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いよいよ本格的に夢を見ているらしい。


耳元に響いた低い声を頭の中で反芻し、大きく息を吸い込んでみた。


私の想像力すごいな。


団長の匂いを感じたのはいつかの戦闘中と庭園の2回だけだ。

それだけでここまで再現するなんて。


夢だとわかっていても、あまりに幸せすぎて。

ずっとこれを願っていたのだと嫌でも痛感させられる。

心臓が飛び出ているんじゃないかと思う程にドキドキして息をする隙間もない程だ。


もう十分。十分だから。

だからもう、やめて欲しい。そろそろ醒めて欲しい。

これ以上この香りに包まれていたら、起きるのが怖くなってしまう。

現実の世界が辛くて仕方なくなってしまう。


そう思うのに、シイラの夢は止まってくれない。



団長がシイラの頬に手を添えて、そっと顔を上に向けた。

金色に輝く髪の下、紫の瞳がシイラを捕える。

そこに自分が映っているのが信じられなくて、瞬きすらできずにただ見つめ返す。


「シイラ・ローゼン。君が好きだ。俺を君の番にして欲しい。」


―――つがい


生涯愛し抜くただ一人の伴侶。


「………ゆめ」


は、まだ醒めない?

そう続けようとした言葉は唇に降りてきた熱で塞がれた。


視界が金色に染まり焦点が合わない。一度少し離れた唇は間髪入れずにまた重なって、まるで夢にすることは許さないというように強い力で抱きしめられる。


「……んっ……ふぁ……んん!」

息が塞がれてどうしたらいいのかわからない。

吐息が漏れる度に、まるでそれすら飲み込まれるようにまた口を塞がれる。


団長とキスをしてる。


その事実が頭に届く頃にはすっかり息があがっていて。

名残惜しそうに離されたところで必死で酸素を求めて息を吸う。


その苦しさが、これが夢でないことの確かな証で。


「っ、はぁ、はぁ……どうして…聖女様が…」


いるのに。

そう思うのに言いたくなくて、口を閉ざす。

鼻の奥がツンと痛んで目頭が熱くなるのがわかって、必死に力を込めた。


番の衝動に引っ張られてしまったのだろうか?

一時の迷いだったと、そう言われれたら耐えられる気がしない。


ふいに反対の頬にも手が添えられて、鼻先が触れあうほど近距離で顔を覗き込まれる。

至近距離で見る団長は、切なさをすべて詰め込んだような不思議な表情をしていた。


「聖女様との婚約は解消した。もともと、奴が帰るまでの仮の婚約だったんだ。でも、俺の気持ちが持たないから、と龍王様に無理を言って解消を早めてもらった。」


「え?」


突然の告白に頭が追い付かない。

仮?仮ってなんだろう?仮の婚約とは?自分の侍女仕事みたいなものだろうか?

アルバートのいる間だけの一時的なそれ。

だとしたら……

ほんの少しだけ芽生えた希望を肯定するように団長が続ける。


「君が好きだと自覚したから。夜会の夜から、いや、たぶんそれよりずっと前から、君に惹かれていた。」


おでこがコツンとぶつけられて、団長が情けない、というように眉を下げた。


「君に告白しに行こうと思ったんだ。すっぱり振られて、諦めてこようと。でも…」


そう言って言葉を切ると、私の目頭の力を抜くように親指で優しく押して、そのまま瞳の形を辿るようにゆっくりと下瞼を撫でた。目の端の水分が団長の親指に乗せられる。


「諦めるなんて、無理だ。」


切なくそう言うともう一度、ゆっくりと唇を奪われた。


「………この涙の分くらいは、自惚れてもいいだろうか?」


困ったようにそう言われて、


涙腺が限界を迎えた。




ぶわっと溢れた涙を、どう止めたらいいのかわからない。


「す、すまない、泣かないでくれ、悪かった」


うろたえたようにそう言う団長の胸に力任せに飛びついた。

大好きな香りがまた広がって、また涙があふれる。


「好きですっ」


勢いのまま、言った。


「ずっと、諦めなきゃって、でもっ」


涙でぐしゃぐしゃで気持ちが上手に言葉になってくれない。

しゃくりあげるように話す言葉はひどく聞き取りずらいはずだ。

それでも、伝えたいのはひとつだけで。


「団長が、好きです」


たぶん、ずっと言いたかった。

初めての発情期を迎えて、団長の姿を目にしたその時から。

否、もしかしたらもっとずっと前から。憧れという感情に置き換えて、誤魔化しながらも心の奥ではずっと惹かれていたのだ。

番隠しをつけても、消えてくれなかった。心の中で想うだけでいいと、そう自分に言い聞かせた。

でも、本当はずっと伝えたかったのだ。


大好きです。あなたが愛おしい。大切なんです。


どれも上手く言葉にならなくて、少しでも伝わるようにしがみつけば、その手を大きな手が包み込んだ。離さない、というように強く握られる。

顎を掬われ、上を向かされると、団長の表情を見る間もなく顔が降りてきて。



さっきよりもずっと長い口づけがシイラの吐息を奪っていった。












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