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ライオネル・ダンデリオン(4)



「なるほど。」


事の経緯を一通り聞いたラビオリはそう言うと長いため息を吐きだした。


「それはもう、獣性のせいじゃないだろう。あんたの気持ちの問題だ。薬でなんとかしようなんて思うな。」


正論中の正論を返される。

ライオネルは再び押し黙るしかなくなった。


「はあ。ローゼンの彼氏?いるとは思えないが、そいつに断りを入れて、サクッと気持ちを伝えて振られて来い。初恋の坊主じゃあるまいし、派手に振られりゃ諦めもつく。気持ちも落ち着くだろう。」


「そうかもしれないが…」


簡単にできたら苦労はしない。

そう思いながらライオネルは項垂れた。


「まったく。まあまずは婚約解消が先か?どっちにしろ、早いとこ玉砕してこい。それでも暴走するようなら考えてやる。」


「花音殿との婚約は作戦終了とともに解消されている。」


夜会の翌日、ライオネルから龍王へ願い出たのだ。

作戦が終了したら速やかに婚約者の座を降ろしてほしいと言うと、不貞腐れたような顔をしながらもしぶしぶ了承してくれた。

仲人がうまくいかなくて不満な親戚の叔父さん、といった風だ。


「なんだ。道理で噂だけで婚約式すらしないわけだな。それなら次やることは決まってるじゃねえか。とっとと行ってこい。んでその綺麗な面を一発殴られて来い。」


人よりよっぽど綺麗な顔をした奴が何を言っているのか。

そう思ったが、シッシッと追い払うように手を振られ、しぶしぶ部屋を出た。

何が悲しくて自分の執務室から追い払われなければいけないのか。



とりあえず詰所に行こう。

どうするかはそこで決めればいい。


悪あがきするような気持ちでしぶしぶ足を向けると途中で詰所に向かう人影を見かけた。


なんでこういうタイミングで…


薄暗い辺りに紛れそうなこげ茶の髪は間違いなくベイルフットだ。

ラビオリが殴られて来いと言った、シイラの彼氏、その人である。


彼は明るく表裏のないいい奴だ。

シイラだって陰口を叩かず正面からぶつかっていく彼がいたから、女だからとバカにされずに騎士団に入っていけたのだろう。

そう思うと横恋慕している自分がひどく場違いに思える。


それでも、何もせずに指を咥えてみていることはできない。



ライオネルが声を掛けようとした時、ベイルの後方から彼を呼ぶ声がした。


「ベイルっ!ちょっと!」


ベイルを呼んだのはリコリスだった。その手には白い小さな薔薇が握られている。


「これ、あんたでしょう?!」


睨むように薔薇を突き付けながらリコリスが問いただすと、ベイルは照れたように頬を掻いた。


「いや、綺麗に咲いてたからさ。」


「部屋のドアに挿すだけじゃ、私かシイラかわからないじゃない。」


「いや、あいつ花なんて愛でないだろ。」


その言葉を聞いてライオネルは胸にムカムカとした気持ちが広がるのを感じた。

シイラは意外と花や小鳥といった小さなものが好きだ。訓練の合間に小さな花を摘んだり、休憩時間に庭園を見に行っていることをライオネルは知っている。


「そうじゃなくて、あ~、もう!」


リコリスが焦れったそうに呻る。それを見てベイルが柔らかく笑った。


「俺、今度こそ勝つから。絶対。だから、演習日の翌日は休み取っておいて。」


「……怪我して動けないから?」


「えっ!違うよ!デート!!デートしてって迎えに行くから!!」


「嫌よ。」


「エ"っ!!」


ベイルの顔が絶望に染まった。


「デートなんでしょ。急に迎えに来られても、女には色々あるの。だから、ちゃんと申し込んでくれないと。」


リコリスが拗ねたような口調で言う。ツンとしたその声に反して頬は赤く染まっていた。

釣られるようにベイルの顔も真っ赤になる。


「んんん"。リコリスさん、絶対勝つので俺とデートしてください。」


変な咳払いをしてからベイルが真剣な顔でそう言った。


「……はい。」


小さな声でリコリスがそう答える。

2人が見つめあい、照れくさそうに笑っ


「ちょっと待った。」


た、かと思われたところでベイルの肩をライオネルが掴んだ。


「え"っ?!だ、団長っ?!!」


ベイルが驚いて振り返るがライオネルはそれどころではなかった。


「どういうことだ?お前、ローゼンと付き合ってるんじゃなかったのか?」


事と次第によってはぶちのめす。

その思いが顔に出ていたのか、ベイルが若干怯えながら焦ったように首を振る。


「いやいやいや。そんなわけないっす。俺は女の子が好きだし、ずっとリコリス一筋っす!」


シイラだって女の子だろうが。

ライオネルが凄んで睨むとベイルはますます慌てて目を泳がせる。うっかり告白したことにも気づいていない様子だ。


「指輪を贈ったんじゃなかったのか?」


「ゆ、指輪?」


「ああ、シイラが着けてたあれですか?」


リコリスがそう言ってポンっと手を叩いた。


「ああ。」


「たぶん、自分で買ったんだと思いますよ。あれたぶん“番隠し”ですし。」


「「番隠し?」」


ライオネルとベイルの声が重なった。リコリスはちょっと驚いた風に目を見張る。


「騎士団ってみんなこうなのかしら…。そうです。番をわからなくするアクセサリー。こないだ私がもらった“番隠し”を見て、『それだ!』って叫んで走って行きましたし、最近匂いも薄かったですから。たぶん……番を見つけたくない理由でもあったんじゃないですか?」


そう言いながらチラッとライオネルを見た。


「なんだってそんなモノを…」


シイラが番を見つけたくない理由を「ライオネルに片思いしているからだ」と言いたいリコリスだが、全く意図は伝わらないようだ。


「はあ。そうだ、団長さんこっち来るまでにシイラ見ませんでした?」


「いや、見てないが…?」


「あれ?じゃあそっちでもないんですね。夕飯の時間過ぎたのに部屋に帰って来ないから、てっきり団長さんのとこに行ったのかと思ったんですけど。」


じゃあラビオリ先生の方かな。


そう呟くリコリスの声を聞きながら、なぜかライオネルは焦燥感が強くなっていくのを感じていた。

ラビオリは先ほどまでライオネルと一緒にいた。シイラは見かけていない。

頭がガンガンするような、嫌な予感が止まらない。


「探してくる。君たちも、もし見つけたら執務室にくるよう伝えてくれ。」


2人にそれだけ言い残すとライオネルは走り出した。

急げ、急げ、と誰かに急かされるように走る速度が上がっていく。


「団長」


柔らかい白色が頭の中で揺れていた。




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