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ライオネル・ダンデリオン(3)





騎士失格だ。


先ほど部下に向けた言葉をライオネルは自分に吐き棄てた。


どの口が彼女を責められるのだろう。

冷静さを欠いた自分にその資格はない。


あの時、ロイドを捕縛するため丘の中腹に潜伏しようとしたライオネル達が見たのは、ロイドと戦闘するシイラの姿だった。

木漏れ日をはね返すように光る白髪が剣を交える度に風になびいている。


どうして?


そう思う前にライオネルは動いていた。


ロイドがシイラに馬乗りになり剣を突き立てる。

その後ろに音もなく近づくと、ロイドの首に剣をあてた。

そのまま掻き切らなかったのは僅かでも理性が残っていたからだろうか。


普段は抑えている獣性がコントロールできないほどに暴れる。

これほどの怒りを感じるのは久しぶりだ。

周りの騎士達が威圧され動けないだろうこともわかっていたがライオネルは殺気を抑えることができなかった。


彼女に触るな。


馬乗りになっているロイドを引き剥がそうとしたところで、パンッという乾いた音が耳に届いた。


そこからのことはまるでスローモーションを見ているかのようだった。

シイラがロイドを引き寄せその首筋から血が流れる。

弾はロイドの脇腹に命中しその身体が振動で小さく跳ねた。

シイラの上に血が広がっていく。

それはまるで彼女が撃たれたかのようで、ライオネルはすぐに動けなかった。


「しっかりしろ!!」


ロイドに呼び掛けるシイラの声に呼び戻される。

ハッと気づいて止血のため処置を始めたが、心臓は痛いくらい脈打ち冷や汗が止まらなかった。


彼女を喪ったかと思った。


あまりの恐怖に威圧が霧散したのか、騎士達が動き出す。

それを視界に捕え救護班を呼ぶ。合図のために挙げた手は震えていなかったと信じたい。


彼女の瞳を見てしまえば、自分が何をするかわからない。

ライオネルは彼女に経緯も聞かず、感情のまま責めそのまま逃げた。










移送中にクロダインがシイラから経緯を聞きこちらの説明もしてくれた。

蓋を開けてみれば原因は単純な伝達ミスだ。


同時になぜ単独で捕縛に行ったのかも想像がつく。

真っ直ぐで情に厚い性格の彼女だ。

スパイのような活動をしている同僚を止めようとしたのだろう。


はああと重いため息を吐きだす。


あの夜会の日。

彼女の髪を綺麗だと思った、あの日にライオネルは自分の気持ちを自覚した。


職場の部下であり同じ職場の彼氏もいる。

自分は番を失ったばかりだ。


そんなことがどうでも良くなるくらい、彼女に惹かれた。


あの髪に指を絡めてみたい。

口づけたら甘いだろうか。


バカみたいな考えが巡って仕方なかった。

職権乱用などしたことがなかったのに、気づけばシイラに絡んでいた令息達に辺境任務を勧めていた。


10も年上で職場の上司でもある。

彼女にこの気持ちがバレてはいけない。


そう思っていたのに勝手な独占欲は強くなるばかりで。

訓練中に見学に来た彼女の、侍女姿を他の団員に見せることすら怒りを覚えた。


このままでは任務に支障をきたす。


そう感じていた先に起こった事件。

騎士達を威圧した己の獣性。

もし狙撃犯が騎士団を狙っていたら、ライオネルの威圧のせいで動けなかった騎士達はいい的になっていただろう。


もう一度ため息を吐きだしたライオネルの元に、ロイドが一命を取り留めたとの報告が入った。

正直死んでもかまわないと思っていたが、色々な経緯を聞き出す必要があるだろう。

容態を含めて情報が欲しいと言えば、後ほどラビオリが報告に来ると言われた。


執務室の机の引き出しをそっと開ける。

中には“獣性抑制剤”が入っている。

ライオネルの獣性を抑えるためにラビオリに処方してもらっているものだ。

劇薬だから、といつも容量を渋って渡してくる彼に頼むしかないだろう。









ライオネルの要望は案の定却下された。

「これ以上強くはできないよ。」


ロイドの治療を終え、疲れた顔をしたラビオリが鋭い口調でライオネルに否を告げる。


「頼む。少しくらいの副作用は構わないから。」


それでもライオネルは食い下がった。

これ以上獣性を暴走させるわけにはいかない。


「無理だよ。獣性抑制剤は劇薬だって前も言っただろう?用法を超えて処方はできない。

今でさえギリギリの量なんだよ?それ以上増やしたら、目の前の相手の匂いすら感じなくなる。君が探してる番だって……」


「番など、どうだっていいさ。」


ラビオリの言葉を遮るように言った。

失ったかもしれない番に対してライオネルはもう何の感情も抱いていなかった。

それより彼女への気持ちの方が問題だ。


「獣人の言葉とは思えないね。とにかく、無理だ。身体に負担がかかりすぎる。」


ライオネルの言葉にため息を吐いてラビオリはもう一度はっきりと否を告げた。


「どうしてそんなに強くしたいのさ。今の量でだって獣性のコントロールは十分出来てただろう?」


不機嫌そうな顔のままラビオリに尋ねられ答えに窮した。

正直に話さない限り、この医師は絶対に薬を出さないだろう。


ライオネルはため息を吐きだして経緯を説明し始めた。




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