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暴力・流血表現があります。



どっちが先だろうか。


現実的にはロイド卿だが、潜伏しているであろう彼らを見つけ出すのと、レーナさんが花音様を連れてくるの、どちらが早いかはシイラ次第だ。


アルバート殿下の帰国日。

朝のうちに花音様とレーナさんに挨拶を済ませると、騎士団に呼ばれていると偽りそのまま城下の丘へと向かった。



町の中心から少し離れたところにあるこの丘は、背の高い木々が覆い茂っているため一見小さな山のようだ。中は階段が整備され東屋も多く造られている。

頂上にはピクニックのできる公園があり、そこから王都の景色を一望できるため、休日は家族連れやカップルにも人気のある場所だ。平日の今日は入り口付近を散歩する人が数人いる程度で中にはほとんど人もいない。


目立たないよう、私服に着替え丘の階段付近から捜索していく。

攫うとなれば逃げやすい入口近くか、人目につかない中腹か。


気配を探りながら木々を回り込むように覗いて辺りを探っていると、黒いフードを被った人物が木々の間に隠れているのを発見した。


ロイド卿、一人?

あたりに協力者のような人影は見つからない。


攫うとなれば数人がかりだろうと思っていたが、よほど腕に自信があるのか、人目につかないことを優先したのか。


慎重に短剣を構えそっと近づく。木々が多く狭い場所ではレイピアは向かない。

ロイド卿が階段に集中している隙に、背後から近づき一気に短剣を振りかざした。


殺気に気づいたのか、ロイド卿が素早く振り向き腰の剣で応戦する。

鞘がついたままだが銀色のそれは鉄製のようで短剣は容易く弾かれてしまった。


「っ!お前はっ!!」


ロイド卿が驚きに目を見張るが、シイラは次の攻撃に移る。

不意打ちは速さが重要なのだ。


「ロイド・クライム。聖女誘拐未遂の嫌疑だ。大人しく連行されろ。」


無駄とは思いつつそう言いながら肘や肩を狙って短剣を撫でるように滑らせる。

しかしロイド卿もタガーを持っていたようで、こちらの攻撃を正確に逸らし、カウンター越しに反対の腕に持った剣で足元をすくわれる。


「両効きか。」


軽いステップでそれを躱しながら思わずチッと舌打ちが漏れた。

仕方なく距離をとる。


「侍女なんてやってるわりに腕が立つんだな。」


ロイド卿が腰の剣を抜き構えた。


「お前の主は帰った。諦めろ。」


シイラもあらためて短剣を握りなおした。大剣に対するには不利だが木々の茂る狭い場所であればむしろこちらに利がある。


「……っ!俺の主はあの方だけだっ!!」


激高したように声を荒げ、ロイド卿が大剣を振りかざしてくる。

素早くそれを躱し低くしゃがんだ姿勢のまま足元を短剣で切りつける。


実力的には互角か、相手のほうが少し上だろう。

シイラがいくら獣人とはいえ男女の力の差もある。戦闘が長引けば勝ち目はない。


「あの方?王太子とかいうクソ野郎か?」


わざと挑発してみれば、ロイド卿が纏う雰囲気が一気に苛烈なものへ変わった。

振り下ろされる剣が一気に重くなる。


「侮辱は許さん。」


タガーを投げ捨て両手で剣を構えたロイド卿は続けざまに攻撃を仕掛けてくる。

シイラの頬を大剣がかすめ、血が流れた。


っつ!躱しきれないっ!


一気に速度の上がった剣を短剣で受けるが腕が痺れ握っているがやっとだ。

下からの払いを避け上体を逸らしたところで、急に軌道を変えた剣が振り下ろされる。

咄嗟に短剣で軌道を逸らすが、手から弾かれる。と、急に視界が揺れ、眩暈を感じると同時にシイラは地面に倒された。

ロイド卿が馬乗りになって剣を突き付ける。


「っ、頼むから、邪魔をするなっ!!」


シイラを見下ろすその顔は悲愴に歪んでいた。


なんで、そんな顔を?


なぜかその顔が泣いているように見えた。

気づいた時には喉元の剣も忘れその表情(かお)に手を伸ばしかけていた。




「動くな」


突然、ロイド卿の首筋に剣が突き付けられた。


「だ、団長」


馬乗りになったロイド卿の背後に団長が立っていた。

いつの間に…そう言おうとするが、ビリビリと肌を刺す威圧に無意識に身体が震えだす。

団長はただ静かに立っているだけだ。

表情はなくひどく冷静に見えるのに、彼の周りの空気が息をするもの困難なほどに重い。

いつの間にか周りを囲んでいた騎士達も、誰一人として動くことができない。


痛いほどの静寂の中、パンッという微かな音が耳に届いた。


目の前の身体を引いたのはほとんど反射だった。

喉の剣がシイラの首に筋を描く。同時に腕に引き寄せたロイド卿の身体が跳ねた。


「え?」


ロイド卿の脇腹が血に染まった。


「襲撃だ!逃がすな!!」


団長の怒号が飛び、周囲の騎士達が一斉に動き出す。


「しっかりしろ!!」


声をかけながら両手でロイド卿の脇腹を押さえ止血するが出血が止まらない。

大きな血管を傷つけたのだろうか。


「貸せっ!」


ぐったりとシイラの上に倒れこんだロイド卿を、団長がグイっと起こし地面に寝かせた。

自身のマントを外し脇腹を縛り上げる。緋色のマントがみるみる赤黒く染まっていった。


「なんで?!」


周囲に協力者はいなかったはずだ。

彼の主の仕業だろうか?


マントの上から傷を押さえて更に止血を図る。ロイド卿は辛うじて息をしているが、意識はなくみるみる顔色が蒼くなっていく。


「魔銃だろう。隣国で使われ始めたと聞く。」


「魔銃?」


「魔晶石を込めた銃で、遠距離からの射撃も可能な武器だ。こいつを移送する。君も。」


団長が腕を上げると数人の騎士が簡易担架を持って駆け寄ってきた。


「出血が多い。あまり動かすな。」


そう指示を出しながらシイラの腕を引き立たせる。

ズキっと痛みが走り、腕からの出血に気づいた。先ほど銃が掠めたのだろう。


「君も行きなさい。」


「あ、いえ、自分は……」


「単独行動を許可した覚えはない。」


大丈夫、そう言おうとした言葉を遮るように団長が硬い声で言った。


「今日の君は騎士失格だ。」


厳しい声でそう言い渡すと捜索を続けている騎士達の方へ歩いていった。



ああ、本当に。

私は何をやっているんだろう。






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