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第4章の7 100話記念 小さな魔術師たちの冒険

 そして彼らの昼からの行動はというと……。


「また俺の勝ち~」


「てめ! 勇輝ずりぃぞ!」


「秀斗が弱いんじゃん」


「激弱~」


「癒慰~。てめぇにだけは勝つ!」


 ホールの隅でテレビゲームをしている三人。その傍らで先ほど選び出した剣の手入れをしている錬魔。観察日記をつけている零華。各々好きな時間を過ごしていた。


「錬魔~。お前もやろうぜ! 俺お前になら勝てる気がする」


 錬魔はそちらを一瞥するとすぐに作業に戻った。


「なぁ、錬魔~」


「……くだらん。お前らだけでやっていろ」


「のり悪~」


「けっこうだ」


 そしてリベンジを挑む秀斗であった。が、筋金入りのゲーマーに勝てるわけがなく、


「あ~! こうなったら拳で勝負だ! 表に出ろ表に!」


 すぐにブチぎれて現実の世界での勝負に切り替えようとした。


「やだよ。俺勝てない喧嘩はしたくないし」


「みっともないよ~あきらめなよ~」


「うるせぇ! つーか癒慰、お前も初心者のくせになんでそんなに強ぇんだよ!」


 秀斗の怒りの矛先が癒慰に変わる。


「え? そりゃ、才能?」


 癒慰はその矛先を力強く折った。


「こんなもんに才能もクソもあるか!」


 錬魔はあまりの騒々しさにこめかみを押さえた。やはり自室で作業をするべきだったと早くも後悔する。

 少し黙らせるかと顔を上げた時、その視界がぐにゃり、と歪んだ。


(くそ……とうとう眩暈まで来たか)


「おい、お前ら……」


 異変はすぐに感じられた、手に持っていた剣が自分の身の丈ほどになっていたのである。


「なっ……」


「うわっ、錬魔! ちっちゃくなってるし!」


 勇輝がコントローラーを放り投げて錬魔に駆け寄った。そして手を伸ばす。

 彼としては頭を撫でてみたかったのだろう。いつもなら届くはずのない頭である。

 刹那、錬魔は手の中にあった剣を握り直して勇輝に向けた。

 勇輝は急停止し、反射的に手をあげる。まず抵抗のない意志を見せる。それは勇輝がこの半年で無事に生き残るために得た方法であった。


「まずはその口を……」


「ちょっと錬魔! なんか思い違いしてるって、俺何も思ってない……か、ら!」


 突如、必死に弁解をしている勇輝の視界が突如歪んだ。


(やられた? ガツンとザックリやられた?)


