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運命の番は聖女の婚約者でした  作者: 岳
番外編
42/48

アルバート・フォン・パピノリア

暗いお話です。


アルバートはいつも不思議だった。

どうして、賢者は姿を隠すのか。

なぜ、研究者は道半ばでその命を終わらせてしまうのか。


小さい頃から、どうして?なんで?

そんな問いを何度もしては教師たちを困らせた。


『アルバート様、それはそうあるから、です。そこに理由などありません。』


何度そう言われただろう。

それでもアルバートは納得できなかった。

どんなものにも理由があるはずなのだ。

魔晶石が輝くのに理由があるように、アルバートが父に愛されないのに理由があるように。



アルバートの母は踊り子だった。

父である国王が惚れこみ、側室にしたがその後すぐにアルバートを授かったので周囲は子どもの父を疑った。


アルバートの髪色が金色だったことも、疑いに拍車をかけた。

パピノリアでは黒髪程尊いとされている。

アルバートの瞳は父と同じ碧眼だったが、それだけでは何の証明にもならなかった。


母は失意の中3歳の時に亡くなった。最期まで王への恨みを口にしていたらしい。

父はアルバートを疎み、形だけの王子として放置した。


そんな中で5つ上の異母兄だけはいつも優しくしてくれた。

アルバートの問いかけに嫌な顔をすることもなく。

「どうしてだろうな?一緒に考えてみようか。」

そう言って毎回付き合ってくれた。

面倒くさがるロイドをなだめ、いつもこう言ってくれた。

「僕の弟は天才だから。」と。

アルバートはその言葉に励まされ、どんどん知識を求めた。




きっかけは小さな絵本だった。

龍によって滅ぼされたというその国には、かつて怠惰の聖女と呼ばれる(ひと)がいたという。

怠惰の聖女は「魔法にばかり頼ってはいけない。」そう言っては、有り余る治癒力を使うこともせずに本ばかり読んでいたらしい。

結局最後は龍に食べられてしまった。


そんな風に締め括られたその絵本を、アルバートは何度も何度も読んだ。

悪し様に書かれた怠惰の聖女の言葉は決して間違っていないと思ったからだ。


魔力を増幅させる魔晶石。日常にたくさんの魔力を使う人間はもはやそれなしでは生きられない。

なのに、魔晶石は数を減らし、最近では魔境に潜る者までいるという。



魔力以外のエネルギー。

アルバートはそれを求めた。

過去の研究を紐解き、歴史書を漁り、多くの実験を重ねる。


その中で、ある結論に達した。


人間は、龍に管理されている。


アルバートと同様の研究をした者は過去にもいた。

だか、ある時は病で、ある時は戦争で、その研究は唐突に終わりを迎える。その過程すら残らずに。

そしてその原因を丁寧に紐解けば、そこにはいつも龍の存在があった。

病は龍の破壊した森から来て、戦争は龍の力を手に入れようとしている、なんて噂が火種の根幹だった。


なぜ賢者は姿を隠すのか。


龍から逃れるためではないのか。



アルバートは何度も周囲にそれを訴えが誰も聞こうとしなかった。


どうして誰もわからない?!

このままでは千年先の未来はない!


アルバートは必死に語ったが、

「まだそんなこと言ってるのか。千年先など生きていないだろう?王族ならば千年先より今を心配しなければ。」

優しかった兄でえそう言って聞いてくれることはなかった。





-----カツン


石段を降りる音がして、地下牢に影がさした。


「よぅ。チビッ子。」


軽薄そうに呼び掛けるのはこの場に似つかわしくない美丈夫だ。黒髪に金の瞳


「っ!龍王っ!!!」


思わず身を乗り出すが、冷たい柵に阻まれた。


「だんまりだってな。根性あるねぇ。」


そう言ってアルバートに林檎を投げて寄越した。

無言で受け取り、睨み付ける。


「無理すんな。魔力も空っぽで、食事も拒否してりゃフラフラだろうよ。」


「…………」


「聖女召喚。あれはお前だな。」


確信している言い方だった。

瘴気や魔境をどうにかしたい。兄にそう言われ、賢者の残した絵本に隠された聖女の召喚を現実化した。大量の魔晶石と魔力の強い多くの人間を集め、なんとか成功したはずの召喚。


