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バタン、と病室の扉が閉まるのをどこか絶望的な気持ちで見ていた。


今更、団長と2人きりということを自覚する。

さっきだって2人だったはずだなのに、蜜月なんて考えてもなかった。

団長の怪我を確認して、あの後、第2騎士団と第1の飛行部隊が応援にきたこととか、そんな経緯を聞いていたらクロダイン副団長が来たのだ。


意識していない時は普通に話せたのに。

部屋に落ちる沈黙が落ち着かない。自分の心臓の音が煩くて団長にまで聞こえてしまいそうだ。

真っ赤になっているだろう顔を見られないようクルっと団長の反対側を向く。


「あの、私、報告書を…」


書いてきます。という言葉は後に続かなかった。

大きな腕に捕らわれて後ろから団長に抱きしめられる。肩を怪我しているから片腕だけだが、それでもその甘い拘束から抜け出せる気がしない。


「君が、無事でよかった。」


絞り出すような声が耳元で聞こえる。


「ラビオリ先生の話を聞いて、どれほど恐ろしかったことか。もう少しで私は君を失うところだった。」


「……団長」


獣人は番を失えば狂う。

シイラだってそれは同じだ。ライオネルが撃たれた時、本当に失ってしまうかと思った。

足元から這い上がってくるような恐怖は今でもはっきり覚えている。


「……番隠しを使っていたのは、私に婚約者がいたから?」


「はい。討伐の時に最初の発情期が来たんです。その時に気づいたんですが…。

でも、それだけじゃないんです。たぶん、自信がなかったんです。私なんかが、団長の番だなんて、あまりに……信じられなくて。」


団長は“金獅子”で貴族で、強いのに奢ったり偉ぶったりしない人で、ずっと尊敬している人だった。

だから自分なんかが釣り合うはずない、そう言い訳していたが、本当はお前なんかが、と言われるのが怖かったのだ。


「今でも、自信がない?」


団長の声に少し不安が混じった気がした。

それを払拭したくて、必死に首を振る。


「いいえ。例え釣り合わなくても、私はもう団長を諦められません。誰かに何か言われるなら、釣り合うようになってみせます。」


自分の気持ちは自覚した。心の中で想うだけでいいとそう思って諦めようとした。でも、私はこのぬくもりを、幸せを知ってしまった。今更、この人を他人に渡すなんてできるはずがない。


決意を示すように両手をグッと握ると、グイっと顎を引かれた。


後ろから奪うようにして口づけられる。


「…んん…っはぁ…んっ」


段々と深くなる口づけに声が漏れてしまう。いつの間にか団長と向かい合う形になり片手を握りあっていた。

呼吸ができなくて、息が上がる。

苦しさを訴えるように握る力を強めると、より強い力で握り返された。


「……っはあ、はぁはぁ」


ようやく唇が離れ、酸素を求めて喘いだ。力が入らなくて、くったりと団長に体重を預けると、慰めるように額や頬に口付けが降ってきた。


「私も、もう君を離してやれない。例え隠されても、必ず見つけ出す。」


そう言って握ったままの手を持ち上げ薬指に口付けられる。


「ここに付ける指輪は、私に贈らせて欲しい。今度は番隠しなんかでなく、私のものだと証明したい。」


「それって…」


「結婚して欲しい。」


金色の髪が光を反射して輝いている。紫色の瞳が真摯な光を湛えてこちらを覗き込んでいて。

昨日やっと想いを伝えあったばっかりで、団長は貴族で、上司で…けれどそんな理由などどうでもよくなるくらい、シイラはこの色が好きだ。


「はいっ」


嬉しくて嬉しくて、涙混じりになってしまった返事は震えていたかもしれない。

それでも、団長が幸せそうに笑ってくれるから、シイラもつられて心からの笑顔を浮かべた。











「なるべく早く、本当に、可能な限り最速で仕事を終わらせるから。」


もう一度抱きしめられて、その胸に頬を擦り付けるようにしてぬくもりを堪能していたら、団長が呻くようにしてそう言った。


「無理しないでくださいね。怪我も治さないと。」


「いや、無理をしないほうがダメになる。」


確信をもったようにそう言われ、ちょっと心配になった。

大丈夫だろうか?


「何かできることはありますか?」


平騎士の自分だが何か力になれるかもしれない。書類整理くらいなら…


「それなら…シイラと呼んでも?」


「え?」


「ずっと、ベイルフットやザーケルが羨ましかったんだ。私も君を名前で呼びたい。」


真顔で言われた。ものすごい真顔だった。


「は、はい。どうぞ。」


「シイラ。……シイラ、シイラ。」


呼ばれるたびに顔が赤くなってくる。なんでこんなに恥ずかしいんだ。


「よ、呼びすぎです!」


団長の口を手で覆えば、その手のひらにもチュっと口付けられた。


「私も名前で呼んで欲しい。」


「え。」


団長の名前呼び……

花音様が呼んでいたそれを羨ましく思ったのは本当だ。しかしハードルが高い。団長は団長で、尊敬する上司でもあるのだ。


「………ふ、ふたりきりの時なら。」


「今じゃなく?」


「し、職場ですから。」


何とかそう絞り出すと団長は、うまく逃げられたな、と言って楽しそうに笑った。




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