 しかし、勇輝は前に倒れていくというよりは落下していくように感じた。どんどん目線が下がっていく、そしてそれはついに錬魔と同じになった……。


「え……まじ?」


 錬魔の表情はもはや半笑いに近い。そして勇輝のすぐ後ろで悲鳴があがった。


「いやぁぁぁ! やられたぁ!」


 皆が驚いて振り返ると、癒慰がさながらお人形となっていた。


「お~。似合う似合う」


 すぐ隣で秀斗が称賛している。


「ぐはっ」


 その顎に小さな靴がえぐりこんだ。顎を押えてうずくまる。

 靴が床に落ちた時の音からすると、どうも原材料には金属が含まれているらしい。

 勇輝は自分の体をまじまじと見た。なんとふにふにとした体だろうか……。

 床が近い、天井が遠い。秀斗がいつもにましてでかい。どれも癪に障ることばかりだ。


「お前、チビになっても錬魔よりちっちぇんだな」


 秀斗が豪快に勇輝の頭を撫でてからかう。


「錬魔! その剣貸して、こいつ斬る!」


「ん、まかせろ」


 錬魔は一足飛びで秀斗に迫りその剣を振り上げた。

が、その剣は錬魔ほどの大きさの中剣であった。よって剣は重力に従って床に引き寄せられ……。

 それに錬魔は巻き込まれ、後ろ向けにひっくり返った。

 秀斗がそれを見て爆笑する。あまつ涙さえ浮かべながら……。


「二人の敵!」


 癒慰がもう片方の靴を飛ばした。不気味な音を立てて秀斗の後頭部に直撃した。


「うがっ、癒慰! お前その靴底鉄だろ!」


「不審者対策よ!」


「てめぇを襲うバカはいねぇ!」


「ひどい! もう一回お見舞いしてあげよっか!」


「ストープッ! 秀斗、もう子ども相手にムキになってるようにしか見えないから! 癒慰もこんなバカ相手にしない!」


 見るに見かねた勇輝が仲裁に入った。


「同じ子どもに言われたくない!」


「てめぇ、今バカっていったかぁ?」


「なんでこっちに切れてんだよ!」


「あれ~」


 喧噪の中、やけにのんきな声が聞こえた。声の主は眼をこすりながらこちらを見ている。


「げっ、弥生が起きちまった!」


「れいかのお友だち?」


「そ、そうです。二人だけでは寂しいので呼んでみたんです」


 傍観者を決め込んでいた零華が慌てて答えた。弥生がそう思ってくれるのならそれを利用しない手はない。


「癒慰だよ~よろしくね!」


「錬魔だ」


「俺は……」


 勇輝も名乗ろうとして思いとどまった。


(勇輝という名の人間が二人もいたらさすがにあやしいじゃん!)


「え~と、はるゆきです」


 苦し紛れ昔のあだな。こういう時の為に偽名の一つや二つ持っとくんだったと後悔する。


「お友だちいっぱい」


 寝起き上機嫌の弥生はとても嬉しそうである。それを見て彼らは安堵の息を漏らしたのだった。


「よっしゃ弥生、みんなで遊ぼうぜ」


 秀斗が弥生を抱きかかえる。弥生は嬉しそうにはしゃいだ。だいぶ秀斗にも懐いたようだ。


「うん! 何するの?」


「そ~だな~」


 と考えながらちびっこたちを見まわして、


「少年少女探検団ごっこすっか」


 と提案した。


「わ~い!たんけんごっこ~」


 その言葉を聞いてちびっこ達はげんなりする者が二名、目を輝かせる者が二名いた。


「楽しそーだ!」


「はるゆきもいっしょ~」


「じゃぁ、そうと決まったらお着替えするよ~」


「え、着がえ?」


 なにやら嫌な予感のする彼らが連れて行かれたのは癒慰の部屋だった。

 全体がピンクで整えられフリル多様、乙女満開のその部屋には、ひときわ目を引く巨大なクローゼットがあった。その面積は年々増え、もはや衣裳部屋と呼ぶに相応しい物になっている。

 そしてその中から癒慰が取り出してきたのは薄茶のお馴染み探検ウェア。なぜかきっちり六着もある。


「これを、着るのか?」


 実物を前にして子どもらしからぬ苦渋に満ちた顔をしている錬魔。

 その隣に言葉もない零華。


「そうだよ。よかった~いつか着ることがあるかもって思って人数分買っておいて~」


 物言いたげな顔をしつつ言葉はひとまず飲み込むらしい錬魔であった。


「なぁ、これかなりでかいんだけど。着られるの?」


 横で服を広げていた勇輝が問いかける。


「袖を通して見て」


 自信たっぷりに癒慰が言うので勇輝は頭からすっぽり被って袖を通してみた。

 すると不思議なことに袖がみるみる縮み、丈もちょうどよくなった。


「すげ~」


 さすがメイドイン匠か~と一人心弾ませる。隊員服の時も感じたが、今回は縮む大きさが違う。


「着られたよ~」


 一同が声のした方を向くとちびっこ探険家に変身した弥生がいた。


「かわい~」


「みんなもはやく~」


 こうなると着ざるを得ない、あんな楽しそうな顔をされたら断れないではないか。

 そして皆が探検服姿になり、屋敷探検の始まり始まり。

 しかし、どこを探検するのか、この屋敷の広さは彼らだって把握しきれていない。居住区域外は未開発地帯なのだ。

 うっかりドアを開けたら未知の世界が……なんてことも十分考えられる。

 さて、どうするかな、と先頭を歩く秀斗は考えをめぐらしていた。


「ひとまず、一階を探索すっか」


「そうですね。一番安全な所だと思います」


(ん~安全ってのもちょっとスリルにかけるぜ……そうだ)


