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「あの、この格好でないといけないんでしょうか?」


シイラはかすかな希望を込めて聞いてみた。


「はい。侍女服はそのように決まっています。」


が、希望はすぐに冷静な声によって打ち砕かれた。

クロダイン副団長に案内された先は王城の更衣室であった。そこで「あとは頼んだ。」と説明もなしに押し込まれ、中で待機していたメイド達にあれよあれよと騎士服から侍女用の服へ着替えさせられた。


侍女服は紺色の膝下まであるワンピースに白いエプロンといったシンプルなものである。

しかし襟周りは可愛らしいレースで飾られており、エプロンの隅にも繊細な刺繍が施されている。結び目も大きめのリボンになるような構造でメイド達の実用的な服よりもデイドレスに近いような印象だ。

普段は騎士服で過ごしているし、休みの日でも簡素なシャツにスラックス姿で過ごしているこの身にはハードルが高い。


ううう。女装してる気分。


戸惑っていると、小降りの短剣が差し出された。


「こちらがローゼン様に使用していただく物です。太腿のベルトに装着してください。」


「ああ、ありがとうございます。」


普段使うのはレイピアだが流石にこの服では帯剣できない。短剣は殺傷力は低いが小回りが効くので室内での護衛には最適だろう。


「スカートのポケット部分がスリットになっていますので、そこから取り出せます。」


「なるほど。便利にできているんですね。」


「ローゼン様は護衛も兼ねていますので特殊仕様です。私などは普通にポケットになっていますので。」


先ほどからシイラに説明をしてくれる女性。

明るい茶色の髪を後ろで一纏めにして眼鏡をかけたその人も侍女服を着ている。


「あの、レーナ·フォックスさんですよね?聖女様の侍女をされている。」


「はい。申し遅れてすみません。フォックス家四女のレーナ·フォックスと申します。」


「シイラ·ローゼンです。シイラと呼んでください。あと、敬語もいりません。私は爵位も何もない身ですし、侍女として後輩ですから。」


「わかりました。では、シイラさんと呼ばせて頂きます。私のこともレーナとお呼びください。それと、敬語に関しては私の性分なのでお気になさらず。」


「そうでしたか。ではレーナさん。よろしくお願いします。」


落ち着いた雰囲気のレーナさんと握手を交わす。


侍女なんて務まる気がしなかったけど…


偉ぶったような雰囲気のない先輩の存在に、これからの仕事に少し安心感を覚えた。



その時、突然、更衣室のドアが開かれ少女が突入してきた。


「レーナ!女騎士さんが来たって本当?まあ!あなたがそうね!!」


少女は入室してきた勢いのままパッとシイラの手を取ると明るく笑った。


「私は沢村花音(かのん)。よろしくね!女の騎士さんがいるって聞いて、とっても憧れてたの!」


肩ほどの長さの栗色の髪がふわっと揺れた。

小さな顔や鼻に反して瞳は大きくクリっとして小動物を思わせる。

白い肌はきめ細やかで、華奢な身体は守ってあげたくなるように小柄だ。


か、可愛い。


思わず見とれていると横からレーナさんの冷静な声がかけられた。


「聖女様。いかに同性であってもノックもなしに入室されては困ります。」


「あ、ごめんなさい。嬉しくって、つい。」


シュンと肩を落とす姿は可哀想に見えて同情を誘う。


「私は大丈夫ですよ。丁度着替え終わったところですし、ご挨拶に伺おうと思っていたので。」


苛めてしまったような罪悪感にかられ、ついフォローしてしまった。

レーナさんがハアっと一つため息をこぼした。


しまった。間違ったことをした人を諫めてるのに、それを庇われるといい気はしないよね。

これは今後気をつけねば。


気を取り直して、聖女様に向かい合う。


「改めまして、シイラ·ローゼンと申します。この度、聖女様の護衛兼侍女として仕えさせていただくこととなりました。どうぞ、よろしくお願いします。」


騎士の礼をとるが侍女服のためいまいち決まらない。

しかし聖女様はそんなことを気にする様子もなく嬉しそうに笑った。


「そんなかしこまらないで、花音って呼んで?」


「いえ、そんなわけには。」


「お願い、聖女様なんて柄じゃないのよ。レーナにもお願いしているのになかなか呼んでくれないし。」


再びシュンとした様子で肩を落とす聖女様。

私より背が低い彼女が少し俯きながらお願いすると、自然と上目遣いになる。


「そ、それでは自室の中では花音様と。」


「うんっ!これからよろしくね!」


可愛らしさに負けてしまい、レーナさんの様子を窺いながらそう言うと聖女様は本当に嬉しそうに笑った。レーナさんも仕方ない、という風に頷いている。

なんとか、セーフのようだ。


「ねっ、シイラは騎士なんでしょう?クレアスティーネ様の側にいる人たちとは違うの?」


「あちらは王妃様専属の近衛騎士で第一騎士団に属する方々です。私は第二騎士団なので所属が違うんですよ。」


「第二騎士団!ライオネル様のところね!」


ポンと両手を打って少し頬を染める聖女様。


“ライオネル様”

そうか。婚約者だもんね。名前で呼ぶよね。そりゃそうだ。

役職名でしか呼べない自分とは立場が違う。そんなことを比べる方がおかしいのだ。


花のようにニコニコと笑いながら話す聖女様。小柄で華奢で明るくて、騎士団の先輩たちが話す“可愛い女の子”の姿をそのまま体現したような人だ。


この人が団長の横に並んだら、きっとすごくお似合いだろうな。

こんな風に可憐に笑いかけながら団長を見上げる花音様と、それに優しい笑顔で返す団長を想像する。

うん。素敵な組み合わせだ。先日のような敵意も沸かない。大丈夫、獣性さえ抑えておけば、自分は問題ない。


ふぅっと小さく息を吐き出す。


だからこの思いは切なさなんかではない。

絶対に。






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