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沢村花音



はあ。


大きなため息をついた花音の前にそっと紅茶が差し出された。


「ありがとう。」


ミルクの入ったそれを一口飲むとホッと先程とは違うため息が漏れる。


「やっぱりレーナのミルクティーは美味しいね。」


以前は水だけ飲んでさっさと寝ていたのに、今では飲まないと眠れない気がしてくるほど就寝前のお茶という文化に馴染んでしまった。


「ありがとうございます。」


レーナがいつものように頭を下げる。


「…レーナは好きな人とか、いる?」


ミルクティーのカップ両手で持ち、中身を揺らしながら花音が小さな声で尋ねた。


「はい。おります。」


「えっ!そうなの?だ、誰?どんな人?!」


思わぬ返答に驚き腰を浮かせながら、矢継ぎ早に質問する花音。

それに対し、レーナはにっこり笑うだけだ。


「う~~~。」


しばらく粘っていた花音だが、やがて諦めたように視線を外しソファに座りなおした。


「みんなちゃんと恋してるのね。私も、と思ったんだけどな。」


はあとため息を吐く。


「私の世界ではね、異世界に転移したり転生するお話がたくさんあったの。」


「そういったことが多くあるという事ですか?」


レーナが訝し気に聞く。


「ううん。その、ファンタジーっていうか、現実には起きない創作のお話なの。だから、こっちに来た時そんなことが本当に起こるんだってびっくりしたな。最初は乙女ゲームの世界かと思ってちょっとわくわくもしたの。でもすぐ違うってわかったんだけどね。だって龍王様には番のクレアスティーネ様がいるし。あんなイケメンな人、攻略対象でしょ、絶対。それに龍王様以外にも……」


花音はカップを握りこんだまま俯いた。


「お話の中ではさ、主人公は必ず渡った世界の人と恋をするんだよね。王子様とか、魔法使いとか……騎士とか。

………婚約者になるって言われた時、ああこれかなって嬉しかったの。この人と恋をするためにこの世界に来たのかな、なんて。仮だってわかってたけど、こういう感じから始まるのかなって。だって、すごい恰好いいし、優しいじゃない。だから…そうなったらいいなって。」


あっさり解消されちゃったけどね。


そう言ってカップを持ったまま立てた両膝に顔を埋めた。

レーナが何も言わずに花音の手からカップを取り上げる。


「こぼれてしまいますので。」


「ああ、ごめんね。ありがと。」


花音が顔を上げて力なく笑う。


「……心の中は自由ですから。」


「へ?」


「誰を想うも想わないも、自由です。それに、花音様には“聖女”という立派な役割があります。」


レーナがいつもと変わらない淡々とした口調でそう言った。


「……そっか。」


「はい。」


「…ふふふ。そうだね。」


花音の顔にじわじわと笑みが広がった。


「やっと“花音”って呼んでくれた。」


「……私室内ですから。」


「そうだねっ!」


ニコニコと笑う花音に対し表情のないレーナ。しかしその瞳はどこか暖かだった。



――――コンコン、コンコン


やや強めに部屋の扉がノックされた。


「こんな時間に誰かしら?」


花音には就寝前に尋ねてくるような人に心当たりがない。


「お待ちください。」


レーナがそう言って扉を開けると、さっきまで話題に話に上っていたライオネル・ダンデリオンが立っていた。


「ダンデリオン閣下、このような時間に「ライオネル様!どうしたんですか?」


レーナが苦言を提そうとした声を遮って駆け寄ってしまった。


もしかして、婚約のことかも!


あっさりだと思ってたけど、そういえば龍王様から解消すると言われたけだけだったわ。

ライオネル様からはまだ何も聞いてない。


そんな花音の淡い期待はすぐに砕かれた。


「不躾な時間に申し訳ない。少し侍女殿をお借りしてもいいでしょうか?」


「え、レーナを?」


予想外の言葉に駆け寄った姿勢のまま固まる。

そんな花音の様子を否、と受け取ったのかライオネルが少し早口で説明した。


「部下のシイラ・ローゼンを捜しているのですが、侍女殿と一緒にいるのを見た、と聞きましたので。」


よく見れば額には汗が浮かび表情には焦りが見てとれる。

穏やかで優しい顔しか見たことのなかった花音には初めて見るライオネルの動揺した姿だった。


「シイラさんを?」


ライオネルの言葉にレーナが鋭く反応した。


「捜しているとは?帰っていないのですか?」


厳しい顔でライオネルに詰め寄り問いただす。

冷静なレーナのそんな顔も花音は初めて見た。


「ああ。同室の者が帰ってこない、と。」


ライオネルがやや押されぎみに答えると、レーナは少し考え込むようにした後、パッと踵を返した。


「誰か龍王様に連絡を。ダンデリオン閣下は私と一緒に来てください。」


扉の前にいた騎士とライオネルにそう言うと、レーナは駆け出した。


2人に置いていかれた形になった花音はポカンとしたままその場に立ちすくした。


何があったのかよくわからない。

ただひとつハッキリしているのは

2人があんな顔をして焦っているのはシイラのためだということだけだ。




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