 秀斗はにやりと笑っていた。そして不幸なことに誰もその笑みに気付けなかった。


「弥生、こっちになんかの像があるよ!」


 秀斗の横で騒ぐ勇輝と弥生は身も心も探検家であった。


「わ~。なんのぞうかなぁ」


 それはどう見ても悪魔だろう……と冷静な子ども達は心の中で呟いた。

 そしてあんなに気味悪い像に平気で触れる弥生と勇輝はすごい、と勝手な感想すらを抱いていた。


「この部屋は何?」


 弥生が開けた部屋に彼らは見覚えがあった。つい先ほど閉めたばかりの……。


「あ! 弥生、そこは入んな!」


 秀斗が慌てて止めようとするが弥生はすでに部屋の中にいた。


「あ……」


 入ってから勇輝も気づく。ここは物置部屋ではないか。

 さっきと同様、部屋の中央には怪しい箱が居座っている。


「わ~おもしろそー」


 となんの躊躇もなく弥生はその箱に近づいていった。それを勇輝が慌てて止める。


「弥生、これはダメ。危ないんだよ。食べられちゃうんだよ!」


「食べられるの?」


「そう!」


 どうして弥生はこれほど嗅覚が鋭いのか。危険なものばかり見つける。


「ほら弥生。ここは子どもが入っちゃダメな場所だぜ」


 秀斗が弥生をつまみあげて外にだす。

 ここには鍵をかけないといけない、とその場にいる全員が思った。

 長い回廊を歩いていると、またもや見覚えのある扉が見えた。


「あの中探検しよっか」


 癒慰の提案はしばしの試案時間を経て採用された。

 重厚な扉の向こうには立派な机があり、社長が座るような椅子が付いていた。四方の壁は資料が詰まった本棚で囲まれている。

 この屋敷の中核、執務室兼司令室である。

 通常その席には弥生が座るはずだが、零華が使用していることが多いだろう。なにせ事務仕事は全て零華が受け持っているのだから。


「うわ……空気悪」


 勇輝は入るなりそう呟いて部屋中の窓を開けていった。

 ここ最近仕事もなかったので閉めっぱなしにしておいたのがまずかったらしい。


「お~久し振りに入ったぜ」


「でしょうね。貴方達は一つも私の仕事を手伝ってはくれませんから」


 零華のとげのある言葉を秀斗は笑って受け流した。


「ここは何の部屋?」


 社長の椅子に座っていた弥生が訊いた。ちゃっかり隣に勇輝もいる。


「ここは俺たちが仕事する場所だぜ」


「私が、です」


「お仕事か~パパとママもお仕事してるんだね」


 その言葉にはっきりとうなずける者はいなかった。この二人の仕事は事件が起こらないかぎりないのだ。


「お前も、大きくなったら仕事しろよ」


 この際自分のことは棚に上げた秀斗である。

 そしてご両親は大きくなったら暗殺や実験ではなくもっと女の子らしい仕事をして欲しいと願った。




 そして、ここからの探検は想像を絶するものとなった。

 秀斗が“俺は裏方にまわるわ~あとはちびっこで楽しめや”と言って引っ込んだはいいが勝手に空間をいじり始めたのである。

 行く先々にトラップがあり、それに勇輝がかかる。それも落とし穴とか可愛いものでなく、床が消えてその下に剣が待ち構えていたり、上から矢が飛んできたり、挙句の果てにはゾンビまで出てきた。


