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ライオネル・ダンデリオン(5)



――――――数刻前



足早に駆ける侍女殿が案内したのは、アルバート殿下がいるはずの貴賓室だった。


「緊急事態だ、通してくれ!」


扉の前にいた護衛に叫ぶと押し入るようにして扉を開けた。


「誰もいない?」


室内は人気がなく飲み残した後の紅茶のカップが2つ置かれているだけだった。

はぁはぁと侍女が息をつく音だけが響く。


「どういうことだ?」


「少し、前に、シイラさんを、こちらに案内しました。」


息を整えながら侍女殿が説明してくれる。


「アルバート殿下から自国に誘われた、と。」


「なにっ?!」


「断るつもりだと言っていました。それで、早く返事をしたいから、と。」


なぜアルバート殿下が?

いや、それより自国に誘われたとはどういう意味だ?

騎士として?それとも……


「ッ!」


ソファ近くに足を進めた瞬間、微かな甘い香りが鼻を掠めた。

紅茶の匂いとは明らかに違う芳香にドクンと心臓が鳴った。


これは“番”の匂い!!


数日前の戦闘中に感じた香りだ。

あの日血だまりとともに失ったはずの香りが、なぜ?


ドクドクと心臓が嫌な音を立てて騒ぎ立てる。


「これは…?」


反対側から紅茶を確認しようと手を伸ばした侍女殿が、何かを床から拾い上げた。


「指輪?」


それを見た瞬間、ライオネルの頭にシイラの指輪が浮かんだ。


そうだ、指輪を着け始めたのはいつからだ?


討伐の後、復帰の挨拶に訪れた時には着けていた。

だが、それ以前に見た記憶はない。


討伐時に一番の重症を負ったというシイラ。

治療には獣性抑制剤が使われていた。


“番”の血だまりを発見したライオネル。


『たぶん、自分で買ったんだと思いますよ。あれたぶん“番隠し”ですし。』


シイラの友人が言っていた言葉が蘇る。


“番隠し”


番から隠れたかった理由があるという。


それは、まさか――――――





気づけば駆け出していた。

後ろから自分を呼ぶ声がした気がするが構っている余裕などなかった。


薬で抑えている獣性を呼び起こす。


何をやっているんだ、


目の前の“番”にも気づかずに何が“金獅子”だ!!!



駆ける足は徐々に2本から4本に。

全身は金色の毛で覆われ、同じく金色のたてがみが走る動きに合わせて揺れる。

口から吐く息は徐々にグルグルと威嚇するような音に変わった。


そんな自分の姿に気づくことなく夜の闇を駆けていく。



自分は何をした?!


“番”の存在に気づいたにも関わらずみすみす重傷を負わせた。

あまつさえ、それに気づきもせず絶望し。


(シイラ)の前で婚約者をつくり。


シイラの前でドレスや靴を贈りパートナーとしてエスコートした。


虚無感に襲われるたびにシイラに救われていたのに


周囲を威圧するほど惹かれていたのにグダグダと言い訳をして


騎士失格なんて尤もらしい言葉で自分の恐怖心を押し付けた。




シイラが“番隠し”をつけるのも当然だ。


こんな“番”になど見つかりたくないと、思われても仕方ない。




訓練中や戦闘中、あらゆる場面のシイラが浮かんでくる。


いつからなんてわからない。


大きなキッカケがあったわけじゃない。


それでも


真面目で、負けず嫌いで、努力家で、


単純で、ちょっと暴走しやすくて、


殴り合いの喧嘩もするのに、道端の花が好きだったり


こそこそ隠れて小鳥に話しかけてみたり


そんな何気ないことに少しずつ惹かれていった。



そうだ。


自分はもうずっと前から、あの白に触れてみたいと思っていた。




拒否されるかもしれないだとか、

シイラの気持ちが、とか

そんなことはもうどうでもよかった。



指を咥えてみているだけなんてできない。


そう思ったのは“番”だと知る前からだ。



罵りも誹りも甘んじて受けよう。


だから


その声をもう一度聞かせてほしい。


二度と誰かに奪われるようなことはさせない。




獅子の咆哮が夜の暗闇に響き渡った。








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