奇跡的にも仲のいい、自称『ゆるふわ美少女JK』である幼馴染みに告白したら断られた。
「澄夏、俺達付き合わないか?」
俺と澄香は家が隣同士の幼馴染みであり、昔から高校生になった今でも仲が良い。
それはもう、『ラノベか都市伝説か』と囁かれる程に。
そんな奇跡的な『幼馴染み』関係ではあるが、当然ながら俺的には満足していない。
大体にしてそんないい関係の異性の幼馴染みがいて、しかもそれが可愛ければ『それ以上の関係になりたい』と思わずに放置している方が不自然である。
『告白したことで気まずくなるのが嫌だ』とヘタレてしまう気持ちはまあわかるが、それ以外でそういうことをしているならば、そいつはとんだ不埒者のムッツリスケベであり大変不誠実な男なのではないだろうか。
そんなわけで、ヘタレな自分を超えた俺は、とうとう澄香に告白をした。
しかし──
「笑止!」
返事はまさかの『笑止』。
そりゃ断られる想像もしてはいたけれど、流石に『笑止』は予想外。
「いいか? 圭介、我々は幼馴染みだ」
「そんな……流石に『ワレワレハ宇宙人ダ』みたいなフレーズが理由だなんて納得できないが」
「馬鹿め、きちんと頭を使わぬからそうなるのだ! そこに入っているのは豆腐か?!」
酷い罵倒を受けたが、大体の人は意味がわからんと思う。
確かに色々と想像の余地はあるが、だからこそもう少し修飾して頂きたい。
「我々は幼馴染み……しかもラノベ幼馴染みが如く仲がいい」
ああ、やっぱりそう思ってたんだなぁと少しだけ安堵した。
「いや君、ラノベの幼馴染みより大分クセ強いけどね?」
「左様」
いやそこアッサリ認めるんかい。
しかもちょっと満足気なあたり。
慣れすぎて忘れがちだが、澄香が慢性的な厨二病患者であることを否応なしに感じることができる。
『クセ強』は厨二病患者にとって『特別な人間』と褒められたも同然なのである。
「私は確かにクセ強幼馴染み……だがモラハラ幼馴染みやツンギレ幼馴染みに非ず。 そして我が容貌は間違いなく、極々一般的なゆるふわ系美少女JKと言っていいだろう」
「……」
極々一般的な美少女ってなんだよ。
大体自ら美少女って言う奴、オカンの好きなセーラー服着たツインテ戦士くらいしか知らんわ。
余談だが、オカンはドレッサーにコラボの化粧品をズラリと並べているだけでなく、昨年のハロウィンには自らコスプレまでした挙句に、親父にもヒーローのコスプレをさせていた。
俺もどちらかというとオタクな方だし好きにしたらいいとは思う反面、この年齢にして目の前で親のコスプレイチャイチャを見せられるのは流石に精神的にキツイものがあった。
今年のハロウィンは絶対外出すると心に決めている。
「大事なのはそこだ!!」
「えっ」
やべ、両親のコスプレのことなんか思い出してたせいで、完全に思考が飛んでたわ~。
「私が中学までどんな容貌であったか貴様とて知っていよう!」
「あっそれね?」
性格自体はほぼほぼこのままだが、澄夏は中等部まで地味であり私服はクソダサく、陰で色々言われていたようだ。
実際今でもお出掛けの時以外は常にジャージであり、妙にファンシーなイラスト入りか、梵字や含蓄のあるお言葉の書かれた謎のTシャツを愛用している。
学校での姿は互いに私立(※それぞれ男/女子校)なのであまり良くは知らないが、高等部進学を機に普通のゆるふわ女子に擬態することにしたらしい。
中等部時代で俺が知っているのは「ギィィ~! 愚民共めぇぇ! 末代まで祟ってやるゥ~!!」などと吐かしていたことぐらい。
ちなみに本当に呪う気だったのか『一緒に蠱毒を作ってみないか』とお誘いされたが、どちらも虫が苦手なので計画は立ち消えている。
澄香と共に過ごした時間は伊達では無い──だが、できればもう少しロマンチックなお誘いがほしいところだ。
例えば『一緒に〇〇に行かないか』とか。
今更『〇〇』部分に『花火大会』とか『遊園地』などという素敵な場所を当て嵌める程夢見がちなことを吐かしているわけではなく、『廃墟探索』でも『UFO出現スポット』でも一向に構わないのだが。
『蠱毒を作りに山』レベルの高度なヤツじゃなければ。
そんなロマンチシズムとはかけ離れた澄香は言う。
「この私が愚民共のくだらぬ感性に合わせてやったにせよ、そこには並々ならぬ苦労があったと言っていいであろう……」
「で、それがなんで『笑止』に繋がるんだ?」
「ハッ! まだわからぬか!」
嘲笑気味に『ハッ!』と笑う澄香はとても可愛い。
さながら『舞台慣れした劇団女優が初めてのドラマ起用で失敗しちゃった時』みたいなやり過ぎ感が。
「『極々一般的な美少女JK』であるこの私が、貴様のような『普遍的モブ男子』と恋人になるなどと!」
「え、なんかダメなの」
やり過ぎ感の続く澄香はアメリカンコメディみたいなヤレヤレポーズを取ると、盛大な溜息を吐いた。
「貴様にはまだわからぬというのか……その愚行により、喪われしモノの価値が」
曰く、
『幼馴染み(※しかも仲良し)』は非常に稀有であり尊い存在である。
──とのこと。
「敢えて言おう! 普通の我々に残された希望……それがこの立ち位置である、と!!」
なんかの台詞を模したような口調で澄香はそう宣う。
「う~ん……俺としては恋人っぽいこともしたいんだけど?」
いやらしい意味も否定しないが、いやらしい意味だけでなく。
それこそ花火大会とか遊園地に行ったりとか?
「フン。 だから貴様の脳ミソは豆腐だと言うのだ。 別れる切れるが付き纏う『恋人』など……『幼馴染み』の尊さに比べたら、月とすっぽん!」
「でもすっぽんは高級食材だしなぁ……」
それに精力増強にも効くと言う。
わぁ、なんかやらしさが増すね?
これは言わないでおこう。
「まあ澄香がそう言うなら、別に今のままでもいいよ」
「フッ、わかればいいのだ」
「つまり澄香は俺と別れる切れるが嫌ってことだもんな?」
「当たり前だろう!」
照れるかと思いきや、意外にもストレートに『当たり前』と返ってきた。
(……参った)
照れたのは俺の方だった。
そして早速ちょっと後悔している。
『別に今のままでいい』と言ってしまったことを。