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説明回です。
「ローゼン。知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか。」
まるで犯人の取り調べのようなクロダイン副団長の言葉で報告が始まった。
ロイドは昨夜のうちに意識を取り戻したらしい。
アルバートは捕まり尋問中だが依然黙秘を貫いているという。
一通り聞き終えたクロダイン副団長は「はぁ」とため息を吐きだした。
「パピノリアから返事は来たのか?」
団長が尋ねる。ちなみに団長は怪我人のため後始末をクロダイン副団長が担っているらしい。
副団長の顔は疲労が浮かんでいた。たぶん昨日から一睡もできていなんだろう。たくさん寝てすっきりしているのシイラとしてはちょっと申し訳ない。
「まだですね。向こうも混乱しているようですから。
ロイドの話では向こうの王太子はアルバートに毒を盛られ昏睡状態だそうです。解毒剤を渡すことを条件に聖女誘拐を命じられたと。
向こうでは毒ではなく病だと思われてたそうなので、今頃は大騒ぎでしょう。人族の医療は魔法頼みですしね。」
アルバートが人質と言っていたのはそのためだったのか。
そうか。だからあんなに……。
ロイドとの戦闘中に見上げた悲愴な表情。
王太子を挑発したことで激高したのも頷ける。
「奴はなんでそんなことを?」
団長はアルバートにだいぶお怒りのようで名前を呼ぶことすらしない。
「王位争いですかね。王太子が聖女を召喚したが座標がずれ我が国に現れてしまったとか。
聖女を攫って召喚の手柄を自分のものにし、次期王の座を奪おうとした、と。ロイド曰くですが。
番隠しで獣人の弱体化を図るくらいですし、ドラゴニアも狙っていたんでしょう」
クロダイン副団長の話を聞いても、どこかすっきりしないのは、アルバートが王座に固執するイメージが沸かないからだろうか。
それより龍王様を殺すことの方がよっぽど執着していたように見えた。
龍王様を殺したいと思う何かが、あったのだろうか?
「ロイドの作戦を妨害したのは奴自身だったろう?」
「はい。おそらく、団長の番を見つけて急遽計画を変更したのでしょう。ローゼンを攫う手口も杜撰でしたし。
聖女様は団長の婚約者だったので、攫った後、国として面倒がおきます。それよりはローゼンを攫う方が簡単で問題も少ないですしね。」
「ドラゴニアを征服する方を優先した、ということか。」
「まあ団長を使えるなら隣国で王になるなんて簡単でしょう。聖女様はその後で手に入れるつもりだったんじゃないですか?」
ロイドの証言と事件の顛末を結び付けて考えると、確かにそれが一番の理由に思えた。
アルバートは結局、龍王様を殺してその座に自分がつきたかったのだろうか。
「王太子はなぜ聖女様を召喚したんでしょう?」
異世界からの召喚なんて、よっぽどの理由がなければやろうとも思わない。むしろできたことがびっくりだ。
「これは推測だが……近年、人族が魔境へ侵入していることは報告を受けていたんだ。ほとんどが魔晶石を求めるハンターや破落戸だがな。聖女様は瘴気を浄化できる。おそらく、魔境に溢れる瘴気をどうにかしようと考えたんじゃないか。」
「え、一人で、ですか?」
いくら何でも大陸の半分を覆う魔境の瘴気を聖女様一人で浄化するなんて不可能だ。
「さあな。魔晶石を採る間だけなのか、それとも何かしらの媒体の核にでもするつもりだったのか…詳しいことはわからんな。」
「魔銃だ、番隠しだ、と、人族は色々と作り出しますからね。」
人間は文明に魔力を使った。アルバートはそう言っていた。
自分たちの身体でなく、道具に魔力を込めることで発展してきたのだろう。
それでも…
「媒体の核…」
役割ができて嬉しいと言っていた少女をそんな風に使うのは、間違っていると思う。
「もしかしたら、今後もそういった召喚が繰り返されるかもしれませんね。」
「ああ。座標がずれたことは幸運だったな。それも含め、パピノリアと交渉していくことになるだろう。」
団長はそう言った後、はぁとため息を吐き出した。
「やることが目白押しだな。」
「そうですよ。アルバートの余罪の追求と処遇の決定。境の警備と聖女様召喚の禁術化などなど。ですので、休暇は当分諦めてください。」
クロダイン副団長にそう言われ、団長はガックリと項垂れた。
「団長?」
そんなに休暇が欲しかったのだろうか。
普段そんなに休みを欲している感じがしなかったのでちょっと意外だ。なんなら毎年、有給消化するよう副団長に言われていなかったっけ?
不思議に思っていると、団長に少し恨めし気に見つめられた。
「蜜月休暇は獣人の権利だろう?」
「あっ……」
シイラは顔を真っ赤に染めた。
蜜月休暇は通常、結婚後の1週間程度与えられるものだ。しかし“運命の番”に出会った獣人は、その直後から蜜月に入る。そのため申告されたら速やかに与えられるという例外がある。
「とりあえず私はこれを纏めて龍王様に報告してきます。ローゼンは後で報告書として提出するように。」
そう言ってクロダイン副団長は病室を出て行ってしまった。