「ぎゃぁぁぁ! 止めて! 助けて!」


 という悲鳴が何度響いただろう。

 半泣き状態の勇輝と打って変わって上機嫌な弥生。一緒に先頭を歩きながらも弥生は華麗にトラップを潜り抜けていたのである。

 そして後ろに続く疲れ切った顔の心は大人の三人は


「元の体に戻ったら秀斗君をはずかし~姿にしてやるんだから!」


「切り開く」


「一週間監禁します」


 と各々復讐の念を誓っていた。

 もう弥生が楽しんでるからいいや、のレベルではない。

 現に目の前で勇輝がレーザーで焼かれそうになっているのだ。


「ぎゃぁぁぁぁ、今度こそ死ぬってぇぇ」


「わ~ビームだぁ」


 弥生はよけつつレーザー達を剣で切り捨てていく。

 五歳の女の子が剣を振り回すんじゃない……と見守る子どもたちはため息をついた。


「弥生ちゃんの性格はどう頑張っても直りそうにないですね」


 それに両親はゆっくりとうなずいたのであった。





 屋敷内を一周してホールに戻ったところで探検はおしまいとなった。

 一行が表情うつろに帰ると、元気な秀斗が出迎えた。

 すぐに小さな大人たちが詰め寄る。


「秀斗! あれは何? 俺死ぬとこだったんだけど!」


「あはは。はるゆきはほんっと全部の罠にひっかかるよな~」


「あんな危険な罠を仕掛けて、弥生ちゃんが引っ掛かって怪我でもしたらどうするつもりだったんですか?」


「大丈夫だって、あれ全部偽物だし~」


 なぜ秀斗が言うとこんなにも嘘っぽく聞こえてしまうのか……。


「弥生も楽しんでたし、いいじゃん」


「よくない!」


 四方からの同時口撃、いつもならかなりのダメージだが今回は違う。

 敵は自分よりだいぶ小さいお子様であり、秀斗には子どもがすねて反発しているようにしか思えない。


「ひとまず俺はこの忌々しい服を着替えてくる」


 錬魔はひととおり秀斗を睨みつけてから自室へ帰って行った。

 それに癒慰と零華も続く。

 三人の背に秀斗は


「もうすぐ飯だぞ~」


 と癇に障る声をかけたのだった……。




 彼らはホールで食後の一時をゆるやかに過ごしていた。

 子どもたちの合宿と、事情の知らないものが見たらそう思うだろう。

 子どもたちの騒ぎ声の中、盛大にトランプパーティが行われていた。

 ちなみに今の競技はババ抜きである。


「あがり~はるゆき君がビリだぁ」


「ちぇ~次は絶対勝つ!」


 本日五回目のババ抜きを開始しようとした時、時計が九時を告げた。


「あら、もうこんな時間ですね」


「お、子どもは寝る時間だぜ」


 と秀斗は勇輝の頭をワシャワシャと撫でた。完全に子ども扱いである。

 勇輝は秀斗にアッパーを決めてやりたいが、この体格差ではダメージはゼロだ。


「じゃぁ、弥生俺たちと一緒に寝よっか」


 勇輝は当てつけのように、秀斗の手をすり抜け弥生の手を取った。


「おいはるゆき! おまえどさくさにまぎれて何やってやがる!」


「だって、弥生一人で寝るの寂しそうだから……それに二人っきりってわけじゃぁ……」


 秀斗の剣幕に語尾のほうが消えかかっていく。


「ねぇ……パパとママは?」


 弥生が俯いて発した言葉はその場の空気を張りつかせた。

 ご両親は顔を見合わせる。ご両親は現在子どもの姿だ。


「いや、その、お母さんたちはちょっと仕事で今日は帰ってこねぇんだ」


「そ、そうなのです。だから今日はみんなで寝ましょう」


 必至にごまかす彼らを弥生は潤んだ瞳で見上げた。


「パパとママ、弥生のこと嫌いになったの?」


 両親を含む全員が首を激しく横に振った。


「そんなわけないよ!」


「無論だ」


「でも……パパって呼ぶと嫌そうな顔するんだもん」


 非難の目が一斉に錬魔に向けられる。錬魔はそれから逃げるように顔を背けた。


「いや……あれは、嫌だったのではなく、その、気恥かしかったのだ」


 錬魔の言い訳の声は消え入りそうなほど小さい。


「それに、私、パパとママにちっとも似てないもん……髪も銀色だし、養子なんだ」


 養子なんて言葉をどこで覚えたのか、弥生はますますしょげかえっている。


「髪色が違うくらい誰だってあるって!」


「そうです。それに貴方の口調はお母様にそっくりですよ!」


 確かに弥生の口調はこの二日で癒慰のものに似てきたのだ。


「本当?」


「本当です!」


 零華の言葉は説得力あるな~とつくづく感心する勇輝であった。


「明日になったら帰って来てくれるだろうぜ」


 もし明日体が戻らなかったら……その時はまた考えよう。


「……うん。わかった」


「じゃ、一緒に寝ようぜ」


「ちょっとお待ちなさい。貴方こそどさくさにまぎれて何を言っているのですか」


 弥生を抱きかかえようとした秀斗を零華が引き止めた。


「いいじゃん、みんなで寝た方が楽しいぜ。弥生もそう思うよな?」


「え……でも、ママがパパ以外の大人の男の人と寝ちゃダメって言ったから……ダメ」


 おいこら、なんつうこと教えてんだよ! と内心毒づきながら癒慰を見下ろした。

 もちろん癒慰は得意満面である。


「そうだよね~大人の男は危険だからね~。じゃ、寝よっかぁ」


「うん」


 そして子どもたちはぞろぞろとホールから出て行った。


「俺も子どもになりたい」


 広いホールに響いた呟きは、誰が知っていよう……。


そして秀斗一人が大人として残るという展開。みんなちっちゃくなって可愛くなってます。

彼らが本当に子どもだったころの話も、そのうち出てくるでしょうね~。

では次回「小さな魔術師弥生に笑われる」

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