うことは同じ。はやまらなくてよかったと。

 勇輝だって伊達に修羅場をくぐりぬけてきたわけではない。相手の実力ぐらい測れる。


(こいつかなり強そうだな……)


 腰が引けるどころかわくわくしてきた。


「クラスか。俺そこ行きたい」


「え。お前ら五組で俺らのクラスだろ?」


 その言葉に五人全員が驚いた顔をしていた。


「え、マジ?」


「初耳ですね」


「へ~私たち五組なんだぁ」


 とそれぞれ驚きの声が漏れる。


「何も知らされてないの?」


「ここに来ることも急に決まったからな。そんで来たのはいいものの、どうすりゃいいかわかんなかったからここで時間つぶしてたんだ」


 なんともびっくりの転校生事情だ。


「そんなのよく理事長が許可したぜ」


 さすがにそれには歩も呆れ顔だ。


「理事長? それってここの偉い人?」


「そうだよ。学校作った人」


 知ったかぶって答えるが勇輝は理事長にお目にかかったことはない。


「へ~。理事長はいつも学校にいるの?」


「いや……月に数度しかこねぇかな。なんか会議とかで忙しいみてぇだし」


「ふ~ん。そうなんだぁ」


 ぽつぽつと話をしていると一時限目終了のチャイムがなった。


「あ、なんだかんだで一時間さぼっちゃったね」


「では、そろそろ行きますか」


「高校の授業ってのも気になるしな」


 そうして本日のサボタージュは一時間で切り上げ、教室に帰った。


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