5ちゅ
「俺、吸血鬼なんだ」
俺、田中紅の最愛、華絵の可愛らしい瞳がぱちくりと瞬いた。籍を入れ、結婚式を無事終えた、幸せの絶頂期にどうしてこんなにも緊張感のある告白をしなければいけないのか。
「うん」
結婚まであっという間でした。その最後が、え?私の人生、これで終わり?うん?吸血鬼になったら、人としては終わるけど、吸血鬼としては終わらないよね。おや?まだ生ける?
「色々、決まりがあって話せなかったんだ。でも、華絵には秘密を打ち明けられるようになっただけで、特に影響は無いから!」
結婚の誓いと共に秘密保持の誓約を交わすため、話せるのは当然その後となる。不意打ちのように誓約し、秘密を告白して、直ぐ離婚されたらどうしてくれるんだ!!と、この規則を作った者達を吊し上げたい。
「うん。話してくれてありがとう」
驚いた。でも、納得したし、似合う。端正な顔立ちで、今もクラッといきそうだもんね。
「俺の事、嫌だなとか思ったりしない?」
情けないが、彼女に縋ってでも結婚を継続してもらうしかない。俺は彼女がいなければ息もできない。
「ううん。全然」
正直に言うと、ギュっと抱きしめられた。
「良かったー。華絵、好き」
ホッとした。そんなことで嫌わないだろうとも思ったし、嫌われてたまるかとも思ったが。華絵を前にするとどうしようもなくなる。いつもは目の前に、腕の中にいてくれるだけで幸せしか感じないが、今は少しの焦燥がある。
「私も好きです」
成長したでしょう?私。好意を口に出せるようになりました。結婚式後に再度、告白しあっちゃうとは、なかなか貴重でしょ。
「ええっと。聞きたいことはある?」
このまま誤魔化して先へ進みたいが、それをしてはいけないという事くらいは分かっている。しかも、俺は華絵、第一主義だ。
「吸血鬼のことで?よく聞く弱点とかは大丈夫だよね?」
太陽の元でも一緒に遊べたし、銀の弾丸が身近にある事は無いだろうから、後はニンニクだね。一緒に餃子とか食べたような・・・。ニンニク抜きだったかな?心配になって来た。
「弱点は吸血衝動がある事くらいかなー」
流石、華絵。優しい。真っ先に心配するのが俺の弱点。好き、愛してるー。
「大丈夫なの?私でどうにかできる?」
ニンニクが大丈夫なのは良かったけど・・・。血が飲みたいっていうのはどういう事かな?喉が渇くの?熱中症みたいになったりする?
「うん。俺がそう感じるのは華絵だけだよ」
大丈夫かな?直接的すぎない?怖がらせたり、引かれたりしていないかな?ああ、もう。探り探りだよ。
「私だけなの?献血みたいにすればいい?」
こんな状況だけど、ちょっと嬉しい。こんな素敵な人に私だけって。意外と独占欲強かったのかな、私。
「俺も初めてだから、やってみてもいい?」
胸が高鳴る。
「ど、どうぞ」
目を開けたら朝だった。おや?貧血を起こした?
「おはよう、華絵。大丈夫?」
うわっ。眩しっ。紅さん、すっごく目映いよ。
「うん。おはよう。大丈夫。私、寝ちゃった?」
朝から可愛いよ、華絵。
「何ともないのなら良かった。多分、疲れちゃったんだと思う。結婚式もあったから」
紅さんが言うならそうなのかな?それにしても、朝からこんなにも格好良いんだ。感心しきりだよ。なんて、現実逃避している場合じゃないよね。結婚初日、寝ちゃったよー。
「あの、その。ご、ごめんね」
こちらこそ、ごめんね。多分、俺の吸血行為のせいだと思う。初めてで余裕なくがっついちゃったからなー。そのお陰で俺は絶好調だけど。華絵も俺のものっていう感じが漂っていて、良い感じ。これは鼻のいい人しか分からないだろうけど。
「ううん。俺が血を貰いすぎちゃったかもだから・・・」
うわー。落ち込ませちゃった。さっきの輝きからか、落ち込み様の落差が激しく感じるよ。
「お互い様ってことで、これからよろしくお願いします」
そういう考え方にもホッとさせられる。やっぱり、大好き。
「末永く、仲良くしていこうね」