「あれは確かに脅威だ。だから、干渉させてもらったぞ。」


「…お前の魔力か。」


「流石だな。魔力は魔力に引かれる、より多い方へ。いつもは抑えているが、あの日は少しばかり羽を伸ばしたくてな。」


「っざけるなっ!!」


「兄に手柄を取られたんだろ?毒を盛ったのは利用され捨てられたためか。」


「…うるさい!」


「殺しておけばよかったのに、甘いな。あんな毒じゃあ宮廷医でも解毒できちまう。」


「…………」


「まぁ、でも聖女を奪おうとしたのは正解か。……欲しかったのは浄化じゃなく、異世界の知識だろ?」


やはり確信しているように龍王は言った。


「ぼんやりとした物でも、お前ならできるだろうな。その年でここまで(ことわり)に迫った者はいない。」


「っ!何が(ことわり)だ、お前がやってきたことだろう!」


「そうだな。」


あっさりと認められ、声がでなかった。

龍に管理されている。

何度言っても否定されてきた。誰にも理解されず、聞く耳すら持ってもらえなかった。

それを、よりによって一番憎い存在が、それを認めるのか。


何故か、目頭が熱くなるのを感じた。

視界が揺らぎそうで必死に手を握りこむ。


「お前がいれば、あれは確かに脅威だった。事を急いたのはお前だ、チビッ子。俺を殺すことを優先して自分の価値を計り損ねた。」


「……っ。」


アルバートに価値がある。

そう言ってくれる人などいなかった。


「チビッ子。お前は天才だ。人の世にはたまにそういうのが生まれる。」


うちの弟は天才なんだ。

かつて兄がアルバートを評してくれた言葉。もう随分とその言葉を聞いていないが、あれはずっと自分の支えだった。


とうとう視界の歪みが大きくなる。頬を熱いものが通り、林檎が、地面に落ちた。


「蟻が象に勝つ方法はな、」


龍王が唐突に語る。


「案外簡単だ。眼球に噛みつけばいい。蟻はどこへでも這い上がるものだ。象がいくら踏んでも小さすぎる蟻を踏み潰せない。惜しむらくは、蟻に知能がないことだな。」


カツン

一歩、龍王がアルバートに近づいた。


「知能は龍の脅威だ。一番の脅威は金獅子じゃあない。お前自身だよ。アルバート。」


バチバチと龍王の片手に魔力が溜まっていく。


「……僕を殺してパピノリアを管理するか?」


「そんな面倒なことするかよ。人の道具は面白いよな。まるで別人を、さもそいつかのように変身させる。」


「子供騙しだ。」


「それでも、お前の兄はそれを飲み込むだろう。“今”とやらのためにな。」


魔力が溜まりきり、アルバートにその手が伸ばされる。


「千年先を憂いた稀有なる人の子よ。せめてもの情けだ。我が手で屠ってやろう。」


そんな声を聞きながらアルバートの視界は闇に包まれていった。







願わくば、今度は龍のいない世界に生まれたい。









パピノリア王国の歴史書にはこう書かれている。


アルバート·フォン·パピノリア。

兄殺しを企て獣人の国をも狙った強欲なる王子。

何が彼をそこまで駆り立てたのか、知る者は誰もいない。











ある世界で1人の物理学者が生まれた。


あらゆる事に疑問を持ち、時間の常識さえも覆したその人は物理学において大きな功績と贈り物を残したと言われている。


多くの人に讃えられた学者。

彼の名前は2通りの読み方をされたという。


albert


龍のいない世界の天才である。







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