3七夕
街中の笹の葉飾りが揺れ、またこの季節がやって来たと私こと、高橋薫姫は思う。本当に縁と言うのは面白いものだ。
「薫姫、二人の結婚のお祝いどうする?」
宇宙?天体?星?繋がりで小学生から仲良くなった綺羅良と、今日は華絵と魅桜の結婚祝いの買い物だ。華絵の結婚は相手の力圧しだが、華絵の兄の葉太と結婚した魅桜の戦略的結婚が恐ろしい。考えないように、思考を奥へ押し込むと、綺羅良へ向き直る。
「私が布を織ろうかな~」
「いいね。それに、私が何か付け加えようかな?」
「そうしましょう~」
のんびりした私の話し方を気にすることなく、付き合ってくれる華絵、魅桜、綺羅良の三人には感謝している。
私のこの話し方はどうも特性らしい。綺羅良が考察してくれた所によると、高度過ぎてほぼ理解できている気がしないが、生きている時間の次元が少し違うか、ズレているらしい。大丈夫なのかと思うが、今まで平穏無事?に生きているので問題ないのだろう。
私が魅桜と出会ったのは、普通とは少し離れた小学校の卒業と同時にエスカレーター式に同じ中学校に通い始めた頃だった。転校生なんてまずいない中学に、見慣れない生徒がいたら誰もが気にする。後から本人に詳しく聞けば、在籍だけはしていたそうだが、通えなかっただけと簡素に答えられた。本人の憤りが感じられるもので、少しだけ学校のシステムに疑問を抱いたものだった。
登校初日から魅桜は非常に目立っていた。見目麗しい外見の者も多いが、それとは一線を画す視線が釘付けになるような外見だった。力を抑えていてもそれだと言うのだから、苦労が忍ばれる。実際の魅桜はその美貌にそぐわないような、いや、そんなことすら超越するように、周りを鼻で笑ってみせただけだった。
視線は奪われるがその冷めた態度に、近付くのは止めておこうと理性が働いた自分を褒めつつ、校舎が変わった自分の教室に行くと、彼女がいた。全員が遠巻きだった。座る席は決まっている筈なのに・・・。私は残念ながら冷気を振りまいているような美貌の彼女の後ろの席だった。出席番号順だ。
気にせず座った自分の肝の太さに感動しつつ、友人の綺羅良を待った。そんな中、綺羅良は薄情で、出席番号が離れていることを良いことに、私に新学期の挨拶をすることも無く、自分の席に着いたのだ。勿論、後から精一杯の恨み言を言ったが。
担任も、とてもやり辛そうにしていたはずが、視線が彼女に釘付けとなり、最後は下僕となった。そして、彼女がこの教室を仕切ることになる。あら。
「はい。自己紹介なんて、いらないでしょ?もう、終わりよね。解散」
手を一度打ち、仕切り直すと、入学式に出席することなく、我がクラスは初日、5分も経たずに帰宅させられた?彼女は容姿もさることながら、声も一挙手一投足も全てが惹きつけられるものを持っていた。別に入学式に出たい訳では無いし、担任と代り映えしないクラスメイトの自己紹介を聞きたいなんてことも無い。だが、彼女はそれで良かったのだろうか?
「それをあの後ろの席という近距離で考えられるところが薫姫の凄いとこだよね」
「そう~?」
彼女と物理的な距離が開くと、綺羅良が側に寄って来た。そして一緒に下校する。周りも三々五々に散っていく。
「私も危なかったー。もってかれる所だったわ。あれで、抑えているって嘘でしょ?」
「ふん。本当よ」
思いもかけない答えが返って来た。先に帰ったと思っていたのに、私達いつの間に追い越したんだろう?
「あ~。私~高橋薫姫と申します~。後ろの席なの~。よろしくね」
「え?ここで自己紹介?薫姫、凄過ぎ。でも、必要か。私は渡辺綺羅良。ちょっと、ヤバいから距離、置いて良い?」
「どうぞ。あなたは大丈夫なの?」
「ええ~。多分」
私が答えると、少し離れた綺羅良が遠くから言う。
「あ、薫姫はちょっと鈍くて強靭だから、平気だと思う。私も慣れたら、大丈夫だから。ごめんねー」
謝られた彼女は綺麗な顔を綺麗に驚かせて、少しだけ早口になった。
「別に謝ることは無いわ」
「そう~。でも、担任は困ったわね~」
「ありがとー。ほんと、どうするんだろうね?」
「あなたたち、私に恨み言は無いの?」
「え~?」
「なんで?別に、あなたは悪くないでしょ。対策、出来てない学校が杜撰なだけで」
「どうも」
「本当にね~。でも、初日が簡潔に終わって嬉しいわ~。ありがとう~。また、明日~」
「だよね。じゃ、私、あっちだから。またねー」
「・・・また」
そうしていつの間にか仲良くなっていた。それがいつの間にか今まで続く。私のどうでもいい婚約者が絡みに行ったり、挿げ替わったりとする中でも、途中から加わった華絵も入った四人の友情は変わらなかった。
まだ、自分と関わりが無かった小さな頃に一度だけ、短冊に願った「お友達ができますように」はしっかりと叶っている。私は皆の純粋な願いを叶えられているだろうかと考える度、友人たちの顔を思い出す。そうすると私が叶えたのか、先代か、七夕は関係ない等、気負うことなく、そのままでいいと思えるのだ。