夏
真夏の蒸し暑さに嫌気が差すころ。
夕日が山に差し掛かるほどの時間。
ビルの立ち並ぶ都会とは違い街頭はなく、少々冗長に感じる長い川沿いを少年らは走る。
「ねぇ!待ってよ!」
「やだよー!!家まで競争なんだから!!」
そこから、ぐんぐんと彼らの間に距離ができる。
先頭を走る少年は、疲れを感じさせないほどの軽快な足取りで走っていく。
どれほど走った頃だろうか、いつの間にか河川敷は終わりを向かえ、舗装のされていないあぜ道に差し掛かった。
前方には帰るべき家が見える、後ろに兄はいない。
長距離を全力走ってきたからか、彼は肩を上下させている。
「お母さん!僕、お兄ちゃんより足が速くなったんだよ!」
玄関を勢い良く開け、台所にいる母に興奮気味でそう伝える彼は、長い距離を走ってきたからか、肩を上下させている。
「?何言ってるの、あなたにお兄ちゃんなんていないじゃない」
彼女は、はかなげな表情で少し静かにそう答えた。
家の中は、燻る煙の臭いがした。