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23



その姿を見た瞬間、頭の中からアルバートも魔銃もなにもかも飛んでいた。


月の光を受けて輝く黄金。

風に揺れるたてがみと、雄々しく佇む獅子の姿。

金色に輝く中で紫色の瞳だけが、ギラギラと怒りを放つように燃えている。



金獅子が、馬車を見下ろすようにして立っていた。




ああ、団長だ。


獣化した姿を見たこともないのにそう確信していた。

その姿が“金獅子”だから?


いや、きっと、金であろうがなかろうが、自分は彼を間違わないだろう。

だってこんなにも、愛しくてしょうがない。


番隠しがないから?

ピンチの時に助けに来てくれたから?


どんな理由もどうでもいい気がした。


ただ、心から止めどなく溢れてくるのだ。


会いたかった、やっと逢えた、

そばにいきたい、愛おしい


どうして自分は彼と離れているのだろう?

隣にいないのだろう?


泣き出しそうな程の歓喜と切なさが全身を巡る。


紫と薄青が交差した瞬間、こちらを睨みつけていたはずの獅子の瞳が、一瞬安心させるように暖かくなった。

それを目にした途端、身体は本能的に駆け出そうと足を踏み出して―――


「動くなっ!!!」


おそらくそれは、自分と団長の両方に向けられた警告だった。

アルバートが銃口を頭に突き付ける。

獅子に見せつけるかのように、グッと白髪に埋め込むようにそれを近づけ、安全装置をカチリと外す。


「それ以上近づけば、こいつを撃つ」


こちらに駆けようとしていた獅子が動きを止めた。

紫の瞳は視線だけで相手を殺せそうな程怒りに満ち、喉はグルグルと威嚇するような唸り声を発している。尻尾が揺らめいて、低い姿勢へと変わる。

一瞬でも隙を見せれば、まるで狩りをするかのごとく襲いかかるだろう。


アルバートはシイラに銃を突き付けたまま、数歩後ろに下がった。


「そのまま、動くなよ。」


じりじりと後ろに引きずれる。何とか抵抗しようと足を突っ張るが、上手く力の入らない身ではたいした効果はない。



「ヒ、ヒィィィッッ!!く、来るなあっ!!!!」


両者のプレッシャーに耐えられなくなったのか、突然御者が悲鳴を上げ、何かを団長に投げつけた。

ピカッと目の前が明るくなったかと思うと、爆風に次いで大きな爆発音と煙が上がる。



「団長っ?!!!」


思わず叫んだ声は爆発音にかき消された。

耳が痺れ、爆風によって舞い上げられた小枝や小石が顔に当たる。

それが熱風でないことだけが救いだが、この威力を受ければそれが例え照明弾のようなものであってもただでは済まない。


「来いっ!!!」


団長の姿を探そうと目を凝らしていると、襟首をグイっと引っ張られ、アルバートに森の中へ引きずりこまれた。

鼻をつく臭いが辺りを覆う。焦げ臭さともまた違う臭いは魔物除けに家で炊かれるお香に少し似ている気がした。


「魔物用を使いやがって。でもまあ、これで耳も匂いも麻痺してるだろう。」


夜の森に紛れてしまえば、マントを被ったシイラ達の姿を探すのは困難だ。

口を塞がれたまま引きずられる。木の影に隠れたアルバートは銃口を煙の方に向けた。


「ううう~!!!」


「騒ぐな。」


煙が晴れてきて獅子のシルエットが少しずつ見えてくる。

しっかりと立っているように見え、シイラの胸に安堵感が広がった。

獅子は辺りを見回すように首を振っている。


アルバートの指がカチャっと魔獣のトリガーを外す。


「少し弱らせるだけだ。」


引き金に指を掛け、狙いを定める。


―――――ダメッ!!!


咄嗟にシイラは口を塞ぐその腕に噛みついた。


「う”っ!!!っ、このっ!!」


アルバートが痛みに呻き、銃を持っていた方の肘でシイラの腹を殴りつけた。


「ッハァ」


咄嗟に口を離してしまう。

微かな声が聞こえたのか、獅子が一気にこちらに駆けてきた。


「クソッ!!」


獅子に再度銃口を向けるアルバート。

おそらく銃を構えたアルバートの姿は団長から見えていない。

それでも躊躇なくこちらに向かってくる。



『この国では(プラン)は幸運の色と言われていたらしい。』



その言葉がシイラの頭に響いた。






――――――パンッ







引き金を引いたと思った一瞬、アルバートの視界は真っ白に覆われた。

次の瞬間、突き刺さるような痛みに襲われる。


アルバートの腕に真っ白な豹が噛みついていた。


暗闇でもハッキリとわかるほど白い毛並みに、点々と浮かぶ黒い斑。

まるで故郷の雪景色を思わせるようなその色合いに、思わず痛みを忘れて魅入ってしまう。


―――ドンッ


重い衝撃が走り視界が回った。身体が地面に引き倒される。

グルグルと唸り声をあげる金獅子が、馬乗りになり自分を見下ろしていた。


頬にポタリと血が垂れて、獅子の(たてがみ)の一部が血に染まっていることに気づく。


右手に握っていたはずの魔銃は衝撃で離してしまったようだ。

ズキズキと痛みを訴える左腕は持ち上げることも難しい。


ああ、ここまでか。



アルバートは観念するように目を閉じた。










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