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濃い金の髪に神秘的な紫色の瞳。

精悍な顔立ちは優しげだが、どこか隙のない雰囲気を纏っている。

均整のとれた体格によく映える騎士団長の制服と緋色のマント。

第二騎士団団長ライオネル·ダンデリオン。


第二騎士団所属の自分には直接の上司であり、一番に尊敬する人でもある。

訓練や演習でその強さを見る度に、憧れてきた。


第二騎士団内に5つある小隊の一つを任せてくれたのも彼だった。性別や身分に囚われず実力を評価してくれる。そんな人の下だから女のシイラもこうして騎士をやってこれたのだろう。


“金獅子”の異名を持つほどの苛烈な強さに反して、普段は穏やかで冷静な人だ。

端正な顔立ちと華々しい経歴、そして歴史あるダンデリオン侯爵家の長男、そんな人を女性たちが放っておくはずがない。

公開演習ともなれば平民・貴族を問わず多くの女性が彼を目当てに押し寄せるし、他の騎士を通して近づこうと画策したり、贈り物だけでも、なんて誘いもザラである。

自分も騎士団の入団試験の際には、彼目当ての冷やかしだと思われ揶揄われたものだ。


そんな人だが意外にも、結婚や婚約者はおろか、恋人の存在すら聞いたことがなかった。噂だけならごまんとあったが、大抵が自作自演で、団長自身が誰かを特別扱いしているところを見た事がない。騎士団内では一番の難攻不落とささやかれ、いつ結婚するか、相手は誰か、なんて話は賭けの対象になっていた。

ちなみに“聖女”に賭けたものはいないので全員負けである。この国に“聖女”なんていたことがなかったから、仕方ないが。



ど、どどどどうしようーー!!!


病室前に立っている団長。

大部屋のためカーテンで仕切られていたが、ベイルによって開け放たれシイラを隠してはくれない。他の面々も次々にカーテンを開け、動けるものは敬礼し自分たちの上司を迎えている。

自分も身を起こすべきだが、動くとまたラビオリ先生に怒鳴られるだろう。そんなわけでベッドの中からその姿を見上げるしかない。


その紫の瞳と目があった気がして頭の中は絶賛パニックだ。

あの衝動が襲ってきたら自分が何をするかわからない。最悪、腹の傷すら厭わずに抱き着くかもしれない。


団長が“運命の番”なんて、高望みにも程があるでしょう!!


自分の中の獣性を叱ってみるが、当然なんの効果も得られない。

憧れの人をそんな風に認識するなんて、これでは団長目当てと揶揄ってきた奴らに何も言えない。冷や汗すら出てきた気がして、団長からパッと目を離した。


これじゃあただの失礼な部下じゃない!


内心のツッコミつつ、どうにか動揺を抑えようと努力していると、団長の穏やかな声が病室に響いた。


「みんな、ご苦労だった。ひとりも欠けることなく討伐を終えられたのは君達のおかげだ。しっかり休んで怪我を治してくれ。」


「「「「はッ!」」」」


病室の兵士達が敬礼して答える。シイラも横になったまま反射的に敬礼をした。

団長の様子に普段と変わったところは特に見られない。

そういえば私も……?

いつもの動きをしたことがよかったのか、少し動揺が少し落ち着いた。


と、団長がこちらのベッドにやって来る。


「ローゼン、怪我の状態はどうだ?」


「団長、すみません。こんな姿勢で…。怪我は大丈夫です、すぐに復帰します。」


意外と普通に話せる。

なんだ、大丈夫じゃないか?自分。

動揺が引いてしまえば、動悸も冷や汗もなく普段の自分と変わりない。


「何言ってやがる。しばらくは安静だ。」


ラビオリ先生の容赦ない指摘が飛んできた。私の言葉とラビオリ先生の指摘を受けて団長が軽く苦笑する。


「魔物の爪で腹を切り裂かれたと聞いたよ。一番の重症だ、と。しばらくは無理せず、ラビオリ先生の下でしっかり休んでくれ。ベイルフットも、ご苦労だった。」


「ハッ!」とベイルが再度敬礼を返した。私もそれに倣い、ベッドの上で礼をとる。


あれ?なんか団長も普通だ。すっごく普通だ。

少し顔色が悪いような感じはするが、それだけで動揺する様子も苦しそうな様子もない。

冷静で穏やかないつもの騎士団長だ。


“運命の番”はお互いが惹かれあうという。

私も団長も普通で、討伐中に感じた甘い匂いやクラクラする強烈な衝動を感じない。


もしかして――――――私の勘違い!!


結論に至ったところでかぁっと頭に熱が上った。

なんて恥ずかしい奴なんだ、自分。自惚れにも程がある。


おそらく急に真っ赤になったからだろう。私を見下ろす団長が怪訝そうな表情に変わった。


「顔が赤いぞ。やはりまだ状態が良くないのか。」


「あっ、いえ!そのようなことはっ!」


「今の君はまったく匂いがないからな。何か変わったことがあれば早めに言いなさい。」


「匂い?」


そういえば、団長もベイルもいるのに彼らの匂いを全く感じない。

いつもは誰かが近づいてくれば匂いで気づくのに。


「獣性抑制剤を使っているからな。」

ラビオリ先生が肩を竦めて答えてくれた。


そうか。これが獣性が抑え込まれてるってことか。

あれ?じゃあ“運命の番”の匂いもわからない?


“運命の番”は己の獣性が教えてくれるという。それが抑え込まれているのだ。わからなくても不思議はない。

そもそも獣人の恋愛は匂いが自分と合うかどうかが重要だ。匂いがしないということは“番”の認識も難しいのかもしれない。


クンクンと自分の腕を嗅いでいると、団長の後ろからクロダイン副団長が入ってきた。濃い灰色の髪とシルバーの眼鏡が冷たい印象を放っている。再び敬礼で迎える皆に対し、スッと頷きだけで返すと、団長に声をかける。


「団長。聖女様の準備が整ったそうですよ。」


「ああ、わかった。すぐに行こう。――――それじゃあ、よく休んでくれ。」


もう一度病室全体にそう声をかけると、団長は副団長とともに踵を返して出て行った。


「さっそく聖女様が浄化に行くのか。団長が直接行くなんて、さすが婚約者だな。」


ベイルが関心したように言った。


「そうだね。」


“婚約者”


その言葉にドクンと心臓が跳ねた。


そうだよ。団長は聖女の婚約者だ。

“運命の番”なんて、私の勘違いに決まってる。



胸が痛い気がするのも、たぶん気のせいだ。






表記と視点の統一を図り中です。

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