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あ、頭が痛い。
結局あの後、リコリスと一緒に訪れた部屋で、メイドの先輩方に絡まれ励まされ、そして散々飲まされた。
おかげで立派な二日酔いである。
今まで騎士団の仲間と夜通し飲んでも二日酔いなんてしたことなかったのに。
メイドさんは時に騎士より強いのかもしれない。
頭痛を振り切ろう紅茶の香りを吸い込む。すっきりとしたレモンティーの香りがありがたい。
「一昨日は本当に可憐な姿でしたね。」
アルバート殿下がティーカップを傾けながら花音様に言った.
「あ、ありがとうございます。その…たくさん足を踏んじゃってごめんなさい。」
向かいに座る花音様が申し訳なさそうに答える。
アルバート殿下からの希望で花音様と午後のお茶会となった今日。
聖女様は婚約者のいる身なので、と断ろうとしたが、部屋ではなく庭園の東屋でと提案されれば了承するしかない。
そもそも本来こういった茶会は王妃様が行うものなのだが。
龍王様が王妃様を隠してしまっているのでしょうがない。なんでも子ども好きなクレアスティーネ様がアルバート殿下を可愛がることを警戒しているらしい。昨日の夜会も体調が優れないと言って欠席していたという。おそらく断固阻まれているのだろう。
「羽のように軽やかだったのでまったく気になりませんでしたよ。」
女性への気遣いはさすが王子様だ。
15、16のといえば人間は思春期だと聞く。そんな時期に歯の浮くような台詞をサラッと言えるなんて。
孤児院の悪ガキたちとは比べものにならないな。王族と孤児を比べること自体失礼な話だが。
アルバート殿下はもう立派な紳士なのだろう。
「アルバート様は明日帰国されるんでしたよね?」
花音様が照れたように話を変えた。
「はい。本当はもっと長く学ばせてもらいたいところなのですが…。兄のこともあるので。」
「お兄様ですか?」
「はい。僕の兄は頭もいいし穏やかで優しいんです。ただ、あまり身体が丈夫でなくて。ただでさえ王太子として無理を重ねるところがあるので心配で。」
「お兄さん思いなんですね。」
花音様の言葉に、アルバート殿下が照れたように微笑んだ。
獣人の国と違って人族の国は血筋で王が決まると聞いたことがある。
ドロドロとした後継争いの話ばかりイメージしていたので少し意外に感じた。
ふと、鋭い視線を感じた気がしてポケットの中で短剣を握る。
東屋にいるのは花音様とアルバート殿下。そこから少し離れたところに自分とレーナさん、反対側にロイド卿が立っている。
そのさらに奥は騎士たちが警護しているはずだが、庭園の垣根ではっきりとした姿は見えない。
間者?いや、でも一瞬で消えた?気のせいか…
警戒するように視線を巡らせていると、
「何かありましたか?」
背後からレーナさんに声を掛けられた。
「あ、ちょっと視線を感じた気がして。気のせいだったみたいです。」
その声に必要以上にビクッとしてしまう。
どうしよう。昨日のこと…聞いてみるべきかな?
しかし本当にレーナさんだったという確証はないのだ。
ロイド卿とレーナさんの様子をさり気なく観察しているが、二人は特に話す様子もない。
やっぱり人違いだったのかな。
「本当なら私は花音様を自国に連れ帰らないといけないんでしょうね。」
そんな話が聞こえてきて、意識はアルバート殿下たちの会話に戻った。堂々たる誘拐宣言だろうか?
「え?」
花音様が驚いたように聞き返す。
「龍王様から聞いていませんか?我が国があなたの召喚に関して権利を主張していること。」
「あの、それは…昨日ちょっとだけ…」
花音様が気まずそうにそういった。
「兄上の周囲がそう主張しているんですが、もし本当なら権利の主張の前にはっきりと謝罪しなければいけないところです。あなたに許可なく召喚したうえ、場所も龍王様の執務室だったと聞いていますから。」
アルバート殿下が眉を下げてそう言った。
「ただ、正確なことが分からない現状では、国として謝罪することはできないんです。私個人としては申し訳ないと思っているのですが…」
「いえ!そんな!どうして召喚されたのかはわかりませんが、私としてはむしろよかった事が多いですし。」
花音様が慌てて首を振った。
「聖女としての皆さんのお役に立てますし、この国の人はみんな親切にしてくださってます。」
「……素敵な婚約者様もいらっしゃることですし?」
アルバート殿下がいたずらっぽく笑って言うと、花音様が顔を真っ赤に染めた。
「そ、それはっ!」
「本当に絵になっておられましたよ。あんな素敵なお二人を引き離すわけにはいきませんから。兄上は私が説得しますので、ご心配なく。……警戒しないでほしいというのは無理でしょうが、これからも少しずつでいいので仲良くして頂けると嬉しいです。」
「も、もちろんです!」
少し寂しそうに笑ったアルバート殿下を励ますように、花音様が大きく頷いた。
「そういえば、その婚約者様のいる騎士団はいつも城内の訓練場で訓練をしているんですよね。」
少し重くなった空気を変えるようにアルバート殿下が明るい声で話題を変えた。
「ええ。そうみたいですね。」
花音様はそう言いながらチラッとシイラのほうを見てきた。
うん。可愛らしいけどダメですよ。
シイラが騎士であることはアルバート殿下達には秘密なのだ。でなければわざわざ侍女に扮した意味がない。
花音様の目配せに気づかないふりをして、新しいお茶をそっと注ぐ。
「この後見学させてもらう予定なのですが、よければ一緒に行きませんか?僕も金獅子と呼ばれる将軍にはずっと憧れていて。」
「わあ!いいですね。私も一度見てみたいと思ってたんです!」
アルバート殿下の提案に花音様が嬉しそうに同意